【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

文字の大きさ
111 / 211
悠久の王・キュリオ編2

一国の王として…

しおりを挟む
 朝の湯浴みを終えて広間へと姿を現したキュリオとアオイ。中庭へと続くテラスへ出るとひんやりとした朝の空気を肌に感じながら風の中に混じる悠久の大地の香を取り込む。
 今日も変わらぬ美しく穏やかな悠久の国。王が途切れぬ限り、この平穏は永遠に続くに違いない。

「………」

(しかし逆を言えば……王がいなければ成り立たない世界、か……)

 王が居ない世界を知らないキュリオだが、王が居なくなった場合どうなってしまうか? 想像すると心が痛む。
 そうなってしまっては、この五大国で圧倒的不利になるのは悠久の民だからだ。
 他四大国の民は個々の能力や寿命に長けており、狩られるのは力を持たない悠久の民であろうことは明らかだった。

(……王に依存した世界……)

 それが正しいのか間違っているのかはキュリオにもわからない。
 だが、初めから不平等下に成り立っているこの世界が均衡を保つためにも王は必要だったのかもしれない。

(ならば同じ人種で成り立っている世界に、王はいないのだろうか……?)

 キュリオとて理屈上、自身が見ているこの世界ばかりではないことはわかっている。

「いつか会えるだろうか……異世界の王に」

 <初代王>の思念体と出会ってからというもの、どのような目的でこの世界が創られたか……その部分を考えずには居られないのだ。

「いや、あまり遠くを見すぎるのはよくないな。私にはこの国と……この子がすべてだ」

「…………」

 自身の腕の中からジッとこちらを見上げているアオイはまるで話を聞いているように耳を傾けていたが、愛にあふれたキュリオの視線が絡むと、その大きな瞳は弧を描いて嬉しそうに笑った。
 ふたりの間に甘やかな時間が流れ、もうしばらくこうしていたいと望むキュリオの願いは早々に打ち砕かれた。

「キュリオ、アオイ姫!」

「キュリオ様……っアオイ姫様!!」

「おかえりなさいませ! キュリオ様、アオイ姫様!!」

 息を弾ませて広間へと飛び込んできた三人の声が変わらぬ日常を思い出させてくれる。
 一日ぶりの再会となった腕の中のアオイも気づき、満面の笑みと声を上げて彼らを迎える。

「君たちの笑顔を見ていると、いま私のすべきことが鮮明に見えてくるよ」

「んー? いまのキュリオ様がすべきことって……朝食を食うことかっ!」

「はぁ……キュリオ様がそんなことで御悩みになるわけないだろ」

「きゃははっ」

 カイとアレスのやりとりをいつも楽しそうに見ているアオイはふたりの明るい雰囲気が大好きなようだ。

「おはようアオイ姫。……どうしたのキュリオ。なにかあった?」

 ダルドがアオイを見つめるとき、その切れ長の瞳はとても優しくあたたかな光を宿すことに彼は気づいているだろうか?

「……なんと言えばいいかな。そこに答えがあるのかと思っていたが……」

 珍しくキュリオの歯切れの悪い言葉にダルドは眉をひそめて言葉を紡いだ。

「何があっても僕はキュリオの判断に従うよ。いつだって君は正しいから」

「……ダルド、ありがとう」

(ダルドの信頼を裏切らぬよう、私も期待に応えなければならないな)


 数多の命運を握るキュリオが判断を誤るわけにはいかない。
 それが如何に辛く、悲しい決断を迫られたとしても――。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

侯爵様、その溺愛は違います!

みおな
恋愛
 私、レティシア・ダイアンサス伯爵令嬢は現在岐路に立たされている。  何故か、王太子殿下から執着され、婚約の打診を受けそうになる。  ちなみに家族は、私よりも妹が相応しいと言ってはいるし、私的には喜んで譲ってあげたい。  が!どうにも婚約は避けられなさそうだし、婚約者のチェンジも無理の様子。  そこで私は、苦肉の策に出ることになる。

悪役令嬢が攻略対象ではないオレに夢中なのだが?!

naomikoryo
ファンタジー
【★♪★♪★♪★本当に完結!!読んでくれた皆さん、ありがとうございます★♪★♪★♪★】 気づけば異世界、しかも「ただの数学教師」になってもうた――。 大阪生まれ大阪育ち、関西弁まるだしの元高校教師カイは、偶然助けた学園長の口利きで王立魔法学園の臨時教師に。 魔方陣を数式で解きほぐし、強大な魔法を片っ端から「授業」で説明してしまう彼の授業は、生徒たちにとって革命そのものだった。 しかし、なぜか公爵令嬢ルーティアに追いかけ回され、 気づけば「奥様気取り」で世話を焼かれ、学園も学園長も黙認状態。 王子やヒロイン候補も巻き込み、王国全体を揺るがす大事件に次々と遭遇していくカイ。 「ワイはただ、教師やりたいだけやのに!」 異世界で数学教師が無自覚にチートを発揮し、 悪役令嬢と繰り広げる夫婦漫才のような恋模様と、国家規模のトラブルに振り回される物語。 笑いとバトルと甘々が詰まった異世界ラブコメ×ファンタジー!

伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき
ファンタジー
 停戦中の隣国の暗殺者に殺されそうになったフェルナンド・ガジェゴス伯爵令息は、目を覚ますと同時に、前世の記憶の一部を取り戻した。  どうやらこの世界は前世で妹がやっていた恋愛ゲームの世界であり、自分がその中の攻略対象であることを思い出したフェルナンド。  だがしかし、同時にフェルナンドがヒロインとハッピーエンドを迎えると、クーデターエンドを迎えることも思い出した。  もしクーデターが起これば、停戦中の隣国が再び侵攻してくることは間違いない。そうなれば、祖国は簡単に蹂躙されてしまうだろう。  後味の悪いハッピーエンドを回避するため、フェルナンドの戦いが今始まる!

処理中です...