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16.狂乱の英雄
しおりを挟むルキウスにお腹をスハスハされながら、騎士団の寄宿舎に無事到着。
初めての場所に、初めて会う人達。
そして騎士団長であるジルベスタが、ルキウスと僕を見て……スッと目を逸らした。
「父上、突然だけれどルキウスの発散に、騎士団を貸してほしい」
「……ヌイに発情してるように思うが?」
「気のせいだよ。ヌイも、ルキウスが戦う姿を見てみたいでしょ?」
「にゃ!(見たい!)」
僕はスルリとルキウスの腕から逃れ、体を伸ばす。
すると、ルキウスはふらふらと僕の元へ来るため、僕は捕まらないようにしながら、出会った人達の肩に乗り、ルキウスをその人達にぶつけていく。
面白いくらいに、ルキウスは僕が乗った人を倒していくため、完全に通り魔となっている。
「父上、このままでは被害者が続出するよ」
「はぁ……仕方ない。ヌイ!私についてこい」
僕は走るジルベスタを追い、ルキウスも僕を捕まえようと追ってくるため、スピードアップする。
もはや、案内役のジルベスタも必死だ。
とても不気味な絵面であるからか、すれ違う人達は道をあけていき、「ヒッ」と喉を引き攣らせる人もいた。
そうして広い場所に出ると、そこにはたくさんの人がいて、ジルベスタがこちらに振り向く。
一瞬、後ろにいるルキウスを見て顔を引き攣らせるが、「あそこに突っ込め!」と必死の形相で言われた。
それで察したのだ。
ああ、なるほど!あそこに突っ込んで、ルキウスをなすりつければいいんだ!
と……僕は迷わず群れに突っ込み、抜け出した先にはジンカがいた。
どうやら、先回りしていたらしい。
そして僕の背後では、男達の悲鳴が聞こえ、ルキウスの笑い声が聞こえてくる。
「ヌイ!頑張ったね」
「にゃ……んなぁああ(楽しかったけど……怖かったぁああ)」
「よしよし、お疲れ様。確かに、あのルキウスに追われるのは怖いよね」
そう言うジンカが指差す先には、魔法も剣も使って暴れるルキウスがいた。
返り血を浴びながら、狂気じみた笑い声。
負傷した騎士達を運んで治療する者。
ルキウスをなんとかして止めようとする者。
頭を抱えるジルベスタ。
とんでもない事になっていると分かってはいるが、ルキウスがあまりにも楽しそうで魅入ってしまった。
ルキウス……綺麗。
なんだろう……いつものルキウスより好き。
「ヌイ?……もしかして、ルキウスがいいの?」
「みゃあ(美しいもの見つけた)」
「……クロノア様とドリュア様に反対されるよ」
「にゃにゃ(見てるだけ。見てるだけでいいの)」
ダンスでも踊るように舞うルキウスを見つめ、人がどんどん減っていく。
舞台の中にでもいるようなルキウスは、息を切らしながら顔を伏せ、邪魔する人がいなくなると、不敵な笑みを浮かべて顔をあげる。
白金色の綺麗な髪は返り血で赤く染まり、ルビーのような赤い瞳はこちらを捉え、僕の名前を愛しげに呼ぶ。
「ヌイ……ヌイ……」
あ……駄目だ。
僕、ルキウスを連れていきたい。
ジンカと一緒だ。
僕のこと大好きで可愛い。
僕がルキウスの元へ行けば、ルキウスについた血が綺麗になる。
後ろを振り向けば、ジンカが仕方なさそうに笑っていた。
「にゃー(ルキウス、僕の)」
「うん、私はヌイのもの」
「にゃ?(一緒に来る?)」
「ッ……やっと誘ってくれたね。行くよ。ヌイと一緒に行く」
ルキウスの肩に乗り、スリスリすると、血の匂いから僕の匂いに変わる。
僕の大切な人が増えた喜びは、スリスリだけでは不十分だ。
そこで、僕はルキウスの頬をザリッと舐め、ルキウスが固まっているうちに、ジンカの元へ行ってジンカの頬も舐める。
「ルキウスに関しては、ヌイと離した方が危険だと分かったから仕方ないね」
「ジンカ、最初からそれが目的か?騎士団の被害が尋常じゃないぞ」
「そうだね。試すには騎士団の方が安心だし、人相手でも容赦がない事が分かって良かったよ」
「……治療も大変なんだがな」
「そこは、騎士団の治癒師を信頼しての事だよ。瀕死でも問題なく治せるなんて、ここ以外にない」
どうやら、ジンカはルキウスを試していたようだ。
確かに、ジンカがルキウスを気にしていたのは知っていた。
寝ている僕をルキウスに預けていた事も気になっていたし、発情しているルキウスに僕を預けたこともおかしいと思っていた。
「にゃー?(ジンカ、ルキウスのこと気になってた?)」
「そうだね。ヌイが気にしていなかったのが驚きなくらいには、ルキウスをどうするべきか悩んでいたよ。でも、精霊王達の話を聞いて、ヌイがルキウスに関して全く気づいていない事が分かったからね。少し試してみた」
「私はずっとヌイにアピールしてたからね。それこそ、ジンカ様よりもずっと」
「ルキウス、もう敬称はいらないよ。それと、私もアピールはしていた。ルキウスのような変態的なアピールではなくてね」
ジンカとルキウスは、それぞれアピールしていたらしい。
僕は二人に関して全く気づいていなかった。
それこそ、二人には仕事があるからと、最初から仲間にする事を考えてすらいなかったのだ。
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