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花はどこへ
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「こんな年寄りでも、まだ必要としてくれる場があるとは、嬉しいもんですな」
デイヴィス老は明るい声で言った。
「屋敷でも必要としてるだろう」
レイモンドが言うと、肩を竦めてみせた。
「一応はそうですけどね。寄る年波には勝てませんや。みんな壊れ物みたいにあっしを扱いますよ。なんだかくすぐったくてね」
そんなことを話していると、ビリーが駆け寄ってきた。
「旦那、外にスージーが来てるよ」
「ああ、ライアンがちゃんと伝えてくれたんだな。デイヴィス、こっちへ」
ちなみに、当のライアンは今日は来ていない。「花には興味ないので、稼いでいたほうがマシ」なんだそうだ。
モリスも一緒についていくと、会場の外にスージーがいた。クレマチスを入れていたのと同じような木箱を持っている。そこには、黄色い花が植わっていた。
「言われたとおり、持ってきたよ」
「ほう。キンポウゲだな」
さっそくデイヴィス老が覗き込む。
「よく育ててある。自分独りで世話したのか?」
「うん。もともとは道端のやつだけど。踏まれる場所に生えててかわいそうだったから」
「ああ、たしかに、茎に一度曲がった跡があるな。よく持ち直したもんだ」
感心したように言うのに、レイモンドが訊いた。
「どうだい」
なにかの算段があらかじめあって、確認を取るような調子だった。
「筋はいいようですね」
「そうか。……なあ、スージー。このご老人は僕の領地の屋敷で庭師をやってるんだが、住み込みでその仕事を手伝ってみないか。働き口に困っていたろう」
突然の申し出に驚いて、スージーは持っていたキンポウゲを落としそうになった。いそいでモリスがその手から取って抱えた。
「そりゃ…そりゃ……、でも、親父がなんて言うか……」
「僕から頼みに行ったら、だめかな?」
「そんなことないです!むしろそうやって口添えしてくれたら、親父も機嫌よく許してくれると思います」
「そうか。じゃあ、話は決まりだ」
「はい!」
「ああ、そうそう、せっかく来たんだ。入場料は僕が払っておくから、君も見て帰ったらどう」
「え、でも……」
スージーは出入りする人たちに視線をやり、自分の服に目を落としたあと、首を振った。
「見たいけど、でも、あたしみたいなの、場違いだから……」
すると、デイヴィス老は自分のジャケットを脱ぎ、スージーに渡した。
「これを羽織ったら、すこしはマシかな?一緒に見よう」
そう言って、手を繋ぐために差し出した。スージーはジャケットを羽織るとおずおずとそれを握り、不安そうにレイモンドを見た。
「老は退屈してたんだよ、つきあってあげてくれるかい。なにしろ、僕もモリスも、花の育て方なんて聞いてもチンプンカンプンでね」
そう言ってウインクしてみせると、ようやくスージーは笑顔になった。
そのあと会場を回っているあいだじゅう、手を繋いだままの二人は、話が盛り上がっている様子だった。
「ずいぶん、気にかけてたんですね」
モリスがレイモンドに言うと、肩を竦めた。
「あんな若くて特技のある少女が、先の当てもないうえに、どうやら父親に殴られてるみたいな様子を見るとね……。引き離せるに越したことはないだろ」
「なるほど」
「それに老にも、新しい生きがいができるだろうし」
呟くように言う声に、モリスはニヤリと笑ってみせた。
「なかなかやりますね。見直しました」
「見直したって、なにを」
「いや、人をからかうことだけに、エネルギーを費やしてるわけじゃないんですね」
「ちっ、まだ恨んでるのか」
「そりゃあね」
本当はそんなことはなかったのだが、モリスはそう言って、レイモンドを放って歩き始めた。
あんまり褒め過ぎると、調子に乗ってろくでもないことを思いつきかねない。
