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曽田力:2。
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5:曽田力
「力!」
珍しいことだった。
家に入ろうとしたところ、後ろから幼馴染が走って追いかけてきた。
中学2年生の夏だった。そろそろ長期休暇が迫っていて、僕は演劇部のコンクールででヘーゼルとグレーテルのヘーゼル役をやることになっていた。その練習のことで頭がいっぱいのときだった。
勝ちゃんは珍しく僕に声をかけてきた。震えた声で今にも泣き出しそうに目を潤ませている。そんな彼を見て僕は彼に起こっていることが只事ではないことを感じた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「あ、大丈夫……なんだけど、お前に頼みてぇことがあって」
「僕に?」
「俺に化粧を教えてください!」
ガバっと勢いよく頭を下げる彼は、まるでいつも彼とはかけ離れていた。
この頃の勝ちゃんといえば他校の生徒や先生と喧嘩に明け暮れていて少し怖いイメージだった。僕は勝ちゃんを友だちとは思っていたけど、やっぱりとこか住んでいる世界が違うとも思ってきた。だからたまに話すことはあっても仲良く小学生の頃のように遊ぶなんてことはなかった。
そんな勝ちゃんが僕に頭を下げている。しかも化粧を教えてほしいと言うのだ。
「えっと、僕そんなに化粧上手じゃないよ? 最近女の子に教えてもらったけど」
「いや、お前が上手いってことは聞いてんだ。……それに力にしか頼めねぇんだよ。お願いします」
「……それは、いいけど……」
「よかった! ありがとう! 実はこの顔になりたくて」
「え?」
承諾すると勝ちゃんは嬉しそうにはにかみ、スマホで一人の女性の写真を見せてきた。
金髪の女性で、青く澄んだ大きな瞳に端正な顔立ちの人だった。
「この人って?」
「保育所同じだった奴の保護者。この顔が好きで……どうしてもこの顔になりたくて。俺、こんなんだし」
勝ちゃんが自虐するように火傷の痕を手でなぞる。僕は彼がいつも自信満々にキラキラとしていたところばかり見ていたので、まさか自分の容姿をそこまで気にしているだなんて思ってもいなかった。
しかも、女性の顔になりたいと言うのだ。
「化粧道具、ある程度は貸せるけど……勝ちゃん、その火傷を隠すなら僕の持ってる化粧品じゃ無理かも」
「何かいいのあるんか?」
「うん。女の子たちが噂してるものがあるんだけど凄く高いんだ」
「それ、今度買う。とりあえず、やり方だけ教えてくれ」
「うん。わかったよ」
そうして僕はその日彼を家に上げて彼が見せてきた写真の顔にできる限り寄せてみた。はじめは僕が全て化粧をしてみせ、また趣味のコスプレで使っていた金髪のウィッグを被せると、彼はたちまち綺麗な女性へと変身した。
「ありがとう!」
勝ちゃんはその顔を見て心から嬉しそうに目を細めて笑った。その美しい顔に、僕は幼馴染だというのに思わずどきりと胸が鳴ったのだった。
それから何日か、勝ちゃんは僕の家に練習しに来た。完璧な男だ、すぐに化粧のコツは覚えて完璧な美少女へと変貌していた。自分の容姿が変わる度に勝ちゃんは無邪気に笑い、本当に楽しそうだった。そんな彼を学校では見ることがなかったので、僕は彼の役に立てているのだと思い嬉しくなっていた。
お父さんにもその趣味を伝えているようで、中学3年生の誕生日には高いファンデーションを買ってもらっていた。噂は凄いもので、そのファンデーションを使えば火傷の痕は完全に隠すことができた。その完璧な姿を見たとき、勝ちゃんは泣いて喜んでいた。
「ありがとう」
毎回、勝ちゃんは僕に感謝をした。だから、僕はいいことをしている気になっていた。また、2人だけの秘密を共有しているようで嬉しかった。
だから、高校1年生のGWに突然ミーチューブを始めた時はびっくりした。
「ずっとこっちの自分で生きてみたかったんだ」
勝ちゃんは嬉しそうに話した。IT企業で働くお父さんに機械のことは聞きながら行っているらしい。『ヒナ』と名乗る彼は完全に都筑勝浬とは別人で、はじめはひどく狼狽した。
それでも彼のやりたいことなのだからと応援した。
そのうちもう一人の幼馴染の友ちゃんがファンだと知ったときは複雑だったけど、勝ちゃんは友ちゃんに話す様子もなかったので黙っていた。勝ちゃんがすぐに友ちゃんのアカウントをわかっていたのも驚きだったけど、そこにも突っ込むことをやめた。
幼馴染の夢を応援しているつもりだった。
いいことをしているつもりだった。
でも、実際はどうなのだろうか。
突然出てきた宮古朱梨の名前。
朱梨ちゃんの母の顔が好きだった。それだけのことかもしれない。
でも、朱梨ちゃんを忘れられない勝ちゃんも確かにいた。
朱梨ちゃんの亡くなった橋で思いを寄せる彼を知っていた。
そして、東保育所の関係者が死んでいく。
望木くんだって朱梨ちゃんのことをいじめていたらしいのだ。それを、勝ちゃんは忘れていないのではないか?
なら、朱梨ちゃんのお母さんの顔をしていることにも実は意味があるじゃないのだろうか?
