魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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1000年前から愛してる

意味がわかると怖い話(アウクトルサイド)

 魔界生活3ヶ月にして、俺は色々と失い振り出しに戻った。
 一度手にしたものを手放したので、喪失感が半端ない。

 昨日、