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19.出発前夜
しおりを挟む暫くの間、何も言わずに本を眺め、ロクローが眠ってしまったところで、ジンカに声をかけられた。
「ヌイ、他の本は空間収納に入れたから、この図鑑も持って帰ろうか」
「にゃー(ロクロー、疲れちゃった?気持ち良さそうに寝てる)」
「そうだね。もうこんなに歳をとってしまったんだ……ロクロー?私達は帰るよ。本も、今までも、本当にありがとう」
ジンカは微笑みながら優しくロクローに声をかけ、ロクローはうっすら目を開けると穏やかな顔で頷いた。
「行ってらっしゃいませ、ジンカ様」
そう言って再び目を閉じたロクロー。
ジンカの目には涙が浮かんでいるが、顔を舐めるとジンカに笑顔が戻る。
悲しいものは悲しい。
寂しいものは寂しい。
それでも、ジンカには笑顔でいてほしいんだ。
だって、僕のジンカだもん。
それと、これからはルキウスにも、笑顔でいてもらわないと。
その後、帰りは大人しくジンカの腕の中で丸くなり、またしても寝ていた僕は、目が覚めたらルートとジークに見られていた。
「起きたか。明日からここを離れるんだろう?」
「ヌイちゃんに会えなくなるのは寂しいけど、フロディーテ領に来たら、必ず屋敷に来てね。俺も、そろそろ向こうに行かないといけないんだ~」
「二人とも、ヌイが目覚めるのを待ってたんだよ」
遠くから聞こえるジンカの声に、ジンカの姿を探せば、ジンカは窓際で月を見ていた。
そしてその目の前、窓ガラスを挟んだ外側には、なぜかルキウスの姿があった。
明らかに不審者である。
ジンカはルキウスの姿を隠しながらも、ルキウスを視界に入れない為に月を見ているようだ。
「にゃ(ご飯)」
「ふふ、あのまま寝てしまったからね。今取り出すから待って」
そう言って、ジンカが僕の元に来て、空間収納から僕の好きなお肉を出す。
皿に盛りつけられ、芋や魚も混ぜられる。
「ふにゃ~!(美味しそう!)」
「はい、どうぞ。私はルキウスを迎えに行ってくるから待ってて」
そう言ってジンカがいなくなり、僕は少しずつご飯を食べる。
散らかさないように、これでも気をつけているつもりだが、器が邪魔な時は一度外に出して食べる。
そうして食べているうちに、ジンカがルキウスを連れてやって来て、ルートとジークとともに話し始めた。
「ルキウス……ギルドの方はいいのか?」
「問題ないよ。それに、ジーク様に心配されなくても、私は私の力でヌイに会う予定だったからね。でも、連れて行ってもらえるのなら、なんでもするつもりだよ」
ジークはやはり僕に沼っているだけあって、役職持ちだったルキウスも行くというのが、許せないらしい。
ジーク自身は僕について来たかったのだろう。
だからと言って、ルキウスにあたるのは違う。
「ジーク、ヌイちゃんに嫌われるよ~。俺だってヌイちゃんと離れるのは嫌だけど、自分で会いたい時に会うつもりだし、連絡手段も考えてるんだから」
うむうむ、やっぱりルートはお兄ちゃんだ。
ジークは図体だけはデカくて、中身がまだまだ子どもっぽい気がする。
これが末っ子属性か。
「……分かってる。ただ、出発はまだまだ先だと思っていただけだ」
「出発はヌイが決める事だよ。そもそもここに連れて来たのも無理やりだったのだから、ルートのように早めに準備しておくべきだった」
「仕方ないから、ジークにも俺の連絡手段を使わせてあげる。連絡をとりたいなら、手紙くらいは自分で用意しなよ~」
こういうやりとりを見てると、やっぱり兄弟って感じだ。
みんな性格がバラバラだけど、それでもやっぱり家族なんだなぁ。
それぞれが話しているうちに僕は食べ終わり、人同士のやりとりが終わったところで、水を飲み、体を伸ばして毛繕いをする。
人同士の問題は、人が解決すればいい話だ。
僕は会話ができても所詮は猫。
こういった事に首を突っ込むのは違うと思っている。
僕のことは僕が決めるし、誰を連れて行くかは僕が決める。
本人が来たいと言って、尚且つ僕を第一優先にしてくれるなら、その人を連れて行くに決まってるし、僕はジンカとルキウスに無理強いはしてない。
ただ、僕のものになったら話は別だけどね。
「にゃーん(ジンカ、ルキウス、僕も出発の準備する)」
「ヌイは何を準備したいの?」
「ににゃーん(貰った物で、持っていきたい物は持って行く)」
僕が一番持っていきたいものはブラシだ。
ルナリアが選んでくれたブラシで、気持ちいいのだ。
本当は、ルートの手を持っていきたいところだが、それはできないため、そのうち撫でるのが上手な人も仲間に入れたいと考えている。
ブラシを咥え、ジンカの目の前に置けば、ジンカが収納してくれる。
そしてルートに撫で撫でのおねだり。
ジークはひとりでブツブツと、「袋詰めが悪かったか?」などと呟いているが、実はそれが一番の苦手ポイントと言ってもいい。
それと、僕は必要以上に構われるのが嫌いだ。
行く先々で会うジークとは、とにかく合わないのだ。
ルキウスなんて可愛いと思えるほど、屋敷の中でも会う事が多く、静かについて来るのだから、居心地も悪くなる。
一回嫌になってしまうと、野性的なものなのか、どうしても近づきたくない。
前世の記憶がある事で、嫌いにならずに済んでいる状況だった。
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