「力!」
珍しいことだった。
家に入ろうとしたところ、後ろから幼馴染が走って追いかけてきた。
中学2年生の夏だった。そろそろ長期休暇が迫っていて、僕は演劇部のコンクールででヘーゼルとグレーテルのヘーゼル役をやることになっていた。その練習のことで頭がいっぱいのときだった。
勝ちゃんは珍しく僕に声をかけてきた。震えた声で今にも泣き出しそうに目を潤ませている。そんな彼を見て僕は彼に起こっていることが只事ではないことを感じた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「あ、大丈夫……なんだけど、お前に頼みてぇことがあって」
「僕に?」
「俺に化粧を教えてください!」
ガバっと勢いよく頭を下げる彼は、まるでいつも彼とはかけ離れていた。
この頃の勝ちゃんといえば他校の生徒や先生と喧嘩に明け暮れていて少し怖いイメージだった。僕は勝ちゃんを友だちとは思っていたけど、やっぱりとこか住んでいる世界が違うとも思ってきた。だからたまに話すことはあっても仲良く小学生の頃のように遊ぶなんてことはなかった。
そんな勝ちゃんが僕に頭を下げている。しかも化粧を教えてほしいと言うのだ。
「えっと、僕そんなに化粧上手じゃないよ? 最近女の子に教えてもらったけど」
「いや、お前が上手いってことは聞いてんだ。……それに力にしか頼めねぇんだよ。お願いします」
「……それは、いいけど……」
「よかった! ありがとう! 実はこの顔になりたくて」
「え?」
承諾すると勝ちゃんは嬉しそうにはにかみ、スマホで一人の女性の写真を見せてきた。
金髪の女性で、青く澄んだ大きな瞳に端正な顔立ちの人だった。
「この人って?」
「保育所同じだった奴の保護者。この顔が好きで……どうしてもこの顔になりたくて。俺、こんなんだし」
勝ちゃんが自虐するように火傷の痕を手でなぞる。僕は彼がいつも自信満々にキラキラとしていたところばかり見ていたので、まさか自分の容姿をそこまで気にしているだなんて思ってもいなかった。
しかも、女性の顔になりたいと言うのだ。
「化粧道具、ある程度は貸せるけど……勝ちゃん、その火傷を隠すなら僕の持ってる化粧品じゃ無理かも」
「何かいいのあるんか?」
「うん。女の子たちが噂してるものがあるんだけど凄く高いんだ」
「それ、今度買う。とりあえず、やり方だけ教えてくれ」
「うん。わかったよ」
そうして僕はその日彼を家に上げて彼が見せてきた写真の顔にできる限り寄せてみた。はじめは僕が全て化粧をしてみせ、また趣味のコスプレで使っていた金髪のウィッグを被せると、彼はたちまち綺麗な女性へと変身した。
「ありがとう!」
勝ちゃんはその顔を見て心から嬉しそうに目を細めて笑った。その美しい顔に、僕は幼馴染だというのに思わずどきりと胸が鳴ったのだった。
それから何日か、勝ちゃんは僕の家に練習しに来た。完璧な男だ、すぐに化粧のコツは覚えて完璧な美少女へと変貌していた。自分の容姿が変わる度に勝ちゃんは無邪気に笑い、本当に楽しそうだった。そんな彼を学校では見ることがなかったので、僕は彼の役に立てているのだと思い嬉しくなっていた。
お父さんにもその趣味を伝えているようで、中学3年生の誕生日には高いファンデーションを買ってもらっていた。噂は凄いもので、そのファンデーションを使えば火傷の痕は完全に隠すことができた。その完璧な姿を見たとき、勝ちゃんは泣いて喜んでいた。
「ありがとう」
毎回、勝ちゃんは僕に感謝をした。だから、僕はいいことをしている気になっていた。また、2人だけの秘密を共有しているようで嬉しかった。
だから、高校1年生のGWに突然ミーチューブを始めた時はびっくりした。
「ずっとこっちの自分で生きてみたかったんだ」
勝ちゃんは嬉しそうに話した。IT企業で働くお父さんに機械のことは聞きながら行っているらしい。『ヒナ』と名乗る彼は完全に都筑勝浬とは別人で、はじめはひどく狼狽した。
それでも彼のやりたいことなのだからと応援した。
そのうちもう一人の幼馴染の友ちゃんがファンだと知ったときは複雑だったけど、勝ちゃんは友ちゃんに話す様子もなかったので黙っていた。勝ちゃんがすぐに友ちゃんのアカウントをわかっていたのも驚きだったけど、そこにも突っ込むことをやめた。
幼馴染の夢を応援しているつもりだった。
いいことをしているつもりだった。
でも、実際はどうなのだろうか。
突然出てきた宮古朱梨の名前。
朱梨ちゃんの母の顔が好きだった。それだけのことかもしれない。
でも、朱梨ちゃんを忘れられない勝ちゃんも確かにいた。
朱梨ちゃんの亡くなった橋で思いを寄せる彼を知っていた。
そして、東保育所の関係者が死んでいく。
望木くんだって朱梨ちゃんのことをいじめていたらしいのだ。それを、勝ちゃんは忘れていないのではないか?
なら、朱梨ちゃんのお母さんの顔をしていることにも実は意味があるじゃないのだろうか?
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