異世界から来た馬

ひろうま

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プロローグ

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◆Side ルナ◆
「そうですか。ご連絡ありがとうございます。……よろしくお願いします。」
ユウマが通信具での話を終えたのを見届けて、私はユウマに話し掛けた。
「アイリスちゃんのこと?」
「うん。今度はリーソンに行っているらしい。」
「話してたのは、やよいさん?」
「うん。今、アイリスは受付に来てるみたいだけど、やよいさんが家に戻る様に説得してくれるみたい。」
「そう。一先ず安心ね。」

アイリスというのは、乗馬であるベルフォーネ――通称ベル――の子なんだけど、ユウマの子でもあるわ。
昨年の春、ベルに種付けするために牡馬を連れて来たんだけど、ベルが牡馬を拒否したの。
そして、ベルは「(ユウマじゃないとイヤ!)」ってユウマに求愛して……。
仕方なく、連れて来た牡馬には、別の牝馬に種付けしてもらったわ。
その牝馬に種付けする予定はなかったんだけど、たまたま発情が始まってたから、折角来てくれた牡馬に申し訳無いからっていうことで……。まあ、結局その牝馬は妊娠しなかったんだけどね。
で、牡馬が帰った後もベルの激しい求愛が続いて、やむを得ず一回だけという約束でユウマが相手をしてあげたの。
そして、その一回でまさかの妊娠。
産まれたのは、ベルと同じ青鹿毛の牝馬。ユウマによると、種族はハイ・ホースとのこと。
ユウマは最初『出藍の誉れ』から藍色に関連する名前を考えてた様だけど、良い名前が浮かばず、最終的に『あい』を文字って『アイリス』としたみたい。何か強引だけど、結果的に良い名前にはなったと思う。

そのアイリスちゃんは驚く程成長が速い。
私の子であるマモルも速いけど、その比ではないわ。
恐らく、ハイ・ヒューマンとハイ・ホースの違いね。
ユウマは、アイリスちゃんが産まれて半年位から調教を初めたんだけど、覚えも速くてもうかなりレベルが高い運動ができる様になっているのよね。
私もうかうかしていると、超えられそうな感じね。
アイリスちゃんは母親に負けずユウマが大好きで、乗ってもらうと嬉しそうにしてたわ。
乗馬施設の馬だから、他の人も少しずつ乗せてたけど、嫌そうにしてたし。
まあ、私もユウマ以外を乗せるのは抵抗有るから、それはわかるわ。
でも、最近急に様子が変わったの。
さっき『今度は』と言ってたからわかる様に、黙っていなくなることは初めてではないの。というか、もう何度目かしら。
厄介なことに、アイリスちゃんは空間魔法のスキルが有って、ステラと一緒に行って把握しているポイントならテレポートできるのよね。
ステラも無闇に連れて行くんじゃなかったと反省してるけど、ステラのせいじゃないと思うわ。

実は、今回の家出(?)の前に、アイリスちゃんが悩みを打ち明けてくれたわ。
まだユウマには話してないんだけど、そろそろ聞いてもらった方が良いかも知れないわね。
「ユウマ、アイリスちゃんのことなんだけど……。」
私は困った様子で考え込んでいるユウマに話しかけた。
「ん?どうしたの?」
「少し前にアイリスちゃんが私に相談して来たの。」
「そうなの?」
「黙っててごめんなさい。あなたに話すべきかどうか迷ってて……。」
「そりゃあ、僕に知られたくないこともあるだろうし、仕方ないよ。」
「ありがとう。でも、未だに家出を続けているのは気になるから、やっぱりあなたに話しておこうと思うの。」
「……。」
「この前、私が馬たちの様子を見に行った時なんだけどね……。」

~~~~~~~~~~
「あのー。ルナおばさん、少し良いですか?」
「あら、アイリスちゃん、どうしたの?」
「相談したいことが有るんですけど、聞いてもらえますか?」
「もちろん。場所変えた方が良いかしら?」
「……そうですね。」
アイリスちゃんは、ベルの方をチラッと見て、そう答えた。
多分、母親に聞かれたくないことなのね。
「わかったわ。家の中で話しましょうか。」
「良いんですか?」
「今はちょうどユウマも出掛けてるし、空いてる部屋も有るから大丈夫よ。」
「ありがとうございます。」

「それで、相談って何?」
「私、乗馬施設の会員さんを乗せたくないんです。」
「どうして?」
予想は付くが、一応確認しとかないとね。
「あ、皆さん優しくしてくれるので、好きなんですよ。でも、ちょっと…何て言うか……。」
「乗るのが上手くないっていうこと?」
「え?あ、はい……。私はもっとレベルの高い運動ができる様になりたいんです。」
「それは、私もわかるわ。でも、それならユウマに正直に言えば、ユウマだけが乗るようにしてくれるんじゃない?」
「それは、そうだと思います。でも、あのー……実は、私お父さんも乗せたくなくて……。」
「やっぱり。最近そんな感じがしてたの。でも、あなた以前はユウマに乗ってもらうの楽しみにしてたのに、どうしたの?」
「前はそうだったんですが、最近急にお父さんに触られるのも嫌になったんです。あ、お父さんが好きなことに変わらないんですが、なぜか身体が拒絶してるみたいな感じで……。私自身戸惑っているんです。」
あー、何となくわかったわ。
「お母さんには、相談した?」
「はい。でも、お母さんは『どうして?ユウマさんに乗ってもらえるなんて羨ましいわ。』とか言って、まともに聞いてくれないんです。」
「あらあら。」
ベルは、ユウマに夢中過ぎてダメダメね。
「だから、ルナおばさんに相談しようと思ったんです。」
「そういうことね。えーとね……。ユウマに対してそういう反応が出てきたのは、きっとあなたが大人になったということよ?」
「え?」
「言い換えると、子供を産める様になったということよ。」
「それとどういう関係が有るんですか?」
アイリスは首を傾げた。
この仕草可愛いわね……。
「ユウマが触れると、あなたは発情してユウマを誘ってしまう可能性が高いわ。でも、あなたとユウマとでは近親交配になってしまう。だから、本能的にユウマを避けてるんじゃないかと思うの。」
「そうなんですか?」
「多分間違いないわね。」
「原因がわかって少し安心しました。でも、元々の問題は解決してないですね。」
「レベルの高い乗り手がいないっていうこと?」
「そうです。他の街もいくつか見てみましたが、いなさそうですし……。」
「それで、時々いなくなってたのね……。この世界は、あまり乗馬は一般的でないみたいね。馬に乗るのは実用目的がほとんどで、趣味で馬に乗ってる人はお金持ちくらいよ。私たちの元の世界なら、ユウマよりレベルが高い人もたくさんいるみたいだけどね。」
「そうなんですね。」
「あ……。えーと。私が把握してないだけで、実際にはこの世界でもレベルの高い乗り手がいるかも知れないから、諦めないで!」
アイリスちゃんのあまりにがっかりしたいこと様子に、私は慌ててそう付け足した。
~~~~~~~~~~

「アイリスがそんなことを……。」
「ええ。私も『諦めないで』とか無責任なこと言わなければ良かったんだけど……。」
「まあ、それは仕方無いよ。で、今日はリーソンに探しに行ったという訳か。」
「そうみたい。それにしても、アイリスちゃん遅いわね。」
アイリスちゃんはテレポートで帰って来るから、既に着いてても良いはずよね。
「確かに……。やよいさんに聞いてみるか。」
ユウマはそう言って、通信具を手に取った。
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