糸目推しは転生先でも推し活をしたい

翠雲花

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15.推しへの限界

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 あまりの胸の高鳴りに、酸欠状態になって意識が遠くなった僕は、その日以降、ノヴァに慣れる前の状態となって、倒れる事が多くなった。
 それも全て、ヒバリくんが僕に近づいてきたり、僕好みの魔物達が寄ってきたりするからだ。
 それに加え、慣れているノヴァやユハ兄さんとも関わっていたため、僕の推し耐性は一度全て消えてしまい、現在の僕は父様にベッタリとくっついている。


「父様、好き。僕、父様とずっといる」


「ユルは親離れの必要はないな。可愛いうえに、この方が魔王に奪われずに済む」


 そういえば、父様は魔王を知ってるんだよね?魔王もだけど、僕は魔族を見た事がないし、ちょっと気になってはいるんだよね。


「父様、魔王ってどんな人なの?格好いい?」


「格好いいかは分からないな。ただ、強さは本物で、ユルを大切にしているのも事実だ。実際、ユルがいるこの国は、魔物による被害が少ない」


 ダンジョンの件から数か月経っていた。
 結局、討伐部隊は殆どが帰らず、エルヴィーも含めた帰還者数名は療養中だ。
 なんでも、魔物の大量発生が確認されたようで、ダンジョン内は魔族側もどうにかしようと動いているらしい。
 魔物が大量発生した場合、その魔物達は凶暴化するようで、魔族も人間も関係なく襲うのだと言う。
 大量発生は、ダンジョン内の狩りすぎが原因だったらしいが、それによって魔王がフール国に攻めてくる事はなく、チャリオット国の方が魔物の被害が多く出てしまっているのだ。
 それは全て、魔王による魔族への指示であり、フール国に向かう魔物を、チャリオット国を含めた他国に誘導しているようだ。


「魔族は不思議に思わないの?僕がいるとしても、魔王の指示は明らかにおかしいでしょ?」


「現魔王は、それだけ慕われていると考えていいだろうな。魔王の言う事は絶対であると思わせる何かが、現魔王にはあるんだろう。もしくはユルが原因か……」


 僕が原因?僕は何もしてないから、そう考えるのはおかしいよ。
 そもそも、魔王が僕を選んだとしても、それを許さない魔族はいないの?


 唸りながら首を傾げていると、そこにヒバリくんが当然のように現れ、僕はすぐに父様の背に隠れた。


「ユル様は、魔族からも人気だ。勿論、エルフからも神さんからもな。俺に決定権があるとするなら、人間側はお勧めしない。変な嫉妬もなく、自由に過ごせるのは魔族側……もしくは、神殿に来てくれてもいい」


 ヒバリくん、エルフは駄目だよ。
 エルフはみんな美形だし、きっと執着するほどのファンがいるに違いない。
 というか、僕は父様達と一緒にいられるなら、どこでもいいんだ。


「私も、ユハクから聞いたユルの過去を知れば知るほど、ユルを手放した方がいいのではないかと思う。そうは思うが……手放せるわけがないだろう?ユルはまだ、こんなにも小さく無防備で愛らしい」


 父様は庇護欲が凄いよね。
 だから騎士に向いてるのかもしれないけど、父様が王様を裏切る事だけは避けたい。
 

「父様が王様を裏切らないといけなくなるなら、僕はここから動かないよ。僕にとっては父様が一番だ。父様が望むなら、ちゃんとシュッツ家も継ぐ」


「……私はユルを手放したくないだけであって、ユルを縛るつもりはない。ユルには選択肢をたくさん用意しよう。その為の学園も騎士団の見学も、失敗してしまったがな。それでも、ユルと暮らせる未来を私も考える」


 それは僕の選択次第で、父様が国を裏切る事になってもいいってこと?


「シュッツ家のみ、神殿に迎え入れる許可をしよう。俺が許可を出せば、エルフはそれに従う。何も心配する必要はない。ユル様の思考の自由を奪わないのなら、俺達は協力するつもりだ」


「なるほど……確かに、ユルの選択肢を広げるのなら、中立である神殿は良い環境だろうな」


 父様は背に隠れる僕に手を回し、そのまま僕を膝の上に座らせようとする。
 そのため、僕は必死で父様にしがみつき、ヒバリくんの前だろうと関係なく、膝の上で横になる状態で、父様の服の中に頭を突っ込んだ。


「うぅ……父様は僕の心臓をどうしたいの!僕はヒバリくんが好きで、顔を合わせられないんだ!ユハ兄さんもノヴァも、みんな好きで……格好良すぎるのが悪い!ドキドキ死する!大好き!」


「分かった、分かった。好きなのは分かったから、そんなに叫べるのなら顔も出せるだろう」


「それは……は、恥ずかしい」


「愛を叫ぶ方が恥ずかしいんじゃないのか?ユルは難しいな」


 愛を叫ぶ事は恥ずかしくない!むしろもっと叫びたい!大好きな推し達を、大好きだと言う事は何も恥ずかしい事じゃないもん。
 ただ、僕を見ないでほしい。
 僕は遠くから見て……ん?僕、ストーキング能力を上げたらいいんじゃない?


「父様、僕は暗部隊のみんなみたいに、ストーキング能力を上げようと思う」


「暗部隊はストーカーではないからな」


「じゃあ、エルフのみんなに教えてもらう。ヒバリくんは駄目だけど、他のエルフに教えてもらって、僕が推しを見守りたい」


「ユル様、エルフを頼るのなら、俺が教えるから安心してほしいな」


 ヒバリくんは駄目!絶対に格好いいもん。
 教えてくれるヒバリくん……絶対にワルワルが出てて、男らしくてドキドキする。
 ハァハァ……絶対に格好いい。



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