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第二章 新しい生活

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 インハイまでの授業免除の期間は、俺のメモを参考にした個人練とチーム練をし、最後の追い込みをかける。そしていよいよインハイ初日がやってきた。


「凛くん、今日はオオカミなんだね」


 学校に着くと、向井さんは俺のぬいぐるみのチェックをする。これが最近の習慣になってるらしい。


「よし、全員揃ったな。凛とゼル以外は、一週間分の着替え持ってきたか? 最後まで残るつもりで行くからな」


 インハイの開催地は東京のため、全員泊まりになるのだが、俺にかんしては風狼の先生含め全員と、母さん、ゼンの意見により、泊まりは却下されてしまった。環境が変わったらどうなるか分からないのと、泊まる宿は他校も来る事から、ゼンが自分の練習の帰りに、俺とゼルを拾って行って、行きもゼンが少し早めに出て連れて行ってくれる事になった。


「ゼル、ゼンは無理してないのかな」


「無理も何も、兄貴はいつも東京に通勤しとるんやから、変わらんよ。それに兄貴の方は、夏の試合は今日が最終日やろ。明日なんか日曜で休みやからって、応援する言うて張り切っとったやん。放っときゃええねん」


 うぅ、明日か……今日勝てたら、明日はシード校とあたっちゃうんだよな。しかも去年までユース候補だった、崎紫乃って人が居る高花高校だもんなあ。ワクワクするけど、ゼンに見られるのはなんか緊張するなあ。


 俺達は初日なので、みんなと一緒にバスに乗り込んで、東京の会場へと向かった。そして少し走ると、先生が俺に伝える事があると言ってきた。


「そういや凛に言っとく事がある。火獅子の鹿島が来るんだが、開会式は女子を挟んで隣の隣だ。背番号的にも、一番前と一番後ろじゃ離れてるから大丈夫だとは思うが、体調が悪くなったら必ず言いに来い」


 あ、そっか。ギリギリ一ヶ月経ったから……開会式じゃ、ぬいぐるみもないし、ゼルも遠い。み、見なければ大丈夫だ。見なければ。


「凛、大丈夫か??」


「だ、大丈夫。ちゃんと頑張れるよ。こんな事で甘えてちゃダメだ。それに見なければ大丈夫だ。ご、ごめん。会場に着くまでには落ち着かせるから」


「センセ、あっちの奴等全員には、話しかけんなって言うとるん?」


「それは大丈夫だ。何回も言ったし、あっちも鹿島の行動を全員で見ておくとさ。特にリベロの奴が、相当怒ってるらしくてな。あいつ凛のファンだったんだろ?? だから大丈夫だろ」


 リベロの人……鳴海さん? だっけ……俺結構避けてたのに。怒ってくれてたのか。周りに人もいっぱいいるし、きっと大丈夫だ。でも今だけは、ゼルに抱きつかせてもらおう。


「凛!? あ……現実逃避入ってもうたな。センセ、凛寝てもうたから、寝かしといてええ??」


「それって今のでストレス溜まったって事か? 大丈夫かね……」


 俺はゼルに抱きついたまま、起こされるまで眠り、少しでも落ち着いて、開会式に出れるようにした。


「凛、着いたで。起きろ~」


「ん……もう着いたの? ゼル……下りる前にギュッてして」


「はいはい、ギューーーっと」


 あぁ、落ち着く。きっと大丈夫だ。


 俺はぬいぐるみを持って、ゼルと一緒にバスを下りると、周りには人がいっぱいで、何故か写メの音がやたらと聞こえる。


「なんかみんな写真撮ってる。何撮ってるんだろ」
 

「……センセ、みんな!! ちょい囲ってくれんか??」


「あぁ、やっぱりか。あんだけSNSで騒がれてたら、こうなるよな」


「そうだね~、凛はスマホすら、まず見ないし、分かってないんだろうけど~」


 圭人とシズが真っ先に俺のそばに来て、他のみんなも俺を囲むようにする。そのおかげで、俺は壁に囲まれたような形になり、周りが全く見えない。それと同時に写メの音も聞こえなくなる。


「ねぇ、ゼル。なんで俺を囲むんだ?」


「えーっと……ファルコンのベンチに置いてある、凛の写真がネット上で話題になっとるんよ。見ると御利益があるだの、美人だの、生で見たいだの……今日る奴等は、ほぼ全員知ってると思っとった方がええと思う」


 なんだそれ!? 俺の写真にそんな効力はないし、見るだけ無駄だろ!? 


「ゼル……まさかコレずっと続いたりとかしないよね」


 そう聞いてみると、ゼルは目を逸らし、他の全員も目を逸らしてしまう。


 逃げたい。


「センセ、はよ行くで!! 凛の為にも!!」


「あ、あぁ……よし、ゼル!! 凛を担げ!!」


 俺がゼルに担がれると、全員走ってギャラリーにある、風狼の荷物置き場に向かった。


 そしてそのショック療法のおかげか、俺の頭の中はそっちでいっぱいになり、開会式はぼーっとしてた記憶しかなく、火獅子は目にも入らずに、すんなり終える事ができた。


「なんかやっと落ち着ける」


 開会式を終えた後、俺達はメインからサブアリーナへ移動し、女子の選手がいなくなった事で、あの興味心身な視線と写メから解放された。それでも男子も見てはくるものの、女子のように写真を撮る事はしてこない。


「凛のぬいぐるみ、可愛いとか言われてたね~」


「あとは美人だとか、尊いって言葉が多かった気がする。凛くんは、よく尊いって言われる事が多いね」


 いや、ほんとに……尊いってなんなんだろうって、俺も思ってたよ。向井さんとかシズとかの方が、美人とチャラ男だから、人気だと思うんだけど。


「多分アレは、うちのオカンと同類やろなあ」


「え!! ゼルさんのお母さんって……うちの姉と同類なのか。知らなかった」


 圭人ってお姉さん居たのか。俺からしたら、そっちの方が驚きなんだけど。髭面のせいか弟とか妹居そうに見えるもん。


「お前等、準備できたらアップしに行くぞ」 


 そう言って、トシさんは早くアップをしたかったらしく、まだアップには早いのに、一人で外に行ってしまった。

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