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1.転生猫
しおりを挟む「にゃーん」
何か呼んでる……これは猫の声?
「にゃーんにゃ――……」
ん?これって僕の声?というか、僕は死んだはずじゃ……
目を開けると、大自然の中で寝ていたようで、人であったはずの僕は猫になっていた。
長毛種であるのか、白い毛が風に揺れ、絡まってしまった毛が痛い。
僕、どうして猫になってるの?それより、僕は死んだ……ん?どうやって死んだんだっけ。
どんな人物だったかも思い出せない。
知識は……うん、あるな。
でも、名前も年齢も思い出せないや。
とりあえず歩きだし、目的もなく森を散策していると、何やら嫌な気配がして木に登れば、見た事のない生き物が現れた。
何あれ。
四足歩行の鳥が群れてる。
似たようなのを知ってるような……うーん、待って。
今思い出す。
えっと確か……あっ、そうそう!グリフォンだ。
架空の生き物だと思ってたんだけど……ん?ここってもしかして、前世と違う世界?
グリフォンの群れは光の方へ向かっていき、僕も木の上から彼らを追った。
森が開けると、そこには眩しいくらいの美しい景色が広がっていたのだ。
草花が生い茂り、滝がいくつもあって渓谷になっている。
下を見れば断崖絶壁。
しかし、恐怖は感じない。
なぜなら、空飛ぶ色鮮やかな鳥達が、あまりにも気持ち良さそうに飛んでいたからだ。
そして、グリフォンの群れも一気に飛び立つ。
その瞬間、風が吹き上がり、虹が見えて更に美しい幻想的な世界を見せてくれた。
綺麗……こんな場所、僕は知らない。
違う世界。
知らない世界。
知らない景色。
ああ……こんなにワクワクするなんて、思ってもみなかった!僕も……僕も行きたい。
僕も、もっとたくさんの場所を見てみたい。
自然が、景色が、世界が、こんなに綺麗だなんて初めて知った。
前世の僕に関しては思い出せそうにない。
しかし、心のどこかで前世の自分の環境に絶望していたような気がしていた。
だからこそ、死んだはずなのに、なぜ生きているのかと落胆したのだ。
だが、今は違う。
僕は人でもなければ、生きる世界も違うのだ。
「にゃーん!(よーし!)」
このファンタジーな世界で、猫生を楽しむぞ!そうと決まったら、まずは……人だ!人を探そう!人を探せば、可愛い猫を旅仲間に加えてくれるかもしれない。
猫はどんな子でも可愛いもんね。
僕だって絶対に可愛いはず!
その後、身軽な猫に産まれて良かったと思いながら、僕は美しい渓谷を歩きまわった。
果実や水が豊富なため、生きるのに困る事はなく、モンスターにも襲われる事はなかった。
そうして、何日経ったかも分からなくなった頃、僕は光の玉に囲まれていた。
「ふふふ……可愛い子。迷子かしら」
「綺麗な猫だ。猫なんて、久しぶりに見た」
「あら、目の色が左右で違うわ!綺麗ね。金色に空色なんて、素敵だわ」
「まだ子ども……いや、これで大人か。驚くほど小さいな」
光の玉は会話をしているようで、耳をピクピクと動かせば、更にいろんな音が聞こえてくる。
「にゃー(こんにちは)」
「こんにちは。キミは迷子?」
「ニッ(違うよ)」
「じゃあ、何をしに精霊の森に来たの?」
精霊の森?ここって、精霊の森なの?じゃあ、喋ってる光の玉は精霊かな。
「にゃー(人族を探してるんだ)」
「どうして?」
「に?にゃーん(なんとなく?僕はこの世界について、何も知らないから)」
「なるほど。外界から来たのかな?珍しい事じゃないけど、猫は珍しいね」
「にゃ?(そうなの?)」
「そうさ。猫に限らず、動物は皆進化した。人間、獣人、竜人、魔人、エルフ。精霊、魔物、幻獣、聖獣。ヒト種か霊獣種に分かれ、キミのような子は先祖返りと呼ばれてる」
先祖返り?ファンタジーすぎて、僕の知ってる事は役に立たなそう。
やっぱり、こうやって知らない事を教えてくれる旅仲間か、飼い主……家族……いや、やっぱり仲間が欲しいな。
「にゃー?(僕はずっとこのまま?)」
「進化のこと?先祖返りは進化はしない。でも、信仰さえ集めれば神獣として生きられるよ。そうなれば、信仰心で魔法が使えるようになる」
おお!魔法!使ってみたい!でも、信仰心ってなると難しそうだ。
「キミは可愛いから、いろんな方面から信者を集められそうだね。その証拠に、ここに来るまで魔物に襲われなかったでしょ」
「にゃ(うん)」
「そうだよね。食べても腹の足しにすらならなそうだし……じゃなくて、可愛いうえに先祖返りなら、自然はキミに味方する」
腹の足しにならない……まさか、僕の存在って他の魔物に気づかれてた?そのうえで無視……なるほど。
それはそれで、なんとも言えない感情が――
「自然が大切にするものは、どんなものだろうと、魔物達は襲ったりしない。自然が豊かでなければ、彼らも生きられないし、ボク達だって生きられないからね」
なるほど。
じゃあ、ビビらず自由に歩きまわっても良かったのか。
「にゃ?(絶対に襲われない?)」
「うーん……絶対とは言えないかな。餓死寸前、負傷時、住処への侵入……とまあ、相手とキミの状態によっては襲われることがあるかもね」
全然駄目だった!僕の想像より危険だったよ!そんな事言われたら、やっぱり警戒しないといけない。
僕は毛を逆立て、光の玉に向かって初めての威嚇をした。
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