14 / 43
14.推し達
しおりを挟む僕は、ノヴァとユハ兄さんを連れて屋敷を出てみた。
すると、魔物達は集まってくるものの、お座りをして待っていたり、お腹を見せて死を願う者がいた。
「あれ?意外と大丈夫だ。ノヴァとユハ兄さんがいるから?みんな、それぞれの望み通りに集まってる感じ」
するとそこに、ヒバリくんが笑顔で現れたため、僕はユハ兄さんの後ろに隠れた。
「ユル様が困らないよう、魔物達には知らせてあるから大丈夫」
「ひ、ひば……ヒバリくん」
「なんだい?ユル様」
「きょ、今日も……格好いい」
ヒバリくんは頻繁に会う事がないため、ノヴァのように耐性をつける事ができず、いまだに久しぶりに会えば緊張してしまう。
それほど僕の推しは格好良く、神出鬼没なところも好きで、心臓が高鳴るのだ。
「ハァハァ……苦しい。ユハ兄さん、ノヴァ、僕は大変だ」
「確かに大変だね。変態みたいになってるよ。可愛いし、ある意味危ないけど……ノヴァ、今のユヅは襲われない?」
「街へ行けば、確実に襲われます。ユル様、深呼吸しましょう」
あぁ……そんなノヴァも、ユハ兄さんも格好いい。
開眼しないで。
いや、してくれてもいいけど、開眼しなくても格好いいのに、僕の心臓が爆発しそうだよ。
「ユル様は相変わらずだな。可愛らしい。俺の顔がそんなに好きかい?」
「す、好き……でも顔だけじゃない。ヒバリくんは年齢不詳で、ニヤニヤしてるのがものすごくワルワル感。格好いい。強い。三つ編みも似合ってる。服も似合ってる。開眼は最高。優しくて僕に目線を合わせてくれるの、嬉しい。好き」
ユハ兄さんの背中に顔を押し付けながら、カタコトで告白すると、ヒバリくんの気配を近くに感じ、動けなくなる。
すると、僕の体が突然浮き、ヒバリくんに抱えられたのだ。
「確かに天使だ。愛らしい告白も、そこに恋愛感情がない事も、正直なところも、全てが可愛い」
あ……とうとう僕は死ぬのかもしれない。
心臓がもたないよ。
酸素も……深呼吸、深呼吸、落ち着け僕。
ノヴァの時だって頑張ったじゃないか。
ヒバリくんにだって慣れてみせろ!頑張れユル!
「私の時もそうでした。ヒバリ様にだけではないので、ユル様をこちらに渡してください」
「そんなに焦らなくても、推しとやらが増えただけだ」
「今の僕も、ユヅの推しに入ってるようだし、推しが増えてもユヅはノヴァを忘れたりはしないよ。まあ、僕としてはどっちでもいいけどね」
ノヴァは焦った様子だが、ユハ兄さんは珍しく冷静だ。
そして、ヒバリくんも僕を離す気がないようで、僕の頭を撫でてきたり、抱きしめたりしてくる。
「ユル様、まさか側近を増やすわけではないですよね」
「側近はノヴァだけでいい」
側近は増やす必要がないし、増やしたくないから安心してよ。
いくら推しでも、側近はいらないって事がノヴァで分かったんだ。
ありがとう、ノヴァ……だから、メンヘラっぽくならないでほしいです。
ユハ兄さんが普通な理由が、やっと分かった……兄はユハ兄さんだけだから、ユハ兄さんは大丈夫だったんだね。
「ユル様、こちらに来てくれますか?」
「行きたいけど、緊張で動けない」
安心した様子のノヴァは、僕が困っているところを助けてくれ、僕を抱えてくれる。
すると、次はヒバリくんがわざとらしく寂しそうに、眉を下げる。
「ユル様、俺にも慣れてほしいな。駄目かい?どうしたら慣れてくれる?」
うっ……推しが僕を求めてくれてる。
ワルワルが抜けてないのに、可愛い感じに見せるのはずるい!
僕はヒバリくんから目を逸らし、尾羽を揺らしながら翼を広げれば、耐えられずに飛んでしまった。
ノヴァの時もそうだったが、僕の体は勝手に推しから逃げてしまう。
自分を見られている恥ずかしさと、積極的に来られる事で、気持ちと心臓が追いつかなくなってしまうのだ。
僕が逃げれば、ユハ兄さんとノヴァは焦った様子で追いかけてくるが、それよりも精霊や魔物達が必死で僕を捕まえにやってくる。
ある意味自由がなくなっていく僕は、前世の方が自由だったのだと思いながら、キツネのような魔物にあっさり捕まってしまう。
「魔物まで格好いいなんて……うぅ、幸せで心臓が辛い」
「ユヅ、何を言ってるの?幸せが辛いなら、それは幸せとは言えないよ」
僕の元へきたユハ兄さんは、翼が動かないように僕を抱きしめてくる。
「違うんだ、ユハ兄さん。辛いのは、今にも止まりそうな僕の心臓。幸せを味わいたいのに、僕の心臓はバクバクしてて苦しい。魔物も推しになるとは思わなくて、僕はどうやって生きればいいのか分からない。みんな格好良すぎる」
「安心して、ユヅも可愛すぎるよ。いつだって、僕の心臓を止めようとしてるからね」
それは安心していいのか、ちょっと分からない。
ユハ兄さんも僕と一緒だから安心してって事かな?それなら安心はできないよ。
ユハ兄さんまで道連れにしようとは思ってないから、ドキドキ死するのは僕だけ。
だからどうか、今だけは開眼しないでほしい。
僕の心臓が本当に……そろそろ大変なんだ。
98
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる