魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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ボーイ(28)・ミーツ・ボーイ(17)

あー、そーゆーことね

 朝っぱらから嫌な思いをした俺は、本日店を臨時休業にした。
 学園長に昨日の顛末を報告するのと、新メニューのために買い出しに行きたかったのでサボりではない。
 学園長のアポは驚くほどあっさり取れた。朝イチで申請して、今日中に返答があれば良いくらいに考えていたら、秘書的な人物に直で学園長室に案内された。
 相変わらず滅茶苦茶腰が低い。此方は学園の一部を間借りしている身なのに、魔王様効果なのか一般人の俺にすら最上級のもてなしをしてきた。
 最後に「魔王様をよろしくお願いいたします」と涙ぐまれた。よくわからん。

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「信じられないでしょ!? でも本当の話なのよぅ!」

 俺はアーヴォ家のリビングにいる。
 市場でメールに声をかけられ、流れでお邪魔することになった。
 彼女としては息子が毎朝店に行っているのを申し訳なく感じていたようだ。
 開店祝いに立派な観葉植物をもらったし、何より店がアウクトルにもらった物だ。モーニングセットくらいなら在学中毎日来たとしても構わないのだが、親としてはそうもいかないらしい。

 お茶をご馳走になり、今は情熱の男・パドレ武勇伝で盛り上がっている。
 何と彼は元ジュエリーデザイナーだった。

 魔族は恋人に指輪、婚姻時に腕輪を贈る習慣があるらしい。
 基本恋愛結婚なので、指輪の一部やモチーフを腕輪に組み込むことが最近の流行りだとか。
 アーヴォ夫婦もその例にもれず。
 愛する妻に最高の腕輪を贈りたいと、(逆)プロポーズ後にパドレは一念発起。独学で宝飾デザインの勉強を開始。
 試作のデザインが入賞して、デザイナーとして就職。
 メールをイメージしてデザインした幾つかのシリーズは、今でも定番商品として売られているらしい。
 満足のいく腕輪を完成させた時に完全燃焼し、あっさりデザイナーから経理に転属届けをだし今に至る。

 彼の最高傑作は、今も妻の左腕で輝いている。
 彼にとって妻が女神ミューズ
 女神ミューズに最高の仕事を捧げたので、デザインの仕事に未練はないのだとか。

 かっこいいじゃないか。
 映画1本撮れそうだ。
 そんなかっこいい男の息子は、今朝最悪なアクセサリー持って来たけどな。

 =========

「アミ。まだ調子悪いの?」

 昨日アウクトルの圧を受けてから、ずっとアミは浮かない顔をしている。元々大人しい性格だが、いつもよりも更に口数が少ない。

「シューラ…今日は私に付き合ってほしい…」
「良いけど。何処に行くの?」
「…アールの家」

 予想外の場所だ。思わずアウクトルの方を見ると、目が合った。

「我が家か。昨日の詫びだ、夕飯でも食べて行くと良い」
「その夕飯を作るのはお母様であって、アウクトルじゃないでしょ。ちゃんとお家に連絡しておいてよね」
「わかった」

 端的に答えるとアウクトルは再び目を閉じた。何か考え事をしているようだ。

 =========

 放課後になり、3人は連れ立ってアーヴォ家に向かった。
 いつもならアミがポロッと面白いことを言い、シューラがそれにツッコミを入れる。
 もしくはアウクトルがトンデモ発言をしてアミが諌め、シューラがツッコミを入れる。
 今日はボケ担当2人が発言しないので、会話自体が無い。
 シューラとしても、今の空気で話題を捻り出しても盛り上がらないのは明白なので黙々と歩いた。いつもは気にならない沈黙が痛い。
 好きな人が隣にいるのに、全然テンションが上がらない。

 たどり着いたアーヴォ家には何故かフォンスが居て、そのまま全員で夕飯を食べることになった。
 シューラとしてはアミが自分を誘った目的を聞きたかったのだが、第三者が居るため言い出し難い。
 アミからのアクション待ちなのだが、彼女は始終アウクトルとフォンスの方を見ていて、シューラの事なんて眼中にない感じだ。
 疎外感で息苦しい。愛想笑いを貼り付けて、当たり障りのない会話をして只々時間が過ぎるのを待つ事しかできない。身の置き場のないシューラを気遣って度々話題を振ってくれたのは、何も知らないメールとフォンスだけだった。

「「ご馳走様でした」」
「シューラちゃん、アミちゃんまた来てね~。あーくん、二人をちゃんと送るのよ」

 少女たちと共にフォンスも暇を告げたが、アウクトルが引き留めた。

「明日は定休日だろう。今日は家に泊まっていけ」
「明日はヴォルティの朝市に行く予定なんだ」
「ええ!? フォン君。ヴォルティに日帰りなんて無理よ~。朝市なんて、今から出発しても間に合わないわよ」
「走れば大丈夫ですよ」
「も~時速何キロ出すつもりなの」

 メールは冗談だと思っているようだが、フォンスは本気で走っていく予定である。

「家に泊まるなら。俺が転移で送ってやる」
「大丈夫だ。俺の脚力、お前は知ってるだろ」
「天候が崩れるかもしれない」
「俺は晴れ男だから心配無用だ」
「…アール、私たちは二人で帰れる。ね? シューラ」
「え? そうね。私たち結構強いし、深夜じゃないんだから家に帰るくらい問題ないわよ」
「…バイバイ、アール」
「ああ。気をつけて帰れ」

 =========

 シューラの手を取り、アミは早足でその場を去る。最初の角を曲がって直ぐにアミは足を止めたので、引っ張られる形だったシューラはつんのめった。
 文句を言おうとした口が半端な状態で固まる。
 アミは声を殺して泣いていた。

「…シューラ見たでしょ」

 この人選が成された時点で、僅かに予感があった。

「私達がお願いしたら…きっとアールは家に泊めてくれる」
「でもアールは、自分から誰かを引き止める事はしない…あの人を除いて…」
「でもだって。それは、その!」
「昨日アールの感情を見て気づいたの。ずっとアールの感情の振れ幅は少なかったのに、あんな激しいの…初めてだった」

 少し前からアールはとても嬉しそうだった。ベースとなる状態が喜怒哀楽のうち、1.5倍「喜」に傾いている位だったので、何か良いことがあったんだろうくらいにしか思っていなかった。
 朝が一番機嫌が良かったので、単純にカフェ通いが好きなんだと思っていた。

「私たちじゃダメなの…!」

 絞り出すような叫びだった。
 今日アーヴォ家にフォンスが居たのは予想外だったが、お陰でハッキリした。彼女の魔眼は恋愛感情のような複雑な感情を読み取るほどの能力はないが、それでもある程度はわかる。

 10年以上彼を見てきたのだ。
 彼に一番近いと自負しているから、自分ではダメなんだと痛感する。
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