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友だち。
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2:多喜田友佑
すっかりヒナちゃんで世界が彩った僕は、今週も浮かれっぱなしで土曜日を迎えた。
おしゃれなんて全く興味がなく、外出用の服はヒナちゃんに会った2コーデで使い果たしたため、先週は彼に会うために街に繰り出してワイシャツを購入した。ズボンも普段は中学のころのジャージとかを着回していたが、とりあえず無難そうなジーンズを買い、男子高校生としておかしくはない格好になったと思う。
父のワックスを勝手に使って髪型を整え、鏡の前で深呼吸をしてから家を出る。ヒナちゃんに会うのは3回目。少しはお近づきになりたい。
推しに会えるというこの世で最も幸せな時間が僕を待っている。僕は緊張と喜びの混ざり合った下手くそなスキップで喫茶ひだまりへ向かった。
先月騒がれた焼死体殺人事件は、まだ解決していない。警察官の叔父さんは被害者がひだまりに通っていたことを突き止めたけど、結局そこから何も進展はない様子だ。たまに休憩で家に来る叔父さんは、目の下を黒くしながらタバコを何十本も吸っていた。
はやくそんな物騒な事件が解決したらいいんだけど。ヒナちゃんには事件とひだまりが関係あるかもしれないと伝えたけど全く気にしていなかった。だから、僕がしっかり彼を守らないといけない。
「あれ、はやいねぇ友佑クン」
使命感に駆られていること10分、彼は来た。
街中半袖の人が大半な中、彼はダボッとした長袖のワンピースを着ていた。この前とは違う服だ。女装用に何着も持っているのだろう。前回は黒ベースのワンピースだったが、今回は夏だからか、淡い水色のワンピースで爽やかさがある。
ヒナちゃんは大きな青い瞳を細め、ニッと笑う。その笑顔に僕の胸が締め付けられた。
「そのカバンについてるのって、うさぴょんかな?」
ヒナちゃんが指摘したのは僕のリュックについているうさぎのキーホルダーだった。ヒナちゃんがSNSにアップした「うさぴょん」というキャラクターのイラストで、僕はそれを印刷して100均で買ったキーホルダーに絵をはめ込んだのだ。
「そ、そう! ヒナちゃんグッズ作らないから自作してて……もちろん個人で楽しむ程度だから全然その、販売とかはしてなくて……」
「あはは、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。でも私、絵下手だから恥ずかしいなあ」
「うさぴょんかわいいよ!」
「そう? ありがと」
不格好なうさぴょんだけど、ヒナちゃんが描いたというだけで愛おしい。
そんなオタク心を知ってか知らずか、ヒナちゃんは褒められたと嬉しそうに笑う。その顔に、僕は頭がクラクラしてきた。あまりに推しが可愛すぎる。
「じゃあ、入ろっか。今日は何食べようかなぁ」
ヒナちゃんは言いながらお店の中に入っていく。僕も置いていかれないように慌てて彼の後ろを追った。
喫茶ひだまりは席数が5つほどの大きくない店だ。中はレトロな雰囲気で、心地よいオルゴールの音楽が流れている。ヒナちゃんと僕は窓際の席に案内された。
「私はチョコミントにしようかな。友佑クンはもう決まった?」
「ぼ、僕も同じで」
「はいはーい。すみませーん」
あ、しまった。ここは僕がシャキッと注文するところだった。
僕が口をポカンとしている間に、店員さんが来てヒナちゃんが2人分の注文をしてしまった。僕はその間口を閉じることもできず、推しの手を煩わせたことを後悔するしかなかった。
店員さんが去ると、ヒナちゃんは「んー」と伸びながら固まる僕をまっすぐに見つめる。僕の大好きな顔が僕だけを見つめていることに、僕は興奮と緊張を抑えられない。さほど暑くはないというのに背中は変な汗でびっしょりと濡れていた。
「ねぇ、友佑クン」
「は、ハイ!?」
名前を呼ばれて裏返った声に顔が熱くなる。そんな僕を彼は変わらない笑顔を浮かべながら見つめている。カラーコンタクトで青く輝く瞳は、本当の色は一体どんな色なんだろうと、僕はその奥を覗きたくって仕方がなかった。
