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16.推し耐性
しおりを挟む父様の服の中で息を荒くしていると、変態に思えたのか、父様は苦笑いで服の中を覗いてくる。
珍しい表情に、僕は目を丸くしてみるが、次の瞬間、父様に抱きしめられた。
「うげっ……くる、苦しい」
「ユル、可愛いな。本当に私の息子は可愛い」
「確かに僕は可愛いけど、苦しいよ。父様、落ち着いて」
「残念なユルも可愛い。ユハクも、自分の顔には自信があるからな……さすが兄弟だ」
ユハ兄さんは昔から容姿に自信があった。
だが、僕の好みではない事がショックだったようで、今世で僕の推しになった事が嬉しいらしく、今もユハ兄さんに近づけない僕に喜んでいたりする。
ノヴァも僕の好みである事は喜んでいるが、側近として近づけないのは困るようで、面をつけて声を出さずに僕のそばにいる。
「ユル様、そろそろ俺に慣れたらどうだい?」
そう言って、突然僕を抱き上げるヒバリくんは、両手で顔を隠す僕に頬擦りしてくる。
僕の何がいいのか分からないが、ヒバリくんは僕に頬擦りをするのが好きなようで、ついでのように首のあたりの匂いまで吸ってくる。
猫吸いみたいに、ユル吸いをしないでほしい!ヒバリくんは変態さんなのかもしれないけど、僕を吸っても癒し効果はないからね。
「ユル様、俺を選んでくれてもいいからな」
「うぅ……」
やめて!僕は推しと恋はしないんだ!ヒバリくんは本当に格好いいけど、心臓が一つじゃ足りない。
それに、神様一筋なエルフが僕を選んだら駄目だよ。
「ユル、神殿に行ってみるか?ユハクとノヴァも連れて行くしかないが、神殿には元々行く予定ではあったからな」
「父様!それよりも助けて!僕が倒れたら行けなくなっちゃうよ」
お願いだから、のんびり眺めてないで、僕を助けてほしい!こんな時にユハ兄さんがいてくれたら……ユハ兄さん、ユハ兄さん……
「ユヅ、呼んだ?」
「ヒッ!ユ、ユハ兄さん!助け……うぐ、格好いいね、ユハ兄さん」
ユハ兄さんが、突然僕の目の前に現れると、僕の手をとって顔を覗き込んでくる。
今にも口づけをしてしまいそうな距離だが、ユハ兄さんは僕の額に自分の額をくっつけてくる。
「そう?僕にはユヅの表情が分からないけど、きっと可愛い反応をしてくれてるんだろうね」
「ユハ兄さん、どうやってここに来たの?」
「新しい魔術の練習だよ。エルフがよく使ってるでしょ?」
その瞬間、ユハ兄さんが開眼しようとしたため、僕は慌てて目を瞑った。
「ユハ兄さん、開眼しないで!せっかくユハ兄さんは慣れてきたのに」
「ごめんね、どうしても見えていた頃の癖が抜けないんだよ。それと、目を開けてるか閉じているかも、意識しないと分かりづらくてね」
「うっ……僕もごめんなさい。酷い事言った」
ユハ兄さんが僕の推しになっても、僕がユハ兄さんの開眼にまで文句を言うのは間違ってる。
僕も、ユハ兄さんに慣れないと。
それに、ノヴァとヒバリくんにも……慣れないと失礼かもしれない。
「僕、頑張ってユハ兄さんの開眼に慣れる。推し慣れもして、ノヴァとヒバリきゅッ……」
僕が頑張ろうとした途端、ノヴァが嬉しそうに面を外し、ヒバリくんが僕の顔を覗き込んできた。
それにより、僕の心臓がギュッと苦しくなり、そのまま気を失ってしまった。
それから数日後、僕は慣れる為に何度も気を失いながらも、ノヴァとユハ兄さんとは元の状態に戻る事ができた。
最難関であったヒバリくんとは、常に一緒にいる事で隠れなくても話せるようになったが、まだ目を見て話す事は難しく、話すか目を合わせるかのどちらかしかできない。
それでも、僕としては頑張った方で、推し魔物とも毛づくろいをする仲になっている。
「ヒバリくん、今日は神殿に行けるんだよね?父様とユハ兄さんとノヴァは本当に大丈夫?」
「大丈夫。ユル様は俺としか顔を合わせた事がないだろうけど、他のエルフはわりと暗部隊と仲良くしているしな」
そうなの?知らなかった。
というか、僕がヒバリくんとしか会ってないだけっていうのも、不思議な話だ。
これから神殿へ行く僕達は、エルフの使う精霊門の説明を受けていた。
精霊門を通る際、注意すべきは案内役であるエルフから離れない事であり、精霊達の誘惑にのらないことだ。
精霊門という、場所と場所を繋げる特殊な空間では、精霊の誘惑に負けてしまえば、一生出ることができないのだと言う。
精霊も魔力を目的に誘惑するため、捕まえた獲物は死ぬまで手放さないと言うのだから、恐ろしいものだ。
「それよりも今は精霊門だ。ユル様のことは、何があっても誘惑しないだろうが、どうにかしてユル様と一緒にいようとするだろうからな。最悪、全員を誘惑し、魔力は奪わずに死なないように閉じ込められる」
こわ……それって監禁じゃない?監禁だよね?精霊ってよく分からないけど、対価が必要なんでしょ?監禁する為のより良い条件を、僕達に用意してくれてるのかな。
怖いと思いながらも、どこか楽しみだった僕は、ヒバリくんが精霊門を通ってすぐに、父様に抱えられた状態で中へと入った。
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