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第四章 陰陽師、魔王城へ攻め込む!
第三十三話
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王宮の一室――
「……で? なんで私達はこれを手伝わされているの?」
ナイフを持たされ、羊皮紙を十六分割にする作業を朝からやっていた。今さらながら、フィリシアは不満を漏らす。
「今日中にこの羊皮紙千枚から形代を作るんだ。一枚から十六の形代を作って式神にする。全部で一万六千体! 充分な戦力だろ?」
自慢げに説明するハルアキにフィリシアは目を丸くする。
「一万六千⁉ 本当にそれだけ作るの⁉」
まだ始めて十分くらいだが、やっと十枚分の羊皮紙を十六分割できた程度だ。
「もっとペースを上げないと日が暮れるぞ!」
ハルアキはハッパを掛けるが、フィリシアの動きは鈍い。
「フィリシア様、頑張りましょう! 私は子供の頃を思い出して楽しいです!」
一緒に手伝ってくれているエリーネの満面の笑みを見て、溜め息を吐く王女様。
「はあ、それにしてもなんで私達三人なのよ。あの三人は何をしてるの?」
あのとはハルアキの式神達のことである。
「あいつらは市場で食べ歩きしてる」
「……………………はあ? なんで遊んでるのよ⁉」
「あいつらに細かい仕事は無理だった――これを見ろ」
ハルアキが差し出したのはボロボロになった羊皮紙の山である。
「はあ……なら人を呼んでこようか?」
「みんな自分の仕事をしているのだろ? ヒマなヤツで充分だ」
「ちょっと、まるで私がヒマみたいな言い方じゃない⁉」
私だって忙しいのよ! と怒るフィリシアだが――
「あら? 仕事がなくてヒマだと言っていたのはどなたでしたか?」
うっ……と唸るフィリシア。自分達が龍神を連れてきたことで、魔族に勝てるという自信が湧いたのだろう――ヤル気を見せる配下の者が、邪魔だとフィリシアを執務室から追い出したのだ。
「わ、わかったわよ。やればいいんでしょ? それにしても、こんな紙が歩兵になるなんてね……」
出来上がったばかりの形代を手に取る。ハルアキの見本どおりに切ったのだが、手足頭があって人に見える。それでも、紙は紙だ。
「さっき見せただろ? 原理はゴーレムと同じだって」
ハルアキが呪文を唱えると形代が人の大きさまで大きくなり、動き出したのを見たばかりだ。
もう疑ってはいないが、それでもそんな手軽な方法で兵力が増加するという事実がまだ受け入れられない。
そんなことを考えていると、ハッとするフィリシア。
「だったら、一万の兵は必要ないじゃない⁉」
ハルアキは決闘で勝ったことにより、一万の兵を借りることに成功した。
しかし、形代から無限に式神を作れるなら、そもそも兵を借りる必要などなかったとフィリシアは言うのだが、ハルアキは頭を横に振る。
「所詮、心のない式神はただのハリボテだ。いざという時に頼りになるのは自分の意思で動ける人間なんだよ」
そう説明するハルアキに、フィリシアは呆然とする。
「……なんだよ?」
「……いや、ハルアキって、時より専門家みたいなことを言うから……あなたって、前の世界では何をしていたの?」
そう言われて「学生だよ」と、ぶっきらぼうに応える。
「学生? いったい何歳なの?」
そんな歳に思われたのかとムッとする。
「――十七だよ」
「十七歳で学生? 留年でもしたの?」
「してねえよ!」
どうやら、この世界では十七歳は立派な大人らしい――そう理解する。
「オレのいた国では十七歳はまだ子供なんだよ」
「……まあいいわ――それで、専攻は?」
専攻? そう言われて、考えてしまう。
「……普通科?」
「はあ? フツウって何よ」
