君と僕達の英傑聖戦

寿藤ひろま

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第一章 さらば日常

第2話 未知との遭遇

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気になった僕はもう一度倉庫の奥へと入った。
「ドレー…ド?……誰?」
不自然に置かれていた“それ”は見知らぬ外国人の名前が書かれた縦横10cmくらいの小さな箱だった。
一体誰の物だろう……?
1週間前くらいにタオルケットを取るためここに入った時はこんな物は見なかった…。
僕はその箱を手に抱えながら頭に浮かぶ疑問と戦っていた。
…姉貴の置き忘れ…いやいや、姉貴はここ数ヶ月家に帰ってきてない。
……あ、たしか祖父は昔から収集癖があったとかなんとか。
いやでも祖父が亡くなった時に集めていた物は全て処分したと聞いた…。

………じゃあこれは一体なんだろう?
僕の中で生まれた疑問はずっと頭の中をぐるぐるしているだけだったが、次第にそれはある種の好奇心を芽生えさせた。
…開けてみよう!開けて中を見ればわかるかも!
普段なら人の物を勝手に見るのは躊躇する僕だが、これは自分の家の倉庫の中で見つかったもの。
見られたら困るものなんて入っているはずはないだろう。
…と自分に言い聞かせた僕は、箱の施錠を解き中を中を見た。

「写真……?」
そこに入っていたのは半世紀近く前の戦争で使われていたと思われる陸上兵器りくじょうへいきの写真と、見たこともない女性の写真だった。
女性の写真のほうは親戚か誰かの若い頃の写真かもしれないが、もう片方の陸上兵器の写真は本当に心当たりが無い
………誰の物だろう??
僕は首を傾げて訝しむ。
写真の裏面に何か手がかりがないか探ろうと、写真をひっくり返して裏面に書かれていた年月日を見た。
「え…これって俺の……?」
奇妙なことにそこには2070年11月15日と書かれており、なんとそれは僕自身の誕生日だった。
自分に関係のある写真ならまだ良かったのだが、そのどれも心当たりの無い写真ばかりなのでますます謎は深まるばかりだった。
…なんか、気味悪いな………
勝手に開けておいて酷い感想だが、不明瞭なものに負の感情を抱くのは仕方のない人間の性。
僕は手早くその写真を箱の中にしまい、元あった場所に戻そうとした。
そんな時、突然の異変が僕を襲った…。


……なっ!何…?!
急に視界がぼやけたかと思うと下半身の力が抜け、地面に座り込んだような衝撃が全身に走った。
……足が…動かない!?
急に両足が動かせなくなり、視界はさらにぼやけていく。
あまりにも突然の出来事で状況を把握できないでいた中、追い打ちをかけるように更なる不思議体験に襲われる。

なんだこれなんだこれ!!!どこだここ?!?!!
なんの脈絡もないまま、突然目の前に雪国の様な景色が広がったのだ。
……なんだなんだ!??
今自分の身になにが起こっているのかまるでわからず、僕は若干パニックになっていた。
無我夢中で体を動かそうともがいてみたが声を出すことも体を動かすことも全くできないようだった。
……ほんとにまずい!ほんっとにまずい!!
それどころか自分の意思に反して体が動いているような変な感覚を覚え、呼吸さえも自分では吸っていないような感じで荒々しい呼吸音だけが耳に入ってくる。
首さえも全く動かせなかったが、幸いにも視界だけは問題なく動かすことができたので、辺りを見渡して情報を探した。

周囲にはややくすんだ緑色の大きいテントと、丸太を丸ごと焼いた見慣れない焚き火が見えた。
寒冷地のキャンプ場かなにかの様に見えるし、どこかの山の中継地点と言えなくもない。
しかしながら、視界に下にうっすら映ってしまったものがそれは全くの見当違いである事を示していた。

………え?兵器…!!?
妙に視界の位置が高い理由がわかった。
どうやら僕は今、なにかしらの陸上兵器に乗っているようで、それがわかった時にここがどういう場所なのかなんとなく察してしまった。
……戦場?まさかさっき見た写真が関係して………
なんらかの関係があるように感じたが、そう推察したところで今の自分にできることはなにもなかった。
そして、またしても意思に反して動いた手が、腰辺りの丸い形をした何かを握りしめた。
ゴツゴツした丸い”何か“は、予想する間もなく視界へと入り込んできた。

