【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

文字の大きさ
95 / 211
悠久の王・キュリオ編2

嫉妬の矛先

しおりを挟む
「キュリオ様、御食事はどちらでお召し上がりになられますか?」

「……湯浴みが先だな。食事は私の部屋へ頼む」

 ダルドと別れたキュリオとアオイの後ろを女官と侍女らがついて来る。
 颯爽と歩くキュリオの銀髪がサラサラと流れ、その上方では彼に抱かれた幼子が王の肩口からひょっこり顔を出し、後ろを行く彼女らに愛らしく笑いかけている。

「畏まりました。明日の御予定はお決まりですか?」

「明日はアオイも連れて行こうと思っている。世話をする侍女を数名、夜明けと共に出発させてくれ」

「承知致しました。直ちに手配いたします」

 アオイに笑顔に癒されて、顔が緩んでいる侍女らへ女官が視線で合図すると彼女らは顔を引き締めて頷き、散々になっていく。

 長い階段を終え、一際豪華な最上階へと辿り着いたキュリオは月明りの差し込むバルコニーで足を止めた。
 腕の中のアオイへと目を向けると、同じくして月から視線を外した彼女を視線が絡む。

「お前とこれほど長く離れていた日はなかった。今日という一日をアオイが何を見て何を感じていたか……私に教えてくれるかい?」

「……?」

 すべてを見透かすような空色の瞳が、アオイの心を覗き込むように真っ直ぐ降りてくる。
 まるで「なぁに?」とでも問いかけるようにアオイが小首を傾げてこちらの瞳を覗き込んでくる。

「ああ、すこし言葉が長かったね。アオイ、今日も楽しい一日だったかい?」

 その表情が一瞬でも陰ることはないか?
 "水の間"での出来事をアオイの記憶から遠ざけるように。楽しいことを思い出させようとキュリオは言葉に気をつけながら語り掛ける。

「へへっ」

 理解できたらしいアオイの顔は花が咲いたようにパッとほころんで。
 
「わんわんっ」

 大切そうに抱きしめていた両手の中からアレスが作ってくれたぬいぐるみをキュリオの顔の傍まで持ち上げる。
 
「これは……ウルフとラビット?」

 大きく頷いて再び胸に抱いたアオイはよほど気に入ったようだ。
 
「お前が私を想ってくれる時間が減ったのはそういうことだったか……」

 独り言のように呟いたキュリオ。
 アオイの寂しさが紛れたというのは嬉しいことだが、ぬいぐるみへ嫉妬の感情を抱くなど、アオイがいなければ生涯縁のないことだっただろう。
 キュリオの目に映るふたつのぬいぐるみ。それらはかなり繊細に作られていたことから、裁縫の得意な侍女が作ったのかとキュリオは思ったが、のちに差し出された女官の報告書によってそれがアレスのお手製だと知り……嫉妬の矛先がややアレスに向いたのは言うまでもない。

「……?」

 キュリオの言葉に反応して首を傾げるアオイの頬を撫でながら、形のよい唇に弧を描いて語り掛ける。

「ああ、こうして私の腕の中へ戻って来るのならすこしの冒険は許そう」

 この後、湯殿へぬいぐるみを持っていこうとするアオイと、それを阻止しようとするキュリオの攻防が部屋で待機する女官らの耳に入り……この微笑ましいやりとりは忽(たちま)ちに城を駆け巡って皆の知るところとなるのだった――。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

体育館倉庫での秘密の恋

狭山雪菜
恋愛
真城香苗は、23歳の新入の国語教諭。 赴任した高校で、生活指導もやっている体育教師の坂下夏樹先生と、恋仲になって… こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった後、異世界に転生した高校生、鬼島迅。 そんな彼が生まれ落ちた家は、貴族。 しかし、その家の住人たちは国内でも随一、乱暴者というイメージが染みついている家。 世間のその様なイメージは……あながち間違ってはいない。 そんな一家でも、迅……イシュドはある意味で狂った存在。 そしてイシュドは先々代当主、イシュドにとってひい爺ちゃんにあたる人物に目を付けられ、立派な暴君戦士への道を歩み始める。 「イシュド、学園に通ってくれねぇか」 「へ?」 そんなある日、父親であるアルバから予想外の頼み事をされた。 ※主人公は一先ず五十後半の話で暴れます。

処理中です...