「うるさいなあ。まだ、何にでもなれる……っていうことだよ」
意味不明な説明にフィリシアは難しい顔をする。
「何にでもなれるね……そこで、戦術学も習うの?」
「戦術⁉ そんなの習うわけないだろ⁉」
いきなり何を言い出すのかと呆れてしまう。
「そう……その割には、戦術や魔法工学を良く知っているよね?」
そう言われて、ハルアキは黙り込む。
戦術的な知識は、ゲームからの受け売りである。恥ずかしいので、あまり追求されたくない。
慌てて話題を変える。
「フィリシアはどうなんだよ? まだ学生なんだろ?」
「私? そうね……あと二週間は学生ね」
「……えっ?」
この世界では、十六歳の誕生日で学校を卒業し、大人の仲間入りをするらしい。
「そして、十六歳になったら結婚するの」
「……えっ? 結婚?」
父である前王が亡くなったことで、フィリシアは十六歳になったと同時に結婚し、夫となる者が国王となる――そう元老院の閣議で決められたらしい。
「ふーん……お姫様も大変だな……それで、相手はあのイケメン宰相代行か?」
「あら……良くわかったわね?」
まあ、なんとなく……そう応える。
「と、いっても候補のひとりだけどね」
「――なんだ? まだ、相手が決まってないのかよ。あと、二週間しかないというのに?」
うるさいわね! そういう顔をするフィリシア。
「こっちだっで、悩んでるのよ。ちなみに、もうひとりの候補は、魔王に投げられてた人よ」
「ああ……あの脳筋男か? かたや残念イケメンだし……まあ、悩むのはわかるわ」
ハルアキも納得という顔をすると、フィリシアも「そうでしょ?」と、急に口が滑らかになる。
「二人とも、悪い人じゃないのよ。とても、国民を大事にしてくれるし……それぞれ、良いところもあるし……でもねぇ……」
そう言ってため息をひとつつく。
「まあ二人だって、相手がこんな女じゃイヤだろうしね」
「……なんで?」
意味がわからないという顔をするハルアキ。
「なんで……て、あなたもわかるでしょ? こんなガサツで、口も悪くて、可愛げのない女。誰だって結婚なんかしたがらないわよ。あーあ、私もエリーネみたいに、可愛くて、女らしいコに生まれたかったなあ」
「そんな……私だって、女らしいわけじゃ……」
そう顔を真っ赤にして、俯くエリーネ。
ハルアキは相変わらず、理解できないという顔で――
「……そっか? フィリシアも充分女らしくて、カワイイと思うけどなあ――」
「……えっ?」
思ってもいなかったことを言われて、急に慌てる。
「な、な、何を言っているの⁉」
「いや、軍服でいるけどさ――サラサラ金髪だし、めちゃくちゃ肌キレイだし、ホンモノのお姫様って、やっぱすげえなあ……て、玉座で初めて見たとき、そう思ったよ」
「ちょ、ちょっと! あんな状況で、そんなことを考えていたの⁉」
怒っているとも、恥ずかしさを誤魔化しているとも取れる表情のフィリシア。ハルアキは「仕方ないだろ。そう思ったんだから」とふてくされる。
「それに、お姫様だからって気取ってないし、話しやすいんだよ。こうして会話していると楽しいというか……」
まるで男友達と話しているみたいだ――そう、口に出そうとしたときに、茹で蛸のようなフィリシアが目に入って、言葉に詰まる。
「な、なに意識してるんだよ!」
「う、うるさい!」
妙に女の子らしいリアクションを取るので、ハルアキまで恥ずかしくなる。
そのとき、バンッ! とテーブルを叩く音が――
「いい加減、作業に専念してもらえませんか? これじゃ、いつまで経っても終わらないですよ!」
頬を膨らませ、珍しく怒った顔をエリーネが見せると、二人は「はい……」と素直に謝り、黙って作業を続けた。
それから、結局夜遅くまで掛かって、形代一万六千体分を作り上げ、クタクタになった三人は爆睡する。
