蝶人―ちよびと―

はるわ

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屋敷7日目③(※1男性の方後半注意。※2長いです)

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「フィー!」



「あああキプリス動かないで!」



こてんと僕は首を傾げた。

そして自分が座っているところを見る、と……。



「!?」


書類が散乱するそのデスクの上に自分は乗っていたのだ。



驚いて飛び退く。それに合わせてまた数枚舞い上がった。



……やっちゃったぁ。




「ご、ごめん!」


「あ、ああ、うん……構わないよ」



肩を落とすフィールにレティカルが追い打ちをかける。



「そもそもこれほどまでになるとは領主としてフィール様の技量が問われる問題ですよ。今まで後回しにしたツケが回ってきただけのことです。キプリス様は何も悪くありません」



一層暗い空気を纏ったフィールを僕は可哀想に思った。だって……でも、フィーが悪いのならしょうがないのかな。


項垂れたままのフィールを尻目にキプリスはレティカルに連れられ、朝食に向かった。



「それ、終わらせてくださらないと朝餉はありませんよ」



レティは厳しい。



*:†:*:†::†:*:†:*




「はあああああ!?」



その大声に窓辺の伝書鳩が羽ばたいた。


「お、おい!待て!」

バタバタと彼方へ旅立った鳩は戻ってこないだろう。



「あーもう、くそっ!」


頭をガシガシと掻きむしり、悪態をつくその人物は、テリハ卿。若干30にして貴族院でも存在感を放つ若手だ。


そして、幼い時からのフィールの友人である。




「だいたい書類再発行が多すぎんだよ!ったく、前にもましてボケてんじゃねえのかフィー!」


喚きちらしながらもその足はツカツカと書斎内を歩き回り、手はテキパキと書類整理を行う。フィールとは大違いの、領民から一目置かれるやり手だ。レティカルはこの仕事の差をたまに嫌味らしくフィールに持ち出す。



短髪の逆立った銀髪と、漆黒の目が精悍さと理知な印象を与えるテリハは、忌色の目を持つフィールといつも行動していた。主に能天気なフィールを引き締め、先へ促す役目が多かったが……。




「……そういや、蝶人がいるんだったな……。一度お灸を据えにでも行って、様子を見てこよう」



テリハはこのように口に出して頭の中を整理する癖があった。自己完結するとフィールが説明をせがむからだ。ただ、それはそれで誰かの盗聴を招きやすい。



この時も、実は耳を欹てる者がいた。



「期日は……明明後日ほどの……いや、しかし……明後日か……」



ブツブツと呟いて動くテリハに意識を集中する者、それは……。



「蝶人なんぞあいつの手には負えんだろ……レティがいるならまだ……蝶人の成長度合いにもよる……」




動き続けたお蔭で書類も片付こうという頃、テリハはやっと手を止めた。夕食である。



「テリハ様、お持ちいたしました。して、どうなさいますか?」



「……ん、そうだな。……明後日出よう。短いので不能にしておけ、俺が聞きたい」

「かしこまりました」



テリハは言葉を自分の思考の一部に利用するため、テリハの発言の後半のように、連絡は重要な単語をピックアップして伝える。


もちろん、それは屋敷内だけであり、通常はきちんと伝えるようにする。


そう、例えば、『短剣を用いて四肢を刻むなりして行動不能にしておけ。尋問は自分でやる。』というふうに。



数分後、扉が再び開き、先の食事を運んできたメイドが入る。今度はその手に不届き者を引きずって。


「ん?」

その男は確かに意識を失っているようだが、見たところ外傷は見受けられない。

「いかがされましたか?」

乱暴にうつ伏せになるよう放り、メイドはテリハに問うた。


「いや、お前、どうやってこいつを……?」

「?……テリハ様が不能にしろとおっしゃったので」


足の先でゴロンと男を寝転がし、メイドは男を仰向けに変えた。


男の一部分の服だけ切り取られ、その周りと見える素肌が赤黒く液体に染まっている。



「ご指示通り、男のイチモツを短剣で削ぎ落として不能にしております」




その言葉にテリハはとっさに股間を押さえる……なんてことはなく、ただ平然とメイドを見つめ……。


「お前も少し天然が入ってるな……」

「何のことでございましょう」


遠い目で呆れた。



このメイドの手腕は武術の達人と言わしめたテリハも認めるところであり、こういうすぐに行動に移せるところも採用した理由の一つではあるが……。



20歳かそこらの年頃の女が男のソレを削ぐというのはなんというか……。



まあいい。それより、侵入者だ。










その晩、テリハのところの城勤めの領民は、恐ろしいほどの泣き声と叫びを聞いたという。







実はその時メイドはこんなことを思ってたりもした。


男のアレを痛めつける拷問以上に苦しいものがあるのか?ということ。後で主人に聞いておこうとも考えた。




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