自分がレイモンドに対して口が悪いのは、ある種の社会貢献なのだ。
などと、心の中で嘯きながら。
デイヴィス老は明るい声で言った。
「屋敷でも必要としてるだろう」
レイモンドが言うと、肩を竦めてみせた。
「一応はそうですけどね。寄る年波には勝てませんや。みんな壊れ物みたいにあっしを扱いますよ。なんだかくすぐったくてね」
そんなことを話していると、ビリーが駆け寄ってきた。
「旦那、外にスージーが来てるよ」
「ああ、ライアンがちゃんと伝えてくれたんだな。デイヴィス、こっちへ」
ちなみに、当のライアンは今日は来ていない。「花には興味ないので、稼いでいたほうがマシ」なんだそうだ。
モリスも一緒についていくと、会場の外にスージーがいた。クレマチスを入れていたのと同じような木箱を持っている。そこには、黄色い花が植わっていた。
「言われたとおり、持ってきたよ」
「ほう。キンポウゲだな」
さっそくデイヴィス老が覗き込む。
「よく育ててある。自分独りで世話したのか?」
「うん。もともとは道端のやつだけど。踏まれる場所に生えててかわいそうだったから」
「ああ、たしかに、茎に一度曲がった跡があるな。よく持ち直したもんだ」
感心したように言うのに、レイモンドが訊いた。
「どうだい」
なにかの算段があらかじめあって、確認を取るような調子だった。
「筋はいいようですね」
「そうか。……なあ、スージー。このご老人は僕の領地の屋敷で庭師をやってるんだが、住み込みでその仕事を手伝ってみないか。働き口に困っていたろう」
突然の申し出に驚いて、スージーは持っていたキンポウゲを落としそうになった。いそいでモリスがその手から取って抱えた。
「そりゃ…そりゃ……、でも、親父がなんて言うか……」
「僕から頼みに行ったら、だめかな?」
「そんなことないです!むしろそうやって口添えしてくれたら、親父も機嫌よく許してくれると思います」
「そうか。じゃあ、話は決まりだ」
「はい!」
「ああ、そうそう、せっかく来たんだ。入場料は僕が払っておくから、君も見て帰ったらどう」
「え、でも……」
スージーは出入りする人たちに視線をやり、自分の服に目を落としたあと、首を振った。
「見たいけど、でも、あたしみたいなの、場違いだから……」
すると、デイヴィス老は自分のジャケットを脱ぎ、スージーに渡した。
「これを羽織ったら、すこしはマシかな?一緒に見よう」
そう言って、手を繋ぐために差し出した。スージーはジャケットを羽織るとおずおずとそれを握り、不安そうにレイモンドを見た。
「老は退屈してたんだよ、つきあってあげてくれるかい。なにしろ、僕もモリスも、花の育て方なんて聞いてもチンプンカンプンでね」
そう言ってウインクしてみせると、ようやくスージーは笑顔になった。
そのあと会場を回っているあいだじゅう、手を繋いだままの二人は、話が盛り上がっている様子だった。
「ずいぶん、気にかけてたんですね」
モリスがレイモンドに言うと、肩を竦めた。
「あんな若くて特技のある少女が、先の当てもないうえに、どうやら父親に殴られてるみたいな様子を見るとね……。引き離せるに越したことはないだろ」
「なるほど」
「それに老にも、新しい生きがいができるだろうし」
呟くように言う声に、モリスはニヤリと笑ってみせた。
「なかなかやりますね。見直しました」
「見直したって、なにを」
「いや、人をからかうことだけに、エネルギーを費やしてるわけじゃないんですね」
「ちっ、まだ恨んでるのか」
「そりゃあね」
本当はそんなことはなかったのだが、モリスはそう言って、レイモンドを放って歩き始めた。
あんまり褒め過ぎると、調子に乗ってろくでもないことを思いつきかねない。
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などと、心の中で嘯きながら。
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