翌朝――
一万の兵とともに、ハルアキ達は王都を出発した。
「……で? なんで私達はこれを手伝わされているの?」
ナイフを持たされ、羊皮紙を十六分割にする作業を朝からやっていた。今さらながら、フィリシアは不満を漏らす。
「今日中にこの羊皮紙千枚から形代を作るんだ。一枚から十六の形代を作って式神にする。全部で一万六千体! 充分な戦力だろ?」
自慢げに説明するハルアキにフィリシアは目を丸くする。
「一万六千⁉ 本当にそれだけ作るの⁉」
まだ始めて十分くらいだが、やっと十枚分の羊皮紙を十六分割できた程度だ。
「もっとペースを上げないと日が暮れるぞ!」
ハルアキはハッパを掛けるが、フィリシアの動きは鈍い。
「フィリシア様、頑張りましょう! 私は子供の頃を思い出して楽しいです!」
一緒に手伝ってくれているエリーネの満面の笑みを見て、溜め息を吐く王女様。
「はあ、それにしてもなんで私達三人なのよ。あの三人は何をしてるの?」
あのとはハルアキの式神達のことである。
「あいつらは市場で食べ歩きしてる」
「……………………はあ? なんで遊んでるのよ⁉」
「あいつらに細かい仕事は無理だった――これを見ろ」
ハルアキが差し出したのはボロボロになった羊皮紙の山である。
「はあ……なら人を呼んでこようか?」
「みんな自分の仕事をしているのだろ? ヒマなヤツで充分だ」
「ちょっと、まるで私がヒマみたいな言い方じゃない⁉」
私だって忙しいのよ! と怒るフィリシアだが――
「あら? 仕事がなくてヒマだと言っていたのはどなたでしたか?」
うっ……と唸るフィリシア。自分達が龍神を連れてきたことで、魔族に勝てるという自信が湧いたのだろう――ヤル気を見せる配下の者が、邪魔だとフィリシアを執務室から追い出したのだ。
「わ、わかったわよ。やればいいんでしょ? それにしても、こんな紙が歩兵になるなんてね……」
出来上がったばかりの形代を手に取る。ハルアキの見本どおりに切ったのだが、手足頭があって人に見える。それでも、紙は紙だ。
「さっき見せただろ? 原理はゴーレムと同じだって」
ハルアキが呪文を唱えると形代が人の大きさまで大きくなり、動き出したのを見たばかりだ。
もう疑ってはいないが、それでもそんな手軽な方法で兵力が増加するという事実がまだ受け入れられない。
そんなことを考えていると、ハッとするフィリシア。
「だったら、一万の兵は必要ないじゃない⁉」
ハルアキは決闘で勝ったことにより、一万の兵を借りることに成功した。
しかし、形代から無限に式神を作れるなら、そもそも兵を借りる必要などなかったとフィリシアは言うのだが、ハルアキは頭を横に振る。
「所詮、心のない式神はただのハリボテだ。いざという時に頼りになるのは自分の意思で動ける人間なんだよ」
そう説明するハルアキに、フィリシアは呆然とする。
「……なんだよ?」
「……いや、ハルアキって、時より専門家みたいなことを言うから……あなたって、前の世界では何をしていたの?」
そう言われて「学生だよ」と、ぶっきらぼうに応える。
「学生? いったい何歳なの?」
そんな歳に思われたのかとムッとする。
「――十七だよ」
「十七歳で学生? 留年でもしたの?」
「してねえよ!」
どうやら、この世界では十七歳は立派な大人らしい――そう理解する。
「オレのいた国では十七歳はまだ子供なんだよ」
「……まあいいわ――それで、専攻は?」
専攻? そう言われて、考えてしまう。
「……普通科?」
「はあ? フツウって何よ」
「うるさいなあ。まだ、何にでもなれる……っていうことだよ」
意味不明な説明にフィリシアは難しい顔をする。
「何にでもなれるね……そこで、戦術学も習うの?」
「戦術⁉ そんなの習うわけないだろ⁉」
