ファンタジーな世界に猫が一匹、仲間を集めて旅をする

翠雲花

文字の大きさ
16 / 21

16.狂乱の英雄

しおりを挟む


 ルキウスにお腹をスハスハされながら、騎士団の寄宿舎に無事到着。
 初めての場所に、初めて会う人達。
 そして騎士団長であるジルベスタが、ルキウスと僕を見て……スッと目を逸らした。


「父上、突然だけれどルキウスの発散に、騎士団を貸してほしい」

「……ヌイに発情してるように思うが?」

「気のせいだよ。ヌイも、ルキウスが戦う姿を見てみたいでしょ?」

「にゃ!(見たい!)」


 僕はスルリとルキウスの腕から逃れ、体を伸ばす。
 すると、ルキウスはふらふらと僕の元へ来るため、僕は捕まらないようにしながら、出会った人達の肩に乗り、ルキウスをその人達にぶつけていく。
 面白いくらいに、ルキウスは僕が乗った人を倒していくため、完全に通り魔となっている。


「父上、このままでは被害者が続出するよ」

「はぁ……仕方ない。ヌイ!私についてこい」


 僕は走るジルベスタを追い、ルキウスも僕を捕まえようと追ってくるため、スピードアップする。
 もはや、案内役のジルベスタも必死だ。
 とても不気味な絵面であるからか、すれ違う人達は道をあけていき、「ヒッ」と喉を引き攣らせる人もいた。


 そうして広い場所に出ると、そこにはたくさんの人がいて、ジルベスタがこちらに振り向く。
 一瞬、後ろにいるルキウスを見て顔を引き攣らせるが、「あそこに突っ込め!」と必死の形相で言われた。
 それで察したのだ。


 ああ、なるほど!あそこに突っ込んで、ルキウスをなすりつければいいんだ!


 と……僕は迷わず群れに突っ込み、抜け出した先にはジンカがいた。
 どうやら、先回りしていたらしい。
 そして僕の背後では、男達の悲鳴が聞こえ、ルキウスの笑い声が聞こえてくる。


「ヌイ!頑張ったね」

「にゃ……んなぁああ(楽しかったけど……怖かったぁああ)」

「よしよし、お疲れ様。確かに、あのルキウスに追われるのは怖いよね」


 そう言うジンカが指差す先には、魔法も剣も使って暴れるルキウスがいた。
 返り血を浴びながら、狂気じみた笑い声。 
 負傷した騎士達を運んで治療する者。
 ルキウスをなんとかして止めようとする者。
 頭を抱えるジルベスタ。
 とんでもない事になっていると分かってはいるが、ルキウスがあまりにも楽しそうで魅入ってしまった。


 ルキウス……綺麗。
 なんだろう……いつものルキウスより好き。


「ヌイ?……もしかして、ルキウスがいいの?」

「みゃあ(美しいもの見つけた)」

「……クロノア様とドリュア様に反対されるよ」

「にゃにゃ(見てるだけ。見てるだけでいいの)」


 ダンスでも踊るように舞うルキウスを見つめ、人がどんどん減っていく。
 舞台の中にでもいるようなルキウスは、息を切らしながら顔を伏せ、邪魔する人がいなくなると、不敵な笑みを浮かべて顔をあげる。
 白金色の綺麗な髪は返り血で赤く染まり、ルビーのような赤い瞳はこちらを捉え、僕の名前を愛しげに呼ぶ。


「ヌイ……ヌイ……」


 あ……駄目だ。
 僕、ルキウスを連れていきたい。
 ジンカと一緒だ。
 僕のこと大好きで可愛い。


 僕がルキウスの元へ行けば、ルキウスについた血が綺麗になる。
 後ろを振り向けば、ジンカが仕方なさそうに笑っていた。


「にゃー(ルキウス、僕の)」

「うん、私はヌイのもの」

「にゃ?(一緒に来る?)」

「ッ……やっと誘ってくれたね。行くよ。ヌイと一緒に行く」


 ルキウスの肩に乗り、スリスリすると、血の匂いから僕の匂いに変わる。
 僕の大切な人が増えた喜びは、スリスリだけでは不十分だ。
 そこで、僕はルキウスの頬をザリッと舐め、ルキウスが固まっているうちに、ジンカの元へ行ってジンカの頬も舐める。


「ルキウスに関しては、ヌイと離した方が危険だと分かったから仕方ないね」

「ジンカ、最初からそれが目的か?騎士団の被害が尋常じゃないぞ」

「そうだね。試すには騎士団の方が安心だし、人相手でも容赦がない事が分かって良かったよ」

「……治療も大変なんだがな」

「そこは、騎士団の治癒師を信頼しての事だよ。瀕死でも問題なく治せるなんて、ここ以外にない」


 どうやら、ジンカはルキウスを試していたようだ。
 確かに、ジンカがルキウスを気にしていたのは知っていた。
 寝ている僕をルキウスに預けていた事も気になっていたし、発情しているルキウスに僕を預けたこともおかしいと思っていた。


「にゃー?(ジンカ、ルキウスのこと気になってた?)」

「そうだね。ヌイが気にしていなかったのが驚きなくらいには、ルキウスをどうするべきか悩んでいたよ。でも、精霊王達の話を聞いて、ヌイがルキウスに関して全く気づいていない事が分かったからね。少し試してみた」

「私はずっとヌイにアピールしてたからね。それこそ、ジンカ様よりもずっと」

「ルキウス、もう敬称はいらないよ。それと、私もアピールはしていた。ルキウスのような変態的なアピールではなくてね」


 ジンカとルキウスは、それぞれアピールしていたらしい。
 僕は二人に関して全く気づいていなかった。
 それこそ、二人には仕事があるからと、最初から仲間にする事を考えてすらいなかったのだ。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! できるかぎり毎日? お話の予告と皆の裏話? のあがるインスタとYouTube インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

処理中です...