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第三章 出ずる巨人
第13話 廃集落へと向かって...
しおりを挟む「気をつけるんだぞ」
宏樹はずっしり重たくなったリュックを背負い、玄関で手を振る父にいってきますと伝えて自宅を出た。
母には少し気分転換で外出したいという話で父が話してくれたようで、宏樹がこれから行く場所のことは伝えていないそうだ。
「何かあったら、俺に連絡しろよ」
そう言ってくれた父に感謝しかないな…。そう考えながら、宏樹は街の中をずんずんと歩んでいった。
歩き続けること約10分、出で湯通りのバス停へと到着した。
「え~っと、次のバスは…10時半かな」
バス到着までは5分くらいの時間が残されていた。
待合室のベンチに腰掛けた宏樹は、リュックの中から水筒を取り出してお茶を口に含む。
「あぁ~冷たくて美味しい」
暑くほてった体に冷たい麦茶が染み渡る。この爽快感はまさに夏の風物詩だろう。
それからしばらく目の前を走る車を眺めていると、予定のバスが停車した。
「お足元に気をつけてご乗車ください」
運転手のアナウンスが車内に流れる。
街中のバスに乗るのなんて一体いつぶりだろうか?
整理券を取るのもグゥんと唸るようなエンジン音も、全てが新鮮でなんだか旅行に行くような気持ちになってしまう。
「発車いたします、揺れにご注意ください」
ドアが閉まったバスは、運転手のアナウンスの後ゆっくりと動き出す。
車内は空調が効いているからとても快適で、暑がりの宏樹にとってはこの上なくありがたい環境だ。
…それにしても空いているなぁ。
平日の昼間であるからか車内はガラガラでほぼ貸切状態だった。
…それもそうか……
このバスが山越えバスであるから、こんな時間帯に利用する人がいないのは普通のことなんだろう…。
そんなことを思いながら大体10分くらいバスに揺られた宏樹はようやく目的地の「登山道入口駅」に到着した。
「220円になります」
「ありがとうございました」
運転手にお礼を言ってバスを降りた。宏樹を下ろしたバスはエンジン音を唸らせながらすぐに走り去ってしまった。
<<<登山道入口駅>>>
「何にもないな…」
駅前に広がる道路はたくさんの落ち葉で埋め尽くされており、辛うじて舗装されているとわかるような状態だった。
…こんな季節に、なんで落ち葉が?
木々や植物のことはそれほど詳しくないからなんとも言えないが、青々とした木々の下に落ち葉が落ちているという光景にはどこか違和感を感じる。
辺りをぐるっと見渡した宏樹は、ポケットからスマホを取り出しメモを開いた。
「えぇ~っと、ここから100mくらい進んで、左に見える道をまっすぐか…」
この駅も十分山奥にあるのだが「登山道入口駅」は、決して目的地である北御谷集落の最寄駅というわけではない。
そもそもその集落に直で行けるインフラなんてものは存在せず、これからその場所まで20分ほど歩かなければならないのだ。
「ここだな」
100mほど歩いて到着した山への入り口はそれなりの上り坂で、周囲には草木が生い茂っているような道路だった。
一応轍がついているからそれが道だとわかるものの、管理が全くされていないのか、高さが1mを超える草木があちこちを覆っているような状況だった。
「廃道路だな、まさに」
宏樹はそう言いながらも、どんどんその坂道を登った。
ゴミ類の中にはタバコの吸い殻や使われた花火なんかも捨てられており、父の言う通りモラルのない人たちがここを訪れていたのは確かなようだった。
「山火事になるよ絶対」
土地の所有者がいなくなったとはいえ、こんな状態で放置するのはあまりに良くない。
そんな危なっかしい道路をただひたすら歩くこと15分、やっと集落の入り口を示している看板が見えてきた。
<<<北御谷入口>>>
燦々と照りつける陽光とムンムンと蒸し暑い登山道を歩いて来た宏樹は、一度その看板前にリュックを置いて水分補給をすることにした。
リュックの中の水筒を探していた宏樹だったが、ふっと顔を見上げたところ宏樹は見たくないものを見てしまった。
「階段!??」
なんとその小道は長い長い階段になっていたのだ。
宏樹がネットで見つけた北御谷への行き方では、看板横の小道を進むとしか書いていなかったから、まさかそれが階段になっているとは思いもしなかった。
加えて、小道の両端に生えている木々の葉っぱが折り重なって、メルヘンな絵本でしか見ないような天然のトンネルが出来上がっていた。
「これは結構堪えるな…」
別に虫が嫌いというわけではないのだが、いつもはこんな場所に来ないから流石の宏樹でも少し抵抗があった。
「でも、ここまで来たら行くしかないよな……」
お茶を飲み終わった宏樹は意を決して小道へと足を踏み入れた。
「獣道じゃんこんなの」
これを本当に北御谷に住んでいた人らが使っていたのか?と思わざるを得ないほどに道は狭く、登っても登っても終わりが見えないようだった。
「いつまで続くんだよこれ…」
かれこれ100段以上は登って来たはずなのに、まだまだ集落が見える気配がない。
道がくねくねと曲がっている上に辺りは草木がボーボーに生えまくっているから、今自分がどの辺りを歩いているのかすらもわからなかった。
「早く着いてくれぇ」
そう呟きながら階段を登り続けること約5分。突如として宏樹の目の前に大きな廃屋が現れた。
「うぉ!?、真っ黒だ」
木造と思われるその建造物はほとんどが崩れてしまっており、火災で焼け焦げてしまったのか大半が真っ黒になっていた。
炭化してしまった建物を横目にそのまま進んで行くと…。
「やっば………!」
宏樹は驚きで開いた口が塞がらなかった。
通って来た小道はどうやら集落の最も高いところへと続いていたようで、辺り一面には焼けてしまった廃屋が立ち並ぶ異様な景色が広がっていたのだ。
「えぐすぎ………これが全部燃えたのか…!」
ざっと数えても数十戸の家々がまるごと焼けてしまっており、完全に倒壊してしまった建物もいくつかあった。
唯一鉄筋でできていると思われる建物でさえ今にも崩れ落ちそうなところを見ると、火事の凄惨さがヒシヒシと伝わってくるようだった。
「ちょっと進んでみよう」
宏樹は一度大きく深呼吸をして、なだらかな下り坂になっている廃屋だらけの集落内をゆっくり進んでいった。
当たり前だが集落内に人の気配はなく宏樹が身につけている鈴の音だけが辺りに響く。
「お、カマキリじゃん!懐かしぃ~」
廃集落となったことでありとあらゆる植物が咲き乱れていて、蝶々が花の上を舞っていたり家屋の壁に虫が止まっていたりと。少しづつ自然に帰っているようだった。
そんなこんなでしばらく集落内を散策していた宏樹だったが、ここであることに気づく。
「そういや、俺は何をしに来たんだっけ?」
そう言って、廃集落のど真ん中で立ち止まった。
「いやいや、待てよ待てよ…」
そもそもがここ北御谷集落は、父から聞いているように火災が起きてからずっと人が住んでいないのだから、今更訪れてみても何も情報が得られないというのは考えなくてもわかることだ。
「あれ?じゃあなんで俺ここに来たんだ」
考えれば考えるほど宏樹は今、自分がこの場所にいる理由がわからなくなった。
ごくごく当然なことに今更気がついてしまって宏樹は混乱していた。
「いや、マジで意味わかんない…」
きっと手がかりが欲しくて焦っていたのだろう。それで藁にもすがる思いでこの場所を訪れたのだろう。
頭ではわかっていても自分がそんな決断をしてしまったと、受け入れるのは簡単ではなかった。
「一旦落ち着こう、そうしよう」
宏樹はとりあえず冷静になるために、一度集落から離れようと考えた。
そうして今来た道を引き返そうと後ろを振り返った宏樹は、そこに広がっていた光景を見て驚きのあまりスマホを落としてしまった。
そこには、立ち並んでいたはずの廃屋が跡形もなく消え去り、一面に広がる竹藪とその中を貫く長い長い小道が続いていたのである…。
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