いきなり何を言い出すのかと呆れてしまう。
「そう……その割には、戦術や魔法工学を良く知っているよね?」
そう言われて、ハルアキは黙り込む。
戦術的な知識は、ゲームからの受け売りである。恥ずかしいので、あまり追求されたくない。
慌てて話題を変える。
「フィリシアはどうなんだよ? まだ学生なんだろ?」
「私? そうね……あと二週間は学生ね」
「……えっ?」
この世界では、十六歳の誕生日で学校を卒業し、大人の仲間入りをするらしい。
「そして、十六歳になったら結婚するの」
「……えっ? 結婚?」
父である前王が亡くなったことで、フィリシアは十六歳になったと同時に結婚し、夫となる者が国王となる――そう元老院の閣議で決められたらしい。
「ふーん……お姫様も大変だな……それで、相手はあのイケメン宰相代行か?」
「あら……良くわかったわね?」
まあ、なんとなく……そう応える。
「と、いっても候補のひとりだけどね」
「――なんだ? まだ、相手が決まってないのかよ。あと、二週間しかないというのに?」
うるさいわね! そういう顔をするフィリシア。
「こっちだっで、悩んでるのよ。ちなみに、もうひとりの候補は、魔王に投げられてた人よ」
「ああ……あの脳筋男か? かたや残念イケメンだし……まあ、悩むのはわかるわ」
ハルアキも納得という顔をすると、フィリシアも「そうでしょ?」と、急に口が滑らかになる。
「二人とも、悪い人じゃないのよ。とても、国民を大事にしてくれるし……それぞれ、良いところもあるし……でもねぇ……」
そう言ってため息をひとつつく。
「まあ二人だって、相手がこんな女じゃイヤだろうしね」
「……なんで?」
意味がわからないという顔をするハルアキ。
「なんで……て、あなたもわかるでしょ? こんなガサツで、口も悪くて、可愛げのない女。誰だって結婚なんかしたがらないわよ。あーあ、私もエリーネみたいに、可愛くて、女らしいコに生まれたかったなあ」
「そんな……私だって、女らしいわけじゃ……」
そう顔を真っ赤にして、俯くエリーネ。
ハルアキは相変わらず、理解できないという顔で――
「……そっか? フィリシアも充分女らしくて、カワイイと思うけどなあ――」
「……えっ?」
思ってもいなかったことを言われて、急に慌てる。
「な、な、何を言っているの⁉」
「いや、軍服でいるけどさ――サラサラ金髪だし、めちゃくちゃ肌キレイだし、ホンモノのお姫様って、やっぱすげえなあ……て、玉座で初めて見たとき、そう思ったよ」
「ちょ、ちょっと! あんな状況で、そんなことを考えていたの⁉」
怒っているとも、恥ずかしさを誤魔化しているとも取れる表情のフィリシア。ハルアキは「仕方ないだろ。そう思ったんだから」とふてくされる。
「それに、お姫様だからって気取ってないし、話しやすいんだよ。こうして会話していると楽しいというか……」
まるで男友達と話しているみたいだ――そう、口に出そうとしたときに、茹で蛸のようなフィリシアが目に入って、言葉に詰まる。
「な、なに意識してるんだよ!」
「う、うるさい!」
妙に女の子らしいリアクションを取るので、ハルアキまで恥ずかしくなる。
そのとき、バンッ! とテーブルを叩く音が――
「いい加減、作業に専念してもらえませんか? これじゃ、いつまで経っても終わらないですよ!」
頬を膨らませ、珍しく怒った顔をエリーネが見せると、二人は「はい……」と素直に謝り、黙って作業を続けた。
それから、結局夜遅くまで掛かって、形代一万六千体分を作り上げ、クタクタになった三人は爆睡する。
翌朝――
一万の兵とともに、ハルアキ達は王都を出発した。
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