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悠久の王・キュリオ編
素性の知れない姫君Ⅰ
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「この子が私を選んで来てくれたのならこれ以上幸せなことはない。どんな困難からも必ず守ってみせる」
(お前が抱えきれぬものを持って生まれてきたのなら、そのすべて私が引き受けよう――)
自身の衣を握って眠る赤子の手に手を添える。キュリオが想いを伝えるように目を閉じると、腕の中のアオイが身じろぎする気配がした。
「…………」
目を開いた視線の先では、起き抜けの眼差しで何か言いたげにこちらを見つめるアオイがいた。
「姫様がお目覚めのようですな」
「そのようだね。おはようアオイ」
「……んぅ、……」
「うん? ……あぁ、そろそろミルクの時間だな」
まるで対話しているかのように言葉を紡ぐキュリオにガーラントの目尻が下がる。
キュリオは早々に侍女を呼びつけミルクを持ってくるよう指示すると、次の瞬間には赤子をあやしながら室内を歩きはじめた。
「アオイはダルドが好きかい?」
「……?」
「ふふっ、ダルドはお前が可愛くて仕方ないという様子だったね。よい関係を築ける間柄になってくれたら私も嬉しい」
まだ記憶の中の人物と名前を結びつけることができないアオイは瞳をパチクリさせながらキュリオの言葉に聞き入っている。
「彼はしばらくここに滞在する。何度か顔を合わせればアオイもダルドのことをすぐに覚えるだろう」
指先でやさしく頬をくすぐると誘発されたように笑顔を見せたアオイの手がヒラヒラと宙を舞って、顔を寄せたキュリオの頬へとたどり着いた。しっとりと吸いつくような赤子の手のひらに唇を押し当て、愛しい娘のぬくもりを感じたキュリオは誰にも語れぬ背中合わせの想いに胸を焦がす。
(……アオイが皆に愛されるのは嬉しい。だが、お前を一番愛しているのは私だ――)
その様子をやさしく見守っていたガーラントはアオイに降りかかる不安を吹き飛ばすように明るく言い放つ。
「ふぉっふぉっふぉっ! そのように寄り添われている限り、どんな運命もおふたりの邪魔は出来ますまい!」
「あぁ、運命など私が如何様にも変えてみせる」
この時、キュリオが誓った言葉に偽りはなく、彼女に降りかかる運命という名の悲劇に彼は真っ向から立ち向かうことになる。
――コンコン
『失礼いたしますキュリオ様。ミルクとお飲み物をお持ちいたしました』
赤子の食事を手にした侍女が戻ると再び腰を下ろしたキュリオ。
温められたミルクを受け取りながらも、その瞳が見つめる先はアオイではなかった。
「…………」
「……如何なされましたかな?」
「アオイの食事は別の者へ頼むしかなさそうだ」
キュリオは名残惜しそうにアオイを侍女へ預けると、少し離れた場所へミルクを与えるよう指示を出す。すると間髪入れずに再び扉の外から声が掛かった。
『キュリオ様、ブラスト殿がいらっしゃいました』
彼を招き入れるようキュリオの合図を確認した別の侍女が扉を開く。
「ブラスト参りました!」
なにごとにも熱い彼はこの時間になってもまだまだやる気のようだ。
腕を捲り、いまもなお成長を続ける鍛え上げた筋肉が唸りをあげているように見える。
「遅い時間にすまない。ガーラントの隣に座ってくれるかい?」
「はっ!!」
手際のよい侍女がそれぞれのカップへ新たな紅茶を用意すると、キュリオはアオイを抱いている侍女以外の従者へ退室を促す。
そのやりとりを見守っていたブラストは何やら深刻な話をされるかもしれないという覚悟を求められた気がした。
「……っ」
(……キュリオ様はカイのことでなにか……)
偉大な銀髪の王に呼び出されただけでも緊張に胃液が上がってきそうだ。
大勢の前で言われるのと違い、人目を忍んで顔を合わせるというのはそれなりの理由があるからだ。
「君を呼んだのは"使者"として運んでもらった書簡の中身と、出揃った返事についてだ」
「は、はっ!!」
膝の上で拳を握りしめながら前のめりになるブラスト。額には玉のような汗が滲んでいる。
「あれは聖獣の森に置き去りにされていた赤子の身元を調べるための書簡だ」
「せ、聖獣の森に……? なんて愚かな……っ……」
ただの人間ではそこに近づく事も許されない聖なる地。
太古より生きる聖獣は人の気配や心に敏感で、大抵は森の奥深くに身を隠し姿を見せないものだ。
しかし、その美しき容姿のために悪事を働く輩がいる。いつの日かキュリオがダルドを守ったように、愚かな猟師(キニゴス)が後を絶たないのが現状だった。そして聖獣が幼子を襲ったという事例は聞いたことがないが、それでも鋭い角に突かれてはひとたまりもない。置き去りにした者の命などさらに危険なはずだ。
「あぁ、しかし彼女の肉親は悠久に存在していないことがわかった」
