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6.貴族の家
しおりを挟む目が覚めると、知らない人間に囲まれていたが、キルシュと呼ばれた男性の影から、黒い靄のような犬が出てきたのだ。
漆黒の刃!?なにそれ、格好いい!厨二病みたい!なるほど、これがファンタジーあるあるか。
僕は漆黒の刃に近づき、キルシュの影を触ってみる。
だがそこは、ただの床だ。
次に漆黒の刃の体に触れると、やはり霧のように触れる事ができず、面白くなって飛びついたり猫パンチをしたりして遊んだ。
すると、突然知らない声が頭に響く。
『やあ、おチビさん。私はヘルハウンドという幻獣だ。キミは先祖返りかい?』
「にゃ!にゃーん(そうだよ!クロノアが言ってた)」
『……そうか、秘境の精霊王に会ったのか』
すると、キルシュの「えっ」という声が漏れ、信じられないものを見るように、僕に目を向け、ジークに耳打ちする。
ジークもまた、僕を見て口を開くが、漆黒の刃が僕の視界に入ってきた。
『周りは気にしなくていい。周囲の音を消してやった。これで静かに話せるだろう?』
「にゃ?にゃー(何が訊きたいの?お願いをきいてくれたら教えてあげる)」
『なんでもする』
判断が早いな。
主人がいるのに、なんでもするなんて、言って良かったの?まあ、いいや。
僕には関係ないし、僕のお願いは一つだけだから。
「ニィーッ(可愛い僕を袋詰めにしたジークにお仕置きして)」
『よし、任せな』
判断が早い漆黒の刃は、ジークのお尻に噛みつき、痛がるジークを見る事ができた。
満足である。
これが見たかったのだ。
「にゃーん!にゃ。にゃーん(ありがとう!僕はヌイ。クロノアからつけてもらった、大切な名前だよ)」
『ヌイか。秘境の精霊王から加護を貰ったのか……他にもあるようだ』
他?それならドリュアの蝶かな。
でも、ここに蝶はいないし、ドリュア自身?
「にゃ?(ドリュアのこと?)」
『大樹の森の精霊王まで……加護が混ざったことで、不思議な気配となっていたのか。ヌイはどうしてここに来たんだい?秘境の精霊王に会ったのなら、秘境にいたんだろう?』
「にゃーん(秘境が綺麗だったから。もっと美しいものを見たいんだ。その為に、旅をする仲間を探しに来た。人がいると何かと便利)」
ひと鳴きに全てを詰め込むと、漆黒の刃は一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐに僕の言葉を理解してくれた。
この実験により、にゃーにゃー言わなくても、会話が成立するという発見ができたのだ。
これは素晴らしい事だ!
『ヌイの旅は、いろいろなものを見るという事でいいかい?子猫のヌイを保護すると、この家の者は言っている。ここで暮らし、信頼できる者を見つけ、信仰心を集めながら旅をするのも悪くないだろう?』
「にゃーん(それって、この家に縛られたりしない?僕は飼われる気はないよ。仲間ならいいけど、主人はいらない。でも、僕の下僕から歓迎する)」
『フハハハ!下僕か!なるほど。下僕なり仲間なり、好きにするといい。猫は自由で気まぐれ。懐いたと思ったら離れるのも、猫の良いところだ。ヌイの帰る場所は秘境と決まっているだろうからな』
ふむ、なかなか話の分かる幻獣だ。
僕は飼い猫になるつもりはない!疲れたら秘境に帰る予定だし、ドリュアも呼んでいいって言ってたからね。
『さて、キルシュが私の言葉を伝え終わったようだ。私を通してヌイもこの者達と話してみるといい』
漆黒の刃が周囲の音を戻すと、全員が秘境について話していた。
漆黒の刃は、みんなの名前を教えてくれる。
「秘境があるとは知っているが、まさかヌイが秘境から来たとはな」
ジルベスタはイケおじで、ジークと同じ赤髪だ。
しかし、僕の好みではない。
どちらかと言えば、ギルマスの方が好みである。
「ヌイちゃんから、まさか秘境の精霊王が出てくるとは思わなかったわ」
ルナリアは美人だ。
銀色の髪は美しく、若い頃はもっと綺麗だったのだろう。
なにより、公爵家出身というのがポイントだ。
何かと権力を持っていそうで怖い。
「ヌイ、こちらの声が聞こえるようになったんだよね?私はジンカだよ。おいで」
ジンカはルナリアに似て、銀髪に中性的な顔立ちをしている。
だが、なんとなく怖い。
信頼できそうではあるが、なぜかこの中で一番危険な気がして、僕はおとなしくジンカの元へ行った。
「兄上、俺にも触らせて~。ヌイちゃん可愛い」
ルートも銀髪ではあるが、顔立ちはジルベスタに似ている。
しかし、おっとりした喋り方と性格のようで、大型犬のように思える。
ふむ……この兄弟は、性格がみんな似てないんだなあ。
ジークは男らしくて雑だし。
ここのみんなは貴族だし、旅仲間にはなれなそう。
でも、ここで暫くお世話になるのは悪くない!まともな貴族っぽいし、何より強そうだ。
猫の僕がいたら、どのくらい猫沼にはまるのかも気になる。
「にゃーん(暫くお世話になります)」
『世話になると言っている』
「お世話になると、言っているようです」
僕の言葉を漆黒の刃が通訳し、そこから更にキルシュが通訳する。
これはこれで、とても大変そうである。
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