魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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ボーイ(28)・ミーツ・ボーイ(17)

手離さないって物理のことじゃない(アウクトルサイド)

 魔王アウクトル・ゲネリスはその分体を顕現させる手段として、ランダムに選出した魔族の夫婦の子供として生まれることを選んだ。

 一歩間違えば家庭崩壊に繋がる恐れがあったが、当時はリスクを冒してでもいち魔族といて生まれたいと思ったのだ。
 魔族の中で唯一親からではなく、自然から産まれたアウクトル。
 この世に誕生した瞬間から、魔族でありながら別格の存在として定義された。

 ひと時でも構わない。何者でもない存在になりたかった。
 種族を背負う事を負担に感じたことはないが、それでも何の責任もなくただ愛されるために生まれてきた子供になり、庇護されるべき存在として幼少期を過ごしてみたいと思った。
 結果として彼は賭けに勝った。
 アーヴォ家の夫婦は仲睦まじく、自分達に似ていない息子でも大事な我が子として可愛がってくれている。

 父パドレは誠実な働き者だ。
 妻を尊重し、自分よりも魔力の強い息子でも父親として守ろうとする良い男だ。
 夫としては優良物件なのだが、モテるとは言い難い外見の持ち主なので、夫になるまでが想像しにくい男だ。

 母メールは舞台鑑賞が趣味だったが、贔屓にする役者は常にパドレとは正反対のタイプだった。
 幼いアウクトルは、何故好みに合致しないパドレをメールが選んだのか不思議だった。
 1000年前ならまだしも、今は平和な時代。アーヴォ家は一般家庭で政略結婚が必要だとは思えない。
 何より日頃のパドレに対するメールの愛情表現には偽りがない。
 アウクトルの魔眼は嘘を見抜く。

「ママは昔からずっとすらっと細身で涼しげな人が好みなのよね~」

 テーブルの上に置かれたパンフレットには、母が言う通りの外見の男が印刷されている。

「父さんとは正反対ではないか」

 アーヴォ家の大黒柱の身長は、魔族男性の平均にはギリギリ届かない。
 全体的に丸々としていて、つぶらな瞳をしている。癒し系マスコットのような男だ。
 食品会社のイメージキャラクターとしてなら、パンフレットに描かれても違和感がない。

「パパが特別なだけよ」
「なぜ父さんは特別になったのだ? どうやって特別だと確証を得たのだ?」

 産まれ直したアウクトルだったが、精神が肉体に引き摺られて退行するする事はなかったので幼少期からこの話し方である。
 幼児とは思えない言葉遣いだが、見た目が愛らしいので両親は「大人の真似しちゃって可愛い~」と微笑ましく感じていた。

「パパに会う前のママはね。頭で恋をしていたの」

 仕事のフラワーアレンジメントを作っていたメールだが、片手間に答えられる内容ではなくなりそうなので一旦作業の手を止めた。
 幼子にどう説明するか迷ったのは一瞬で、誤魔化すことなく少々赤裸々な内容まで丁寧に答えることにする。
 母になって数年だが、我が子の聡明さはよくわかっている。

「パパに会うまでに何人も好きになった人はいたし、中にはお付き合いした人もいたわ」
「でもその人たちは、まずは見た目が好みで、次にお話しして更に好感度が上がって……条件が合った相手と手順を踏む感じでどんどん恋心を育てていった感じだったの。だからお別れした時は残念だと思ったけど、条件が合わなくなっちゃったんだから仕方ないわねって諦めがついたわ」

 アウクトルは問題なく理解した様子で続きを促す。
 子供がどこまで理解できるか心配したが、杞憂だったらしい。

「パパはね、出会った瞬間に条件全部頭から吹き飛んじゃったの。特に理由もなく、好きだなーって思ったの。この先何があっても諦められないと思ったから結婚したのよ。パパは遠慮しいだから、待ちきれなくてママからプロポーズしちゃった」

 神妙な顔をした息子のふくふくとした頬を突く。

「きっと、あーくんにもそんな相手が現れるわ。もしそんな子に会えたら、その子のこと大事にしてね。絶対手離しちゃダメよ」

 =========

「僕は女の人に好かれる容姿じゃないからね。ママの事も時が来たら諦めるつもりだったんだ」

 パドレはメールと真逆の回答をした。

「母さんは最初から父さんのことを好ましいと感じていたようだが」
「ママはそう言ってくれたけどね。僕じゃママを幸せにできないと思ったんだよ」

 子供の頃から小太りで、他人と同じ量しか食べていないのに丸々としていた。
 運動が苦手で、体を鍛えても体力がついただけで見た目は変わらなかった。
 せめて清潔であろうとしたけど、背伸びして漸く普通の男子レベルに並ぶ容姿。

 自分なんかに告白されても、相手を困らせるだけだと思った。
 困らせるどころか、気持ち悪いと思われるかもしれない。
 好きな人に嫌われるくらいなら、と何度も恋をしては相手に悟らせることなく諦めてきた。
 パドレにとって恋とは、ひっそりと育ててはそっと手放すものだった。

「僕のことを好きって言ってくれる女の人はママが初めてだったから、舞い上がっちゃったんだ。告白した時は相当酷かった。産まれて初めての告白だったから何言えば良いのか分からなかった。そもそも伝えるつもりはなかったから準備もしてなかったし。多分ママも良くわからなかったんじゃないかな」

 小説のような口説き文句どころか、支離滅裂で自分でも何言ってるのか分からなかった。
 当時の記憶は半分飛んでるので、告白の台詞は思い出せない。
 覚えているのは、自分を見つめるメールの微笑みだけ。
 これだけは何年経っても色褪せることない。きっと死の間際でも鮮明に思い出せるだろう。

「ママがずっとニコニコしてくれたから、嫌がられてないって安心できた。大事なのは言葉じゃなくて気持ちだよ。下手でも気持ちを伝えようとすれば、必ず相手は応えてくれる」

 両親による恋愛の極意は、微妙に形を変えて息子に受け継がれた。
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