……これはまさか!?
自分の手に握られていたのは…まごうことなき手榴弾しゅりゅうだんだった。
……なんでなんで!?え!?やばいだろこれ…!
どんなに平和な世界に住んでいて、戦争というものを知らない僕でも、それがどういう使い方をされていた物かくらいは知っていた。
視界に映った“それ”に絶望する間もなく、またしても事が起こる。

…!?誰だ誰だ!?誰か出てきた!
テントの中から泥で汚れた軍服を着た男性が数人出てきて、こちらに向かってなにか語りかけてくる。
それに対してこの視界の持ち主もなにかを言い返した。
…また勝手に…!!
今回もまた自分の意思に反して口が動いた。
さらに、耳に入ってきた言葉は聞き慣れない異国のもので、もちろん何を言っているのか全くわからなかった。

ただ、一つだけ感じるものがあった。
…なんか......悲しんでる?
この視界の持ち主である人物の声は涙声で掠れており、どこか悲しんでいるように感じたのだ。
そう感じた時、静まり返った周りの空気にも、どことなく哀愁が漂っているような気がした。
…誰かを失くした……?家族…?恋人…?
この声の主が何に悲しんでいるのだろう?
きっと知る機会は訪れないのだとわかっていても、何故か知りたいと思ってしまう正体不明の感情が湧いてくる。

だが結局それは明かされることなく、この体験は最悪な終わり迎える。
え…嘘ウソ!やばっ…!!
手榴弾を握っていないもう片方の手がそのピンを引き抜いたのである。
次の瞬間、身を焼く様な爆熱と宙を舞う様な浮遊感が全身を襲う。
宙を舞っている間も自分の意識はっきりとあったが、なぜか痛みは感じなかった。
…ああ、これが死というものなんだな…
と感想を抱いたが、実際自分の身に何が起こったのかはよく分からなかった。

そもそもこの謎の現象はなんなのか?
自分が見た景色は一体どこでいつのものなのか?
手榴弾で自決したこの視界の持ち主は一体誰なのか?
それらの謎全てを知る術は今の自分にはなかった。
確実に言えるのは今見たものが、幻覚や妄想の類ではないことだけだった。

*  *  *

……あれ…?
次に気がついた時、僕は自宅の倉庫前で倒れていた。
少しだるい感じが残ってはいたが、手足が動かせなかったり勝手に動いたり…という事はもう起こらなくなっており、一面に広がった雪景色はそこにはなかった。
状況から察するにどうやら現実に戻ってこられたようだった。
「現実…じゃあさっきのは…?」
”戻ってこられた“とそう認識して初めて、今起こった現象の異常性に気がつく。
今の出来事は少なくとも自分が知っている常識では説明のつかないものだった。
ただの悪い夢か、はたまた人智を超えたモノの仕業か。それはまるで見当もつかない。
とりあえず一度立ちあがろうとした時、自分の身に起こっているもう一つの異変に気がつく。

あれ…泣いてる?
自分はなぜか涙を流していた。
妙な夢みたいなものを見ている間にどこかに頭をぶつけたのだろうか?もしくは変な埃でも吸ったか...?
とにかく原因を挙げればキリが無いが、そのどれでもないような気がしてならなかった。
涙というのは、何かしらの悲しい感情や衝動で流れるものだが、自分の今の状況はそのどれにもあてはあらない。
明らかに不自然な現象だが、一つだけ心当たりはあった…。

…まさかさっきの変な夢が…?………いやいや!あれは自分には関係無い…はず。

思わず自分の意見に首を振った。
関係ある可能性は十分あるが、今の自分にそれを受け入れることはできなかった。
…なんなんだよ全く……………
謎、いや謎を通り越してもはや恐怖感すら覚えてしまう。
もしかしたら何かしらの病気という可能性もあるが、今の自分にはこれもまた先ほどの現象と同じく、常識の範囲を超えた何かだと思えて仕方なかった。

あまりに突拍子もない出来事にしばらく何も考えられずにただ呆然としていると、自室の時計が時報を知らせた。
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