【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

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悠久の王・キュリオ編2

《番外編》バレンタインストーリー7

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「お茶をお持ちいたしましたわっ♪ キュリオ様、アオイ姫様♪」

 にっこりと麗しい笑みを湛えた女官だが、その想いは若き愛娘の恋を応援する母親のような心境だった。
 いまさっき広間へと足を踏み入れた彼女だが、アオイの沈んだ表情からおおよその事態を把握出来ているようだ。頑なな王が姫君の努力を台無しにしている可能性大有り! と、判断した彼女は強行突破に出る。いまにも席を立ってしまいそうなキュリオの前に可愛らしい皿と、小ぶりなスイーツ用の銀のフォークを並べていくと……

「……なんの真似だ。私はいらないぞ。私は執務室へ……」

 仕事へ向かおうとする王を制止し、さらにキュリオの嗜好を把握しているはずの女官が彼の意志と真逆の行動に出たため、王の眉間には深い皺が寄っている。

「たまには甘い物が食べたいとおっしゃる姫様にお付き合いくださいませっ♪」

 キュリオへ満面の笑みで答えながら、アオイへ向かってウィンクする女官へアオイは声に出さず”ありがとう”と口の形のみで礼を伝えた。

 こちらをちらりと見たキュリオと目が合うと、緊張に背筋を伸ばしたアオイ。
 キュリオの怒りをひょいとかわしてしまった女官の精神力の強さが並大抵ではないと感心しながらも、とりあえずキュリオが退出してしまうという最悪な事態を回避できたことに安堵せずにはいられない。

「ごめんなさいお父様、すぐ済ませますので……」

 それでも尚、自信の無さを隠しきれないアオイは眉をハの字にさげ、忙しい王の時間を拘束してしまったことを心から詫びた。

「……謝らずともよい」

 気落ちした様子のアオイを不憫に思ったのか、キュリオは椅子へと深く座りなおし、運ばれてきた紅茶へと口をつける。

  様々なスイーツが運ばれてくるなか、目の前のアオイはせわしなく何かを探しているように見えた。

「……」

(赤いリボンの小箱は……)

「……」

(アオイ……一体なにを探している?)

 すると、愛しい娘の瞳が輝いて。

「お父様っ! こちらですっ!」

「……?」

 キュリオが怪訝な顔をするのは無理もない。甘い物が食べたいと言う割に、アオイはその話題をこちらに振ってきたからだ。大事そうに女官の手によって運ばれてきた銀のトレイの上には、なにやら可愛らしく飾り付けされた小箱がひとつ乗っている。

「…………」

(ピンクのミニバラ? ……この花びらは……)

 悠久の城に咲くバラには些か特徴がある。
 その中心はやや色が濃く、外側にいくにしたがって日に透けるような淡い色へと変化しているからだ。それも歴代の悠久の王たちがバラをこよなく愛し、いつかの時代に品種改良されたという噂もあるくらいだ。その証拠に他では咲かないバラが城の中庭にはたくさんあった。

 もちろんそのことを知らないアオイは、ここで見たバラを何も変わらない普通の品種だと思い込んでいる。

「ここのお店のチョコレートが食べてみたくて……」

「……」

 バラをじっと見つめていたキュリオが疑いの眼差しを今度はアオイへと向けてきた。

「……お父様?」

(うそ……もうバレた? まさか、そんなっ……)

 アオイの意志とは無関係に冷たい汗がその背を流れていく。

『姫様ファイトです! どうぞキュリオ様にお手渡しくださいませ!!』

 キュリオの後方で待機してい小声で声援を送る女官にアオイはこくりと頷く。

「お、お口に合うかどうかはわかりませんが……」

 わずかに頬を明らめたアオイ。
 そして両手で大事そうに差し出された小箱だったが、キュリオの興味は他にあった。

「……アオイ、その手の傷は?」

「……っ!?」

 まさかそんなところを見られているとは思わずにアオイは弾かれたように顔を上げた。

「これはっ! 部屋に飾ろうとした花を切った時にナイフで……!」

「ナイフの傷ではないだろう」

 誰がどう見てもアオイのそれは切り傷ではない。小さく血の滲んだ刺し傷や、薄皮をなぞるかすり傷にも似たものがいくつも見受けられる。

「えっ!?」

 いよいよキュリオの探る視線がアオイの瞳の奥へと狙いを定めたようだ。
 それからの彼は、まるで砂のオブジェに隠された宝石を探すように、いとも簡単にアオイの核心へと迫っていく。

「大丈夫ですっ! なんでもないんです! もう一週間も前の傷ですからっっ!!」

「……」

(私がアオイの怪我を見過ごすはずがない。そしてその程度の傷、湯殿に入れば治るというものを……)

 アオイの苦し紛れの言い訳がここでも炸裂するが、見事に的を外しているためキュリオの疑問はやがてひとつの仮説を立て始めた。


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