「……なんです、と……?」
まさかそのような言葉が出てくるとは思いもよらなかったブラストは目と口を大きく見開いている。
「四大国の回答も該当なしという結果に終わった」
「あ、ありえるのでしょうか……? そのようなことが……」
(お前が抱えきれぬものを持って生まれてきたのなら、そのすべて私が引き受けよう――)
自身の衣を握って眠る赤子の手に手を添える。キュリオが想いを伝えるように目を閉じると、腕の中のアオイが身じろぎする気配がした。
「…………」
目を開いた視線の先では、起き抜けの眼差しで何か言いたげにこちらを見つめるアオイがいた。
「姫様がお目覚めのようですな」
「そのようだね。おはようアオイ」
「……んぅ、……」
「うん? ……あぁ、そろそろミルクの時間だな」
まるで対話しているかのように言葉を紡ぐキュリオにガーラントの目尻が下がる。
キュリオは早々に侍女を呼びつけミルクを持ってくるよう指示すると、次の瞬間には赤子をあやしながら室内を歩きはじめた。
「アオイはダルドが好きかい?」
「……?」
「ふふっ、ダルドはお前が可愛くて仕方ないという様子だったね。よい関係を築ける間柄になってくれたら私も嬉しい」
まだ記憶の中の人物と名前を結びつけることができないアオイは瞳をパチクリさせながらキュリオの言葉に聞き入っている。
「彼はしばらくここに滞在する。何度か顔を合わせればアオイもダルドのことをすぐに覚えるだろう」
指先でやさしく頬をくすぐると誘発されたように笑顔を見せたアオイの手がヒラヒラと宙を舞って、顔を寄せたキュリオの頬へとたどり着いた。しっとりと吸いつくような赤子の手のひらに唇を押し当て、愛しい娘のぬくもりを感じたキュリオは誰にも語れぬ背中合わせの想いに胸を焦がす。
(……アオイが皆に愛されるのは嬉しい。だが、お前を一番愛しているのは私だ――)
その様子をやさしく見守っていたガーラントはアオイに降りかかる不安を吹き飛ばすように明るく言い放つ。
「ふぉっふぉっふぉっ! そのように寄り添われている限り、どんな運命もおふたりの邪魔は出来ますまい!」
「あぁ、運命など私が如何様にも変えてみせる」
この時、キュリオが誓った言葉に偽りはなく、彼女に降りかかる運命という名の悲劇に彼は真っ向から立ち向かうことになる。
――コンコン
『失礼いたしますキュリオ様。ミルクとお飲み物をお持ちいたしました』
赤子の食事を手にした侍女が戻ると再び腰を下ろしたキュリオ。
温められたミルクを受け取りながらも、その瞳が見つめる先はアオイではなかった。
「…………」
「……如何なされましたかな?」
「アオイの食事は別の者へ頼むしかなさそうだ」
キュリオは名残惜しそうにアオイを侍女へ預けると、少し離れた場所へミルクを与えるよう指示を出す。すると間髪入れずに再び扉の外から声が掛かった。
『キュリオ様、ブラスト殿がいらっしゃいました』
彼を招き入れるようキュリオの合図を確認した別の侍女が扉を開く。
「ブラスト参りました!」
なにごとにも熱い彼はこの時間になってもまだまだやる気のようだ。
腕を捲り、いまもなお成長を続ける鍛え上げた筋肉が唸りをあげているように見える。
「遅い時間にすまない。ガーラントの隣に座ってくれるかい?」
「はっ!!」
手際のよい侍女がそれぞれのカップへ新たな紅茶を用意すると、キュリオはアオイを抱いている侍女以外の従者へ退室を促す。
そのやりとりを見守っていたブラストは何やら深刻な話をされるかもしれないという覚悟を求められた気がした。
「……っ」
(……キュリオ様はカイのことでなにか……)
偉大な銀髪の王に呼び出されただけでも緊張に胃液が上がってきそうだ。
大勢の前で言われるのと違い、人目を忍んで顔を合わせるというのはそれなりの理由があるからだ。
「君を呼んだのは"使者"として運んでもらった書簡の中身と、出揃った返事についてだ」
「は、はっ!!」
膝の上で拳を握りしめながら前のめりになるブラスト。額には玉のような汗が滲んでいる。
「あれは聖獣の森に置き去りにされていた赤子の身元を調べるための書簡だ」
「せ、聖獣の森に……? なんて愚かな……っ……」
ただの人間ではそこに近づく事も許されない聖なる地。
太古より生きる聖獣は人の気配や心に敏感で、大抵は森の奥深くに身を隠し姿を見せないものだ。
しかし、その美しき容姿のために悪事を働く輩がいる。いつの日かキュリオがダルドを守ったように、愚かな猟師(キニゴス)が後を絶たないのが現状だった。そして聖獣が幼子を襲ったという事例は聞いたことがないが、それでも鋭い角に突かれてはひとたまりもない。置き去りにした者の命などさらに危険なはずだ。
「あぁ、しかし彼女の肉親は悠久に存在していないことがわかった」
「……なんです、と……?」
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