Release 僕の神様

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みんなの、玩具。

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 高校1年生の文化祭。それが、俺の人生を変える転機だった。



 当時通っていた高校では外部の人にも公開して文化祭が催された。



 そのとき、たまたま見つけてしまったんだ。



 糠部壮介は、継父の明星航一の高校以来の旧友だ。彼は明星に金を貸す代わりに俺を要求した男だった。



 糠部は元々男も女も好きになる人だった。顔が良ければどちらでも構わないし、年齢も問わないらしい。



 そんな彼を見つけてしまった。



 多分、俺も相当疲れていたのだと思う。もはや自分のことは動く大人のオモチャ程度に思っていたが、それでも自分にもどこか人権があるのだと信じたかったのかもしれない。



 そのときに思い出したのは、明星航一を殺した日のことだ。



 俺は、殺すことに多幸感を覚えていた。自分より強いと思っていた人間をねじ伏せられた事実、何より死ぬ前にピクピクと痙攣したり血肉が飛び散るのを見るのが、痛快だった。



 お前らが俺を使ってヨガってるんだから、俺だってお前らを使って気持ちよくなりたい。



 そんな邪な考えが過ぎってしまう。



 殺したい。



 別に、糠部だけが嫌いな訳ではなかった。母さんとだって児相の先生とのセックスだって嫌だ。



 ただ、糠部が特別だったのは……はじめての相手だったからだろう。お父さんが性的な遊びをしていたとはいえ、幼児だった俺に性器を入れようとしたのは最後の一度であり、入らなかった。母さんも俺が高学年になるまでは本番はしなかった。だから本番をした最初の相手は、糠部壮介だった。  



 文化祭を終えて迎えた夏休み、2週間の一時帰省が許可された。



 母さんと二人で夕食を挟んでいるときに、思いきって家に戻りたいと話をした。夕食は、珍しく母さんが作ったハンバーグだった。冷凍食品ではあったが、それでも俺のために焼かれたハンバーグは美味しかった。



 俺の話を聞いたとき、母さんは意外そうに目を丸くした。



 「意外だわ、アンタ私のこと嫌いでしょ」



 「そんなんじゃない」



 正直、好きという一言で片付けられる感情ではなかったが、少なくとも彼女に息子として愛されたいという気持ちだけは確かだった。だが、高校生にもなってそれを言葉にするのは恥ずかしかった。



 でも、何故か俺のことを完全に見捨てることなく施設まで面会に訪れる母さんに、もしかしたら反省しているのかもしれないとうっすら期待していた。



 母さんは児相の家庭訪問対策で、俺が外泊している間だけは酒を我慢していた。小学生の頃なんて素面の母を見ることの方が少なかったのだから、こうやって普通に会話ができること自体がある意味凄いことだ。



 「まあ、私も和雄が来るよか平和の方がいいけどね。よくよく考えたらそこらの男引っかけるより、アンタの方がイケメンだしね。自分の息子ながら本当に顔好みだわ」



 そう言ってゲラゲラ笑う母は、やっぱり反省なんてしていなかった。母は、夕食の途中なのに立ち上がり、俺の腕を掴んだ。



 「私もバカじゃないのよ。仮にもアンタの母親なんだから、アンタの考えなんてわかるの。アンタの帰りたい理由は私じゃない。アンタは自分を肯定してくれるなら誰でもいいのよ」



 「……」



 「ねえ、私のこと抱いてよ。そしたら、家に帰してあげる」



 「……何で、そんなこと」



 「もう高校生でしょ? アンタ自身興味持ってきたんじゃない? エロ本なんて施設じゃ買えないだろうし、それにアンタやたら男にばっかり目つけられてたんだから、私が鬱憤晴らさせてあげるわ。良いお母さんでしょ?」



 力で抵抗すれば、母さんなんて簡単にどうにでもできるとわかってはいたが、抵抗する気も起きなかった。それに、母であろうと彼女は女性だ。確かに、女を抱けば自分は全うな男なのだと思えるはずなのだ。もっと、自分が男である自信がほしい。この、腹部の痛みを無くしてほしい。



 「そうそう、古積……ああ、アンタのいうお父さんね、前に一回ここに来たの」



 「え?」



 満足をしたところで、母さんはタバコを吸いながらそんなことを言った。



 母さんは裸のまま、服を着ようともせずベッドでゴロゴロしている。俺は衣類をしっかり着こんで部屋の隅に体育座りをした。結局、下腹部の違和感はなくならない。気持ち悪い。



 「よりを戻そうって言われたんだけど、自分が女捕まえてきて蒸発したんだから無理に決まってるでしょって話したら帰っていったわ」



 「……あの女の人と別れたんか」



 「多分ね。まあ、今は何してるのかわからないけど」



 「……母さんは、どうしてお父さんと結婚したんだよ」



 母さんは俺を変なものでも見るような目で見て、溜め息を吐いた。



 「何か、そうだなー。あのときは、この人なら私のこと一番に思ってくれそうって思ったんだけどね。でも間違いだった。アイツの目当ては、アンタだったわけ」



 「それって……」



 「ロリコンよ、ロリコン。古積と結婚したとき、アンタまだ赤ちゃんだったから。アンタが可愛くって可愛くって仕方なかったわけ。でも、それってフツーの、子ども好きじゃなくて」



 「よくわからねぇ」



 「わかってるんでしょ、本当は。バカじゃないの?」



 俺は、母さんの言葉に何も言えなかった。



 わかってはいる。でも、ここで絶望するわけにはいかなかった。ここで絶望してしまえば、俺はもう立ち上がることができそうにもなかったのだ。



 お父さんのことは、嫌いではない。多分、俺のことを一番可愛がってくれていたから。それがどんな理由でも、お父さんは俺を愛してくれた。



 迎えに来てほしい。



 もしお父さんが迎えに来てくれたら糠部を殺すのもやめよう。それで、お父さんを説得して母さんと再婚してもらって、和雄も呼んでまた4人でやり直したい。 



 母さんと表面上わかり合って、お互いに協力して生きていくのだと児相の先生に嘯いた俺は、どうにか高校2年生の5月に家庭復帰を認められた。



 糠部を殺すと決めたはずだったが、それでもすぐに殺人を決行できるほど勇気があるわけではなかった。殺すこと自体に臆したわけではない。ただ、殺しをしてしまえば二度と幸せな夢を見ることも、叶えることもできないのだとわかっていたから動けなかった。きっともう、明星を殺したときのようにはうまくいかない。



 家庭復帰するまでは糠部を殺すことばかり考えたのに、いざ家に帰ってしまえばそんなことより母さんと過ごしたい、お父さんに会いたいという気持ちが膨らんでしまった。



 本当はきっと、殺すよりも何よりも、あたたかい家族が欲しかった。やり直すことが一番の望みだった。俺にだって、身体以外に価値があるのだと認めてほしかった。



 ……でも、家庭復帰した後も、母さんは俺を彼氏ができるまでの性処理道具にするし、糠部は変わらず俺の「キレイ」な顔が好きな様子だし、お父さんは迎えになんか来ない。



 現実は、何も変わらない。



 やり直しなんか、できやしない。



 俺も、何も変わらない。



 汚くて、弱いままだ。

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