【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

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悠久の王・キュリオ編2

サイドストーリー15

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「次の者、前へ!」

 ピリッと空気が張り詰めるのがわかった。今、この場に集っているおおよそ十数名は少なからず魔法に自信を持つものばかりなのだ。魔法と剣を得意とする悠久の王の前でその力を披露するというのは、王宮に仕える魔導師となることを望んでいるのは明らかであるため厳しい視線が飛び交うのもわかっていた。
 次々と的を外し脱落者が出るなか、エリザはマイラたちに問う。

「ねえ皆、魔導師としての人生を本当に望んでいるのよね?」

 言われた三人はそれぞれ地を見つめたあと顔を上げてこう言った。

「あたしは人の役に立てるなら魔導師もありなんじゃないかって、思えるんだ」

 マリ―の言葉にマイラもシンシアも力強く頷く。

「私たち四人が揃って魔法を使えるなんて運命だと思わない? ずっと一緒に居たいって願った親友だよ?」

「うん……私も最初はお母さまの言っていることが嫌でしょうがなかった。だけどこうしてエリザや皆と一緒に居られるなら私は魔導師を目指したい」

「……そうね。夢を諦めたあたくしが言える立場じゃないけれど、応援するわ。あたくしのやり方でね」

 意思の強い眼差しが三人をしっかりと捉える。

(このままの実力では王宮に召し上げて頂くなんて到底無理だわ……。だけど策はある。あたくしが皆のサポートにまわれば……いけるわ!)

 次々と脱落していく者たちを他所目に、意を決したエリザたちの出番がやってきた。

「次の者、前へ!」

 マリ―が先陣切って前へ進み出ると、壇上にあがった四人は暴れる心の臓をなんとか抑えつつ頷き合う。

「あたしから行くよ!! マリ―! 行きます!」

 姉御肌のマリ―が雅なドレスを掴み大股で歩く頼もしい後ろ姿には心底勇気づけられる。

「……」

 そして、彼女の後方に静かに歩み寄ったのはエリザだ。
 誰にも気づかれないほどに息を潜めた彼女の動きは目を見張るものがある。

「貫け! あたしの魔法よ!!」

 一点に狙いを定めたマリ―のそれは完璧に思えた。手の平から放たれた水飛沫は一陣の渦を巻く竜巻のように一直線に的へと向かって速度を上げる。
 だが、かなり距離のある小さな的にたどり着く前に軌道は大きく失速し逸れていく……

「……」

 目を閉じたエリザはマリ―を通して水の軌道をいち早く読んでいた。
 起動が逸れると同時にエリザから放たれた風が乱れた軌道をを修正し、その勢いに追い風を用いて加速させる!

「エリザ……!」

 彼女の様子に気づいたシンシアが嬉しそうにその名を呼ぶと同時に的に激突したマリ―の水飛沫はその場の歓声と共に宙に散った――。

「や、やったーー!!」

「おおおぉおおっ!! あの姉ちゃんやりやがった!!」

「キュリオ様……いまのは……」

 エリザの手助けが働いていたことをもちろん知らぬキュリオらではない。喜ぶ当人らに水を差すようで悪い気もするガーラントは、これが公平なものであるかどうか……キュリオの判断を仰ごうと言葉を待つ。

「わかっている。壇上にあがったのがひとりであったのなら問題だったな」

 中断を指示しないキュリオに一礼したガーラントは次に進み出た、炎をその手に抱くくせ毛の少女を見つめる。

「マイラ! 行きます!!」

 緊張した面持ちで挑んだ少女の背後にもまた、風を操るエリザが立っていた。

「……」

(マイラは力の加減がなっていないのは相変わらずのようね)

 手の中で安定しない炎を見るからに昔からの癖は抜けていないようだ。少し嬉しくもあるエリザは口元に優しい笑みを浮かべる。

(キュリオ様が御覧になるのは的に当たるところは当然、その過程も見られているに違いない……)

「力を抜いてマイラ。大丈夫、あなたなら出来るわ」

「……エリザ、うんっ!」

 誰よりも優れ、観察眼のある彼女が自分を見てそう言ってくれるのだから、きっと大丈夫。不思議とそう思うと手の中の炎が安定してくるのがわかった。

「いっけええっ!!」

 声高らかに言葉を発したマイラの炎は真っ直ぐに放たれて軌道もずれることなく的をめがけて突進していく。
 しかし……目を疑うような光景が安堵したエリザを襲った!

「……っ!?」

 マイラの炎が勢いよく軌道を変えて自分に向かってきたのである。

「きゃああっ!!」

 エリザ以外の者の目には、マイラの炎は見事的を射抜いたに過ぎなかった。
 突如悲鳴をあげて壇上に倒れたエリザにシンシアが駆け寄る。

「エリザッ!?」

 何事かと会場がざわつく中、たったひとりほくそ笑む女がその場を離れようとに数歩後退った。

「熱いっ! 誰か、助けっ……」

 エリザがなりふり構わず手足をバタつかせるも自身を襲う炎は自慢の髪や肌を焼き尽くす!
 息を吸うにも焼け付いた炎が気道を塞ぎ、体の内側が灼熱の炎に支配され、死を覚悟した次の瞬間――
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