異世界から来た馬

ひろうま

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第5章 期待

第27話 アイテムボックス その2

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◆Side アイリス◆
競技会会場で一晩過ごした翌朝、私は身体に違和感を覚えた。
私は、一瞬この場所の魔力に影響されたのかと思った。
確かにそれもあるかも知れないが、冷静に分析すると、直接的な原因は明らかだった。

暫くしてシメイが近付いて来るのを感じ、馬房の奥に移動した。
この場所では、普段より人の気配も感じ易くなっているようだ。
推測だが、人も気付いてないだけで、魔力を取り込んでいるのではないかと思う。
「おはよう、アイリス。体調はどう?」
そんなことを考えていたら、シメイが馬房の前に来て声を掛けてきた。
「……。」
私は、顔だけシメイの方を向け首を振り、少し尻尾を上げた。
「え?もしかして……。」
シメイも理解したようで、馬房の前から姿を消した。
しかし、こんなタイミングで発情が来るとは。
確か、私の出場する競技は明日だったはずだ。
今日発情が来て、明日収まるとは考え難い。
多分、他の牝馬が発情しても、精々『本来の調子が出せなかった』で済むだろう。
しかし、私は発情した状態でシメイを乗せてまともに運動できる気がしない。
困った……。

私が悩んでいると、リンさんが現れた。
シメイが私のことをリンさんに話したのだろう。
リンさんは、私の馬房に入ると、私の耳元で囁いた。
「アイリス、競技は無理して出なくて良いわ。体調が悪くなったということで、キャンセルできるし。」
確かに無理して競技に出場しても、皆に迷惑を掛けるだけだ。
私は、小声で返事をした。
「はい。」
「冗談でシメイに『妊娠したら発情は収まるんじゃない?』って言ったら、ドン引きされたわ。」
「え?」
それは、今日のうちに子供を作るということだ。
リンさん、冗談とは言え、何て大胆なことを……。
まあ、リンさんは今回私が来た目的を知らないし、何とかしたいと思ってのことなのかも知れないけど……。

◆Side シメイ◆
次の朝、アイリスに会いに行くと、様子がおかしかった。
普通なら、僕が近くに行くと顔を出すアイリスが、顔を出さない。
「おはよう、アイリス。体調はどう?」
少し心配しつつ馬房を覗くと、アイリスは馬房の奥の方にいた。
しかも、顔を向こうに向けている。
「……。」
馬房に入ろうかと思った時、アイリスは振り返って、首を振った。
近付くなっていうことか?
そう思った矢先、今度はアイリスが少し尻尾を上げた。
「え?もしかして……。」
僕は状況を理解した。
この時期の競技会は、牝馬の発情と重なり易い。
しかし、発情しても運動に影響がない馬もいるし、大抵の馬は集中力を欠く程度だ(重要な大会では、それが致命的な場合もあるが)。
だが、アイリスの場合はその比ではない。
僕は、明日の競技はキャンセルせざるを得ないと思った。

「それは、困ったわね。」
僕は、アイリスが発情したので、明日の競技をキャンセルするつもりだと林藤先輩に告げた。
先輩は、今回僕がアイリスをここに連れてきた目的を知らないから、競技に出られない事を残念に感じているようだ。
「すみません。」
先輩を騙している罪悪感も合わさり、自然と謝罪の言葉が口から出た。
「謝ることは無いわ。でも、そうね……。」
「……?」
「妊娠したら発情は収まるんじゃない?」
「えっ!?」
予想外の先輩の言葉に、僕は思わず引いてしまった。
「じょ、冗談よ!妊娠してしまったら、今後困るもんね。」
先輩は、その僕の反応を見て、慌ててそう言った。

夕方、今日分の競技も終わり、少し時間が空いた。
今が、元々の目的を果たすチャンスであるが、今アイリスに近付くのはリスクがある。
どうしようか考えていたら、朝に林藤先輩が言った言葉を思い出した。
申し訳ないが、先輩を利用させてもらおう……。

「林藤先輩、今時間あります?」
先輩が独りになった時を見計らい、僕はそう声を掛けた。
「大丈夫よ。どうしたの?」
「済みませんが、アイリスをあっちの方に連れて来てもらえませんか?僕は先に行っておくので。」
僕は、昨日アイリスと一緒に行った場所の方を指差しながら言った。
「あら。もしかして、私が言った案を試す気になったの?」
「……。」
僕は否定も肯定もできなかった。
否定したいところだが、そうすると、『じゃあ何のために?』となるからだ。
「まあ、良いわ。準備するから、先に行ってて。あ、でも、場所がわからないか……。」
「アイリスに、昨日の場所と言えばわかると思います。」
「そう。ん?つまり、昨日から下調べをしていたということかしら……。」
先輩が変なことを考え出したみたいなので、僕は慌ててその場を立ち去った。
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