「私さ、全然お友だちっていなくって。ほら、友佑くんはお友だちになりたいって言ってたでしょ? 何をしたら私たちって友だちになれるのかなぁ?」
ストローでアイスコーヒーの氷をかき混ぜながら、ヒナちゃんが言う。その静かな声に、僕は思わず彼の顔をじっと見た。
世界に配信をしているような人だ、僕なんかと違い華やかな生活をしているのかと思っていた。それなのに彼は友だちの作り方さえ知らないと言う。
「こうやって、一緒にいて楽しい時間を共有したら…友だちなんじゃないかな」
「そっか。それならもう私たちってお友だちってことだよね?」
「ひ、ヒナちゃんがそう思ってくれるなら……」
「うん、思ってる。だから、お友だちだ」
ヒナちゃんがふにゃりと砕けた笑みを浮かべた。その表情はあまりに下手くそな笑顔で、いつもの彼らしくなかった。ヒナちゃんってこんな顔するんだ。僕はドキドキとはやまる鼓動を落ち着かせるためにゴクリと唾を飲む。
「じゃあお友だちできた記念に、特別に今日の収録の内容を教えてあげようか」
「そ、それは推し活してる身としては! 嬉しいけど! なんか駄目っていうか!!」
「え、そう? 動画の話くらいしか私できるものないんだけど」
友だちだなんて言われて浮かれながらも、収録内容を聞くのはファンとしていけないことだと、僕は慌てて首を横に振る。ブンブンと思いっきり首を振る僕を、ヒナちゃんはおかしそうに眺めていた。
「じゃあ、楽しみにしててね」
「もちろん!!」
「あはは、声が大きいよー」
それかはヒナちゃんはゲームの話を始めた。僕の知るタイトルだったので僕も普段なら力と話しているものだったが、ドキドキしていて殆ど相槌だけで終わってしまう。
「じゃ、またねー」
「は、はいぃ!」
甘ったるいパンケーキをペロリと平らげると、ヒナちゃんは惜しむこともなく颯爽と去っていく。その後ろ姿に、本当の友だちのようにご飯だけではなく遊べたらいいのにと思わずにはいられない。
いや、贅沢すぎるだろ……。
ヒナちゃんと話せているだけでも奇跡なんだ。それをもっと仲良くなりたいだなんて独りよがりにも程がある。
僕はため息を吐いてその場を後にした。
すっかりヒナちゃんで世界が彩った僕は、今週も浮かれっぱなしで土曜日を迎えた。
おしゃれなんて全く興味がなく、外出用の服はヒナちゃんに会った2コーデで使い果たしたため、先週は彼に会うために街に繰り出してワイシャツを購入した。ズボンも普段は中学のころのジャージとかを着回していたが、とりあえず無難そうなジーンズを買い、男子高校生としておかしくはない格好になったと思う。
父のワックスを勝手に使って髪型を整え、鏡の前で深呼吸をしてから家を出る。ヒナちゃんに会うのは3回目。少しはお近づきになりたい。
推しに会えるというこの世で最も幸せな時間が僕を待っている。僕は緊張と喜びの混ざり合った下手くそなスキップで喫茶ひだまりへ向かった。
先月騒がれた焼死体殺人事件は、まだ解決していない。警察官の叔父さんは被害者がひだまりに通っていたことを突き止めたけど、結局そこから何も進展はない様子だ。たまに休憩で家に来る叔父さんは、目の下を黒くしながらタバコを何十本も吸っていた。
はやくそんな物騒な事件が解決したらいいんだけど。ヒナちゃんには事件とひだまりが関係あるかもしれないと伝えたけど全く気にしていなかった。だから、僕がしっかり彼を守らないといけない。
「あれ、はやいねぇ友佑クン」
使命感に駆られていること10分、彼は来た。
街中半袖の人が大半な中、彼はダボッとした長袖のワンピースを着ていた。この前とは違う服だ。女装用に何着も持っているのだろう。前回は黒ベースのワンピースだったが、今回は夏だからか、淡い水色のワンピースで爽やかさがある。
ヒナちゃんは大きな青い瞳を細め、ニッと笑う。その笑顔に僕の胸が締め付けられた。
「そのカバンについてるのって、うさぴょんかな?」
ヒナちゃんが指摘したのは僕のリュックについているうさぎのキーホルダーだった。ヒナちゃんがSNSにアップした「うさぴょん」というキャラクターのイラストで、僕はそれを印刷して100均で買ったキーホルダーに絵をはめ込んだのだ。
