【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

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悠久の王・キュリオ編2

サイドストーリー20

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 その頃、王の怒りに空気を凍てつかせた一室では、氷のような眼差しに射抜かれた踊り子が全身を恐怖に震わせて床にひれ伏していた。
 固唾をのんだ一行が張り詰めた空気を漂わせる美しいキュリオの横顔と惨めな女の姿を見守るなか、古びた杖を手にした老人が王に囁いた。

「キュリオ様、キュリオ様は城に戻られては如何でしょう。この者に罰をお与えになる役目は儂にお任せください」

「…………」

(最良な裁きはこの者の力を封じ、今後の動向を監視していくことだろう。だが……)

 横目でエリザの様子を見つめたキュリオは、しばし思案し口を閉ざす。

 穏やかな口調でそう進言したガーラントの声を後ろに聞きながら、一刻も早くこの愚か者へ罰を下しアオイのもとへ向かいたい気持ちが大きくなっていく。

 彼の右腕であるガーラントはキュリオの心をいつでも尊重し、立場上行動が制限されるこのような場面での代役を自ら買ってでてくれることが近頃増えた。
 かつてのキュリオならば公務を最優先にし、自分の用事に席を外すことなど考えられなかった。しかしアオイがやってきてからというもの、キュリオの心にはいつもアオイがおり、口にはしないが紛れもなく優先順位の一位には彼女がいるのだ。
 そんな立場に縛られた不憫なキュリオを誰も責めることはできない。
 いままで誰の愛も必要とせず、しかし平等に愛を向けていた彼が唯一、愛し愛されることを望んだ相手……それがアオイという小さな存在なのだから。

「……どのような裁きを下すかは彼女の意見を聞くとしよう。
君はどうしたい? 投獄を望むならそれもいい」

 罪人を冷たく見下ろしていたキュリオの視線がエリザへと向けられ、彼女の周囲で取り巻いていたマイラたちは一斉にエリザを見やる。

「……わ、わたくしは……」

 被害者たるエリザの気が少しでも晴れるよう、望みを聞こうとしてくれているこの麗しい王の心使いにますます胸は震える。

(キュリオ様は宴を台無しにされたことを御怒りでもあるのかと思ったけれど、わたくしのことを思ってくださってるのだわ……)

 危害を加えられた者の怒りや悲しみを癒すにはせめてその者たちが望む裁きを下すことである。
 あまりに軽い裁きは被害者に無念や喪失感を与え、ますます苦しみに苛まれてしまうことは少なくない。だからこそ寄り添ってやらなければならないことをキュリオたちは重々心に刻んできたのである。
 だからと言って重すぎる裁きを与えるつもりはないため、やはり慎重にならざるを得ない。

 ただの幻術と甘く見て命を落とす者も多い危険な術であることに変わりはないが、使い方によっては人の心を救うこともできる素晴らしい術であることは誰もが知っている。
 そして彼女が過去に幾度も罪を重ねてきた術者ならば、あのような怯え方などしないのではないだろうか? という少しの同情の気持ちさえ湧いてくる。

「せめてその力を誰かの助けのために役立てて欲しいと……望みます」

「……っ!」

 まさか恨みを放ったエリザにそのような逃げ道を用意されるとは思わず、ビクリと背を震わせた踊り子の女はキュリオに畳みかける。

「……っい、命の限りキュリオ様に御仕え致しますっ!! 必ずキュリオ様の御役に立ってみせま……」

 捲し立てるように懇願する踊り子の声を不協和音の奏でる耳障りな音とばかりに眉をひそめたキュリオ。エリザを見つめる眼差しとは真逆の冷えた視線を女へ向ける。

「……私の役に立つ? 彼女の言葉を聞いていなかったのか?」 

「……あ、あぁ……」

 いまにも盛大なため息が聞こえてきそうなキュリオの口調に、言葉を誤ったことに気づいた踊り子の女はもはや絶望しかない。
 首をはねられてしまうかもしれないという考えにまで陥った女は発する言葉さえも忘れてしまった人形のように口を開閉させることしかできずにいる。

 キュリオの怒りに静まった室内の沈黙を破ったのはやはりこの人物だった。

「ふむ。キュリオ様。恐れながら儂の考えで申し訳ないのですが――」

 ガーラントの思いもよらぬ提案にキュリオは、このあと城へ戻る決意を固める。
 そして数時間後……悠久の城ではこの場にいる女たちは顔を揃えることになるのだった。
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