【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

文字の大きさ
18 / 211
悠久の王・キュリオ編2

愛にあふれる夜、永遠を夢見て…

しおりを挟む
 この悠久の地に奇病や不可解な怪我などはほとんど存在しない。具合の程度で魔法の難易度は少々上がるが、ヴァンパイアの王が気を失うほどの怪我ならばまず、同等の者から受けたダメージと考えてほぼ間違いないだろう。

(流れ出る血液の量から見ても……これは刺し傷ではないな)

 必然的に<精霊王>エクシス以外が候補に上がるが、懐の深い<革命の王>エデンが神具を抜くとも思えない。
 よって、候補から最後まで外れなかった灰色の王ならばやりかねない……と、何となく納得できてしまうのは好戦的な<冥王>の性格上しょうがないことなのかもしれない。

(……相手はマダラか……)

 キュリオは一瞬考えて。
 空いた手で宙に一線を引くと、魔導師にしか解読できない銀色の文字が浮かび上がってキュリオの前で緩やかな曲線を描く。そしてそれは蛇のようにゆったりとした動作でキュリオの持つクロウへ伸びて巻き付いた。

 銀の文字列はぼんやりと淡い光を湛え、クロウの体へやんわりと絡みついて浮かび上がる。
 一歩下がったキュリオの手を離れたそれは、一定の場所へ留まってクロウの心身の治癒へと移行したようだ。

「輝きが消えるころには傷も癒えているだろう」

 踵を返した銀髪の王は室内へ戻ると、アオイがいるベッドへ向かおうとして立ち止まる。

「…………」

(穢れを落とすのが先だな)

 足早に浴場へ向かった彼は一足先に全身を清めてからバスローブへ身を包むと、再びアオイの待つベッドへ戻る。

「待たせてしまったね。さぁ湯浴みへ行こうか」

「きゃはっ」

 大人しく抱きかかえられた赤子は瞳を輝かせながらキュリオを見上げている。
 
「ふふっ、お前が"お父様"と呼んでくれる日が待ち遠しいよ」

 ティーダに接する態度とは一変、ほころぶような笑顔を見せたキュリオの心はとても穏やかで優しい愛に包まれている。
 自身のバスローブを脱ぎ捨てながらアオイのドレスを丁寧に脱がせると、素肌が触れ合う心地よさに目を細めたアオイが胸元に顔を寄せてきた。触れ合った部分から伝わる吸いつくような瑞々しさと赤子らしい高めの体温が愛しさに拍車をかける。

 アオイが驚かないよう徐々に湯の中へと足を進め、適度な場所に留まってから自身の膝の上へ向き合うように彼女を座らせる。バランスを崩さないようしっかり両腕で支えてから話しかける。

「私はお前の望みはなんでも叶えてやりたいと思っている。
……その代わり……私の望まないことは全力で阻止する。……時には私の想いが強いばかりに、お前の気持ちを握りつぶしてしまうこともあるだろう」

「……お前には重すぎる愛になるかもしれないが……もう手放すことはできない」

「…………」

 アオイの瞳からは笑みが消え、言葉はわからずとも聞き入っているように見える。そしてしばらくの沈黙ののち――

「きゃあっ」

 小さな手がキュリオの顔目指して伸びてくる。きっと今のアオイも同じ気持ちなのだろう。互いに顔を寄せあったふたりの心は幸せな未来を予感し、その瞳はともに歩く永遠を夢見ていた――。
    
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...