「そ、そう! ヒナちゃんグッズ作らないから自作してて……もちろん個人で楽しむ程度だから全然その、販売とかはしてなくて……」
「あはは、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。でも私、絵下手だから恥ずかしいなあ」
「うさぴょんかわいいよ!」
「そう? ありがと」
不格好なうさぴょんだけど、ヒナちゃんが描いたというだけで愛おしい。
そんなオタク心を知ってか知らずか、ヒナちゃんは褒められたと嬉しそうに笑う。その顔に、僕は頭がクラクラしてきた。あまりに推しが可愛すぎる。
「じゃあ、入ろっか。今日は何食べようかなぁ」
ヒナちゃんは言いながらお店の中に入っていく。僕も置いていかれないように慌てて彼の後ろを追った。
喫茶ひだまりは席数が5つほどの大きくない店だ。中はレトロな雰囲気で、心地よいオルゴールの音楽が流れている。ヒナちゃんと僕は窓際の席に案内された。
「私はチョコミントにしようかな。友佑クンはもう決まった?」
「ぼ、僕も同じで」
「はいはーい。すみませーん」
あ、しまった。ここは僕がシャキッと注文するところだった。
僕が口をポカンとしている間に、店員さんが来てヒナちゃんが2人分の注文をしてしまった。僕はその間口を閉じることもできず、推しの手を煩わせたことを後悔するしかなかった。
店員さんが去ると、ヒナちゃんは「んー」と伸びながら固まる僕をまっすぐに見つめる。僕の大好きな顔が僕だけを見つめていることに、僕は興奮と緊張を抑えられない。さほど暑くはないというのに背中は変な汗でびっしょりと濡れていた。
「ねぇ、友佑クン」
「は、ハイ!?」
名前を呼ばれて裏返った声に顔が熱くなる。そんな僕を彼は変わらない笑顔を浮かべながら見つめている。カラーコンタクトで青く輝く瞳は、本当の色は一体どんな色なんだろうと、僕はその奥を覗きたくって仕方がなかった。
「私さ、全然お友だちっていなくって。ほら、友佑くんはお友だちになりたいって言ってたでしょ? 何をしたら私たちって友だちになれるのかなぁ?」
ストローでアイスコーヒーの氷をかき混ぜながら、ヒナちゃんが言う。その静かな声に、僕は思わず彼の顔をじっと見た。
世界に配信をしているような人だ、僕なんかと違い華やかな生活をしているのかと思っていた。それなのに彼は友だちの作り方さえ知らないと言う。
「こうやって、一緒にいて楽しい時間を共有したら…友だちなんじゃないかな」
「そっか。それならもう私たちってお友だちってことだよね?」
「ひ、ヒナちゃんがそう思ってくれるなら……」
「うん、思ってる。だから、お友だちだ」
ヒナちゃんがふにゃりと砕けた笑みを浮かべた。その表情はあまりに下手くそな笑顔で、いつもの彼らしくなかった。ヒナちゃんってこんな顔するんだ。僕はドキドキとはやまる鼓動を落ち着かせるためにゴクリと唾を飲む。
「じゃあお友だちできた記念に、特別に今日の収録の内容を教えてあげようか」
「そ、それは推し活してる身としては! 嬉しいけど! なんか駄目っていうか!!」
「え、そう? 動画の話くらいしか私できるものないんだけど」
友だちだなんて言われて浮かれながらも、収録内容を聞くのはファンとしていけないことだと、僕は慌てて首を横に振る。ブンブンと思いっきり首を振る僕を、ヒナちゃんはおかしそうに眺めていた。
「じゃあ、楽しみにしててね」
「もちろん!!」
「あはは、声が大きいよー」
それかはヒナちゃんはゲームの話を始めた。僕の知るタイトルだったので僕も普段なら力と話しているものだったが、ドキドキしていて殆ど相槌だけで終わってしまう。
「じゃ、またねー」
「は、はいぃ!」
甘ったるいパンケーキをペロリと平らげると、ヒナちゃんは惜しむこともなく颯爽と去っていく。その後ろ姿に、本当の友だちのようにご飯だけではなく遊べたらいいのにと思わずにはいられない。
いや、贅沢すぎるだろ……。
ヒナちゃんと話せているだけでも奇跡なんだ。それをもっと仲良くなりたいだなんて独りよがりにも程がある。
僕はため息を吐いてその場を後にした。
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