3lads 〜19世紀後半ロンドンが舞台、ちょっとした日常ミステリー

センリリリ

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花はどこへ

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「こんな年寄りでも、まだ必要としてくれる場があるとは、嬉しいもんですな」

 デイヴィス老は明るい声で言った。

「屋敷でも必要としてるだろう」

 レイモンドが言うと、肩を竦めてみせた。

「一応はそうですけどね。寄る年波には勝てませんや。みんな壊れ物みたいにあっしを扱いますよ。なんだかくすぐったくてね」

 そんなことを話していると、ビリーが駆け寄ってきた。

「旦那、外にスージーが来てるよ」

「ああ、ライアンがちゃんと伝えてくれたんだな。デイヴィス、こっちへ」

 ちなみに、当のライアンは今日は来ていない。「花には興味ないので、稼いでいたほうがマシ」なんだそうだ。

 モリスも一緒についていくと、会場の外にスージーがいた。クレマチスを入れていたのと同じような木箱を持っている。そこには、黄色い花が植わっていた。

「言われたとおり、持ってきたよ」

「ほう。キンポウゲだな」

 さっそくデイヴィス老が覗き込む。

「よく育ててある。自分独りで世話したのか?」

「うん。もともとは道端のやつだけど。踏まれる場所に生えててかわいそうだったから」

「ああ、たしかに、茎に一度曲がった跡があるな。よく持ち直したもんだ」

 感心したように言うのに、レイモンドが訊いた。

「どうだい」

 なにかの算段があらかじめあって、確認を取るような調子だった。

「筋はいいようですね」

「そうか。……なあ、スージー。このご老人は僕の領地の屋敷で庭師をやってるんだが、住み込みでその仕事を手伝ってみないか。働き口に困っていたろう」

 突然の申し出に驚いて、スージーは持っていたキンポウゲを落としそうになった。いそいでモリスがその手から取って抱えた。

「そりゃ…そりゃ……、でも、親父がなんて言うか……」

「僕から頼みに行ったら、だめかな?」

「そんなことないです!むしろそうやって口添えしてくれたら、親父も機嫌よく許してくれると思います」

「そうか。じゃあ、話は決まりだ」

「はい!」

「ああ、そうそう、せっかく来たんだ。入場料は僕が払っておくから、君も見て帰ったらどう」

「え、でも……」

 スージーは出入りする人たちに視線をやり、自分の服に目を落としたあと、首を振った。

「見たいけど、でも、あたしみたいなの、場違いだから……」

 すると、デイヴィス老は自分のジャケットを脱ぎ、スージーに渡した。

「これを羽織ったら、すこしはマシかな?一緒に見よう」

 そう言って、手を繋ぐために差し出した。スージーはジャケットを羽織るとおずおずとそれを握り、不安そうにレイモンドを見た。

「老は退屈してたんだよ、つきあってあげてくれるかい。なにしろ、僕もモリスも、花の育て方なんて聞いてもチンプンカンプンでね」

 そう言ってウインクしてみせると、ようやくスージーは笑顔になった。

 そのあと会場を回っているあいだじゅう、手を繋いだままの二人は、話が盛り上がっている様子だった。

「ずいぶん、気にかけてたんですね」

 モリスがレイモンドに言うと、肩を竦めた。

「あんな若くて特技のある少女が、先の当てもないうえに、どうやら父親に殴られてるみたいな様子を見るとね……。引き離せるに越したことはないだろ」

「なるほど」

「それに老にも、新しい生きがいができるだろうし」

 呟くように言う声に、モリスはニヤリと笑ってみせた。

「なかなかやりますね。見直しました」

「見直したって、なにを」

「いや、人をからかうことだけに、エネルギーを費やしてるわけじゃないんですね」

「ちっ、まだ恨んでるのか」

「そりゃあね」

 本当はそんなことはなかったのだが、モリスはそう言って、レイモンドを放って歩き始めた。

 あんまり褒め過ぎると、調子に乗ってろくでもないことを思いつきかねない。
 自分がレイモンドに対して口が悪いのは、ある種の社会貢献なのだ。

 などと、心の中でうそぶきながら。
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