異世界でも馬とともに

第６章 最後の神獣

７１－エピローグ

南に侵略者が現れたという連絡があったのは、最後だった。

「ステラ、ありがとう！何度も申し訳なかったね。」
「問題ないわ。じゃあ、アタシはクレアの所に行くわね。」
「うん、お願いね。」
ステラと別れた僕たちは、テレポートポイントからリフィに乗って、コリーさんに指示された場所に向かった。
レモンは、相変わらず、僕に抱えられている。

「あれみたいだよ。」
リフィがいち早く、侵略者の集団を発見した。
と言っても、僕には全く見えなかったが……。
さすがに、目が良いな。

しばらくすると、僕にも侵略者の姿が見えてきた。
そして、その侵略者は、人に近い姿をしていた。
ただ、微妙に人と違うので、それが凄く気持ち悪かった。
「レモン、よろしくね！」
「任せて！」
「どこかへ降ろしてもらう？」
「空からの方が見通せるし、ひとまず、ここから幻術を使ってみるわ。」
レモンが幻術を使うと、侵略者たちは、仲間同士で相戦い始めた。
見事に、幻術に掛かっているようだ。
知能が高い方が幻術に掛かりやすいらしいので、この侵略者の知能はそこそこ高いのだろう。
侵略者たちは、同士討ちで、すぐ壊滅状態になった。
あれ？これ、楽勝過ぎない？






～～～
「エルミナ、おめでとう！」
「「おめでとう！！」」
「ありがとうございます！」

大侵略は神獣たちの活躍で、呆気なく終わった。
一番苦戦したのは西だったようだ。
侵略者の出現率範囲が広いため、セルリアとバーンだけで対応するのは無理があり、勇者との協力ができていなかったら、もっと厳しかっただろう。
そのような協力ができたのは、もちろんセベスさんの尽力のお蔭である。

結局、すべての場所に侵略者が現れなくなるまで、5日掛かった。
大した期間ではない様に思えるかも知れないが、昼夜通して現れる侵略者たちに対応するのだから大変なのだ。
HPやMPが上限無しになった皆だから問題無かったけど、そうでなければジリ貧になった可能性もある。
前回は、その上、無理のある配置だったのだから、そりゃあ皆ボロボロにもなるわけだ。

ちなみに、リフィは、大侵略が終わったら、また旅に出た。

そして、大侵略から約半年。
今日、エルミナが無事出産したのだ。
エルミナと同じく、黒い女の子だ。
「種族は、フォールン・ペガサスになってるね。当然だけど。」
僕は閲覧で種族を確認して、そう言った。
「でも、私たちの子は上位種だったんでしょ？」
そう言ったのはクレア。
クレアとステラの子は3ヶ月前（なんと、同じ日に）産まれたんだけど、なぜか各々ハイ・ユニコーンとハイ・バイコーンとなっていた。
上位種が産まれた理由としてクレアとステラが魔力の高い環境にずっといたからかというのを考えたが、エルミナの子もそうなる想定だが実際にはならなかった。
予想した理由が違っているのか、そもそもフォールン・ペガサスに上位種がないのかは不明だが。
「あのー。この子にも名前を付けてもらえますか？」
エルミナが遠慮がちに聞いて来た。
「そうだね、えーと……。ノアはどうかな？」
「良いですね！ありがとうございます！」
ノアというのは、ノアール＝黒から来ている。
ちなみに、名前はクレアの子には  リーア、ステラの子にはシーラと付けた。
なお、こちらは直感的なもので、特に意味はない。

リーアとシーラは、予想通り成長が速く、既に成体になっている。
そして、マモルはそこまでではないが、もう見た目3歳位。
普通の人間と比較すると、凄い速さだ。
これは、マモルがハイ・ヒューマンだからか、馬とのハイブリッドだからなのかはわからない。
そして、知能については5歳児並みではないだろうか。
リーアとシーラは既に成体になっているが、知能的にはマモルと同じ位に感じる。
それもあってか、マモルはリーアとシーラとは非常に仲が良く、一緒に遊んでいることが多い。

ドゥフディさんは、マモルに手が掛からなくなったので、冒険者としての活動も再開した。
あと、僕がいないときには、家の用事も手伝ってくれているようだ。

セベスさんは、エラスの幹部を辞職し、リーソンで冒険者となった。
エラスの為政者に黙って勝手な事をした責任を取った形だ。
本来なら罰を受けるはずだが、セベスさんは大侵略の功績によりエラスの人に人気が有り、辞職するのみで許されたようだ。
なお、大侵略の第一陣以降、エラスの人とリーソンの獣人の協力関係が進み、エラスの人間以外を廃除する方針に反対する人々が現れているらしい。
近いうちに反乱が起きるのではないかという噂もある。
あと、勇者たちだが、元の世界で亡くなってしまった僕と違い、希望すれば元の世界に戻れるそうだ。
元の世界に未練のない人たちが選ばれているとは言え、目的が果たされた今、戻れるなら戻りたいという人も多いらしい。
ただ、移転できるタイミングは頻繁ではなく、かなり多くの者が勇者として移転されているので、希望してもすぐにとはならないようだ。

～～～
大侵略の混乱が落ち着いた後、僕は家の側の土地を買って、乗馬施設を作った。
ベルタスさんに相談したら、セラネスの乗馬施設の支店（？）としてくれるなら協力すると言われたので、そうすることにした。
そして、何頭か馬を連れて言っても良いということだったので、牝馬を3頭連れて来た。
牝馬ばかりなのは、僕の所に来たい馬を募ったら、牝馬たちが我先にと名乗りを上げたからだ。
その中から、セラネスにおける主力を除く3頭を選んだ。
クレアが「牝馬なら、マスターとの子供もできるから良いわね。」とか言っていたが、そんなことをするつもりはない。
まあ、普通に種牡馬に種付けしてもらって、子供を産ませるのはありだとは思うけど。
ちなみに、マモルは早いと思ってまだ馬に乗せてないが、いつも僕がルナに乗るのを興味深々で見ている。
この前、マモルに乗馬に興味があるのか聞いてみたら、「僕もお母さんみたいに美しく運動できるようになりたい！」って嬉しそうに言っていた。
思わず「そっち！？」って言ったけど、よく考えると、ルナが僕を乗せて運動しているだけで僕は何もしていないように見えると思うから、そうなるのは仕方ない気もする。
近いうちに馬に乗せて乗せてあげよう……。そう、僕は心に誓うのだった。


――完――