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第四章 ハルマの館
第19話 アクシデント発生!
しおりを挟む「まず戦車の履帯。無限軌道について説明するわね」
安奈はそういうと戦車を降りて前方へと降り立ち、宏樹もその側へと移動する。
「移動するためにはこの履帯の両方、または片方を駆動させて移動するの」
彼女はそう言いながら、戦車を動かしてみせた。
「うぉぉおお!!すごぉい迫力!!」
安奈の「Panther」は履帯のカタカタカタと乾いた様な金属音を響かせながらその場で前進、後退、転回をしてみせた。
戦車が動いているところは今までも何度か見てきてはいたが、こんな巨体でしかも目前で動いているのを見るのは初めてで、さすがに大迫力だった。
「まあ、こんな感じね。理屈は同じだからあなたもやってみるといいわ」
…理屈は同じ…ってことは…。
そう言われた宏樹はまたまた同じように心の中で念じた。
ゴウンッゴゴゴッッガキンッガガキン!!
「あ、あれ…?動かない!?」
どう命じてもKV-2は金属がぶつかり合う音を響かせるだけで動く気配がなかった。そんな時。
「あなた…もしかして超新地旋回しようとしてるわね?」
「え!?どうしてわかったんですか…?」
宏樹は鎮座するKV-2に対してこう命令していた。
…その場で回れ!そして前進せよ…!
「やっぱりそうね…それだと動かなくて当然ね」
安奈はやっぱりという顔をしながら説明を挟む。
「超信地旋回はそれ相応の機構が備わっている戦車でないとできないわ」
彼女は続けた。
「超信地旋回ができる戦車は、アバディーンなら『M41 Walker bulldog』ムンストなら『Tiger』ボービアなら『Cromwell』辺りかしら」
「へ、へぇ…そうなんですね」
…ヤベェ、何言ってるかまるでわかんない…!!
安奈が顎元に手を置きながら喋った言葉のほとんどは、宏樹が未だ知らない戦車の名前だった。
…やっぱりミリタリーな人だ………
歴史が趣味なだけの清楚なお姉さんだと思っていたが、どうやら軍事系の歴史にもしっかり精通しているようだった。
「まあ、とにかくあなたの戦車『KV-2』では超信地旋回はできないわ。できるのは信地旋回だけね」
「そうなんですね」
宏樹はもう一度やってみてという安奈の指示で、次は左の履帯だけを動かしてみた。
ゴウンッゴゴゴゴゴッッッブゥンブゥゥン!!!!
「やった!動いた…!」
KV-2の発動機は重厚な音を響かせながらゆっくりと新地旋回を始めた。
…よし!次は…!
宏樹はその流れで安奈と同じように前進と後退をKV-2に命じると、その指示通りに戦車が動いた。
「できましたよ安奈さん!」
「動かし方はわかったようね。それじゃ早速、乗って走ってみましょう」
安奈はそういうと、颯爽と「Panther」へと乗り込み再び軍帽を被った。
「先に行ってるわね」
彼女はそう告げると英傑を旋回させ宏樹のことを置いて、コースの方へと走って行った…。
「え!…あ!ちょっと…!!」
…なるほど、ついて来なってことか…!よっしゃ!!
宏樹は安奈に遅れを取らないよう、同じく英傑のKV-2へと乗り込んだ。
…KV-2…発進!!!
宏樹がそう念じるとKV-2は発動機を唸らせゆっくりと左に旋回して前進を始めた。
「うぉぉぉ!!!」
履帯に使われた鉄同士が擦れ合うキュルキュルという甲高い音と、ゴゴゴゴゴという地面から伝わってくる振動には言い表せない様な迫力があった。
…けっこう早い…!これはいいなぁ!
大体時速30kmくらいだろうか?周りの風景があまりにも遠くにある故に、いまいちピンとこないが結構な速度が出ていることが振動から伝わってきた。そんな時…。
「宏樹くーん!こっちこっち!」
風を感じながらしばらく走っていると、左側から安奈の声が聞こえてきた。
…あ!行きすぎた…!
走りに夢中になっていた宏樹は、安奈が方向を変え左側に行っていることに気づかなかった。
「今行きます!」
さきほど教えられた要領で左に旋回しようとした。しかし…。
「あれ…?どっちだっけ…?」
宏樹はどっちの履帯の速度を落とすべきかわからず、直感で右の履帯を緩めた。
…あれぇ~…そっちじゃな~い…!
すると車体は緩やかに右側の方へとカーブしていき、向かいたい方向とは真逆の方へと向かい始めた。
…左だ!左を緩めるんだ…!
それに気づいた宏樹は左の履帯を緩めようとたのだが、誤って左の履帯を停止してさせてしまった。
「うわぁっっ!!」
左の履帯が急にストップしてしまった反動で、宏樹の英傑はその場でグルンと左回転し停車した。
「いててて…」
宏樹はなんとか戦車にしがみついて放り出されることはなかったが、急停止した反動によって砲塔の内側で腰を打ってしまった。
「宏樹君!大丈夫!?」
そんな時、安奈が駆け寄って来てくれた。
「僕は大丈夫です…なんとか」
そう答えながら戦車から脱出した宏樹は、次にとんでもない光景を目にすることになった。
「え!?り、履帯がっ…!!!」
なんと、車体が左に半回転したことによって右の履帯が大きく脱落していたのである。
…これは…まずいぞ………
履帯が外れるとは思っていなかった宏樹は驚きを隠せなかった。
「ど、どうしましょう安奈さん…!?このままじゃ…!」
「まずは落ち着くこと」
「………はい…」
宏樹は安奈にそう諭され、深呼吸をした。
「履帯が脱落するというのは、戦闘中に起こるアクシデントの中で最も多いの。だから、取り乱すことなく冷静に対処しなくてはならないわ」
「はい…」
彼女はそう言いながら自身の英傑を指差して言った。
「見ておいて」
彼女がそう言うと、「Panther」がこちらに向かって走って来た。
そして二人の直前まで来た時「Panther」は宏樹の英傑と同じように左回転をして履帯が脱落した。
彼女は履帯が外れた「Panther」を見ながら淡々と語る。
「このように、どんな戦車でも履帯は外れるものなの。最も、操作ミスで外れることはあってはならないことだけど」
彼女がそう言った次の瞬間…。
「え…!え…!?安奈さん…手が…!」
宏樹は、安奈の右手が青白い炎に包まれていることに気がつく。
「まあ見ておいて」
彼女はそう言って燃える右手を外れた履帯へと近づけた。
「…!炎が履帯に…!」
彼女の右手で燃え盛っている炎が履帯へと移り、外れた履帯が炎に包まれた。
そして、燃える履帯はみるみるうちに正しい位置へと戻り、炎が消えると履帯は元通りになっていた。
「蘇回炎…と。私たちはそう呼んでいるわ」
彼女曰く、この炎は英傑を修繕させることができるようで、人玉の炎と同じく熱を持たず英傑以外には燃え移らない性質を持つ特殊な炎であるそうだ。
履帯の他にも発動機や変速機、主砲や砲塔や機銃といったありとあらゆる戦闘モジュールの修繕ができるのだそう。
「修繕方法は少し変わっていて、ただ単に直れと命じても直らないの。そのモジュールが実際に動いているところを思い浮かべ、修繕するの。やってみて」
「は、はい…。やってみます」
そう指示された宏樹は、戸惑いながらもKV-2が動いているところを想像した。すると…。
「うおっ…!点いた…!」
宏樹の右手にあの青白い炎が灯った。
「そのまま履帯に近づけて」
宏樹は安奈に言われるがまま燃える右手を外れた履帯へと近づけた。
すると、みるみるうちに履帯は炎と共に再生し、KV-2は元の姿へと戻った。
「ありがとうございます、いい勉強になりました」
「そうね。でも戦いの最中の操作ミスは命取りになるわ、次からは気をつけるように」
「はい、わかりました」
そうしてアクシデントを乗り越えた宏樹は再び戦車へと乗り込み、安奈と共に目的地のコースへと向かった。
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