159 / 211
悠久の王・キュリオ編2
サイドストーリー19
しおりを挟む
「どう? キュリオから返事はあった?」
前かがみにアレスの手元を覗き込んだダルドの肩から白銀の髪がさらりと流れた。
アオイの口から予想だにしなかったカタナという言葉について調べていたダルドはようやく手掛かりを得て、至急キュリオらに言葉を送るようアレスに依頼していたのである。
「御覧になっているようですが……まだ返事は来ておりません」
机の上に広げられた四隅に呪文の書かれた紙を固唾をのんで注視していたアレスがダルドの声に顔をあげた。
――バタンッ
『アレス!』
幼い姫の戻りを心待ちにしながら彼女の夕食の支度をしていた侍女らは、大扉が勢いよく開け放たれた音と彼の名を呼ぶ声を同時に聞いて目を見開いた。
『……は、はいっ!』
遠目にもわかるほど神妙な面持ちの彼は手に分厚い書物を小脇に抱えており、その表情と書物がどう結びつくのかを早くも予想し始めたアレスはやはり頭の回転がいい。
(ダルド様が御持ちのあの書は見たことがない……。新しい魔導書を見つけられたか、もしくは魔導書内に欠陥を見つけられたか……)
どちらにせよ彼の顔を見るからに良い知らせではないことは確かだ。ダルドに漂う不穏な気配に自然とアレスは心構えるも、彼に声をかけられることなど滅多になく緊張したアレスが彼の許(もと)へ行くよりも早く、人型聖獣の彼がこちらにやってきた。
『キュリオに言葉、届けられる?』
『……え?』
長身の彼を見上げながら驚き口を開けたままのアレスにダルドは眉根を寄せて言葉を発する。
『……できる? できない?』
『で、できます! ダルド様、こちらへっ!!』
公務へ出掛けているキュリオに言葉を送りたいと言うからに、よほどのことなのだろう。不安と少しの期待を抱いたアレスは連絡用に託されている例の紙を取り出して机の上に広げ、ダルドの言葉のままに羽ペンを走らせたのだった――。
「アオイ様のことですし、何かしらの返事は来ると……」
口では平静を装いながらも、アレスは紙に書かれたダルドの言葉の意味を幾度も頭の中で反芻していた。
(……アオイ様が知り得ないことを口にされた? ……これは刃物を意味する文字だ……)
”刀”この単体の文字を書くようダルドに支持されたアレスだったが、カイが練習用に使用していた木刀にも使われるこの文字がさほど重要なものとは思えず、それがかえってアレスの視線を釘付けにさせた。
(ダルド様からこの件に関して詳細を聞くことは恐らくできない)
それを証拠に彼が相手として選んだのがキュリオなのだ。そして緊急事態であることは今の状況を見ればわかる。キュリオが帰城するのを待たずに言葉を伝えたいのだから。
そうなると必然的に気になるのは幼い姫のことだ。
(……アオイ様は? キュリオ様が御不在で寂しがられている以外に変わったことは――?)
思案を巡らせるうちに視界の端にダルドの持つ書物が目に入った。
(”刀”についての手掛かりが書かれているのをダルド様が見つけられた……ということだろうか)
<鍛冶師>であるダルドが開ける魔導書はアレスには開くことができない。だからこそ個々の能力が生きてくるのかもしれないが、王ともなればあらゆるものに目を通すことが可能なのだ。そして王に次ぐ実力者であるガーラントならばそれを開くことは可能かもしれない。キュリオやダルドに聞くのは困難だが、ガーラントならば教えてくれるかもしれないという期待がアレスの心にひっそり芽生える。
だが、勤勉であるが故のアレスの探求心は時として仇になることがこれから先、多々起きてしまうとはまだ彼自身思ってもみなかっただろう――。
前かがみにアレスの手元を覗き込んだダルドの肩から白銀の髪がさらりと流れた。
アオイの口から予想だにしなかったカタナという言葉について調べていたダルドはようやく手掛かりを得て、至急キュリオらに言葉を送るようアレスに依頼していたのである。
「御覧になっているようですが……まだ返事は来ておりません」
机の上に広げられた四隅に呪文の書かれた紙を固唾をのんで注視していたアレスがダルドの声に顔をあげた。
――バタンッ
『アレス!』
幼い姫の戻りを心待ちにしながら彼女の夕食の支度をしていた侍女らは、大扉が勢いよく開け放たれた音と彼の名を呼ぶ声を同時に聞いて目を見開いた。
『……は、はいっ!』
遠目にもわかるほど神妙な面持ちの彼は手に分厚い書物を小脇に抱えており、その表情と書物がどう結びつくのかを早くも予想し始めたアレスはやはり頭の回転がいい。
(ダルド様が御持ちのあの書は見たことがない……。新しい魔導書を見つけられたか、もしくは魔導書内に欠陥を見つけられたか……)
どちらにせよ彼の顔を見るからに良い知らせではないことは確かだ。ダルドに漂う不穏な気配に自然とアレスは心構えるも、彼に声をかけられることなど滅多になく緊張したアレスが彼の許(もと)へ行くよりも早く、人型聖獣の彼がこちらにやってきた。
『キュリオに言葉、届けられる?』
『……え?』
長身の彼を見上げながら驚き口を開けたままのアレスにダルドは眉根を寄せて言葉を発する。
『……できる? できない?』
『で、できます! ダルド様、こちらへっ!!』
公務へ出掛けているキュリオに言葉を送りたいと言うからに、よほどのことなのだろう。不安と少しの期待を抱いたアレスは連絡用に託されている例の紙を取り出して机の上に広げ、ダルドの言葉のままに羽ペンを走らせたのだった――。
「アオイ様のことですし、何かしらの返事は来ると……」
口では平静を装いながらも、アレスは紙に書かれたダルドの言葉の意味を幾度も頭の中で反芻していた。
(……アオイ様が知り得ないことを口にされた? ……これは刃物を意味する文字だ……)
”刀”この単体の文字を書くようダルドに支持されたアレスだったが、カイが練習用に使用していた木刀にも使われるこの文字がさほど重要なものとは思えず、それがかえってアレスの視線を釘付けにさせた。
(ダルド様からこの件に関して詳細を聞くことは恐らくできない)
それを証拠に彼が相手として選んだのがキュリオなのだ。そして緊急事態であることは今の状況を見ればわかる。キュリオが帰城するのを待たずに言葉を伝えたいのだから。
そうなると必然的に気になるのは幼い姫のことだ。
(……アオイ様は? キュリオ様が御不在で寂しがられている以外に変わったことは――?)
思案を巡らせるうちに視界の端にダルドの持つ書物が目に入った。
(”刀”についての手掛かりが書かれているのをダルド様が見つけられた……ということだろうか)
<鍛冶師>であるダルドが開ける魔導書はアレスには開くことができない。だからこそ個々の能力が生きてくるのかもしれないが、王ともなればあらゆるものに目を通すことが可能なのだ。そして王に次ぐ実力者であるガーラントならばそれを開くことは可能かもしれない。キュリオやダルドに聞くのは困難だが、ガーラントならば教えてくれるかもしれないという期待がアレスの心にひっそり芽生える。
だが、勤勉であるが故のアレスの探求心は時として仇になることがこれから先、多々起きてしまうとはまだ彼自身思ってもみなかっただろう――。
0
あなたにおすすめの小説
体育館倉庫での秘密の恋
狭山雪菜
恋愛
真城香苗は、23歳の新入の国語教諭。
赴任した高校で、生活指導もやっている体育教師の坂下夏樹先生と、恋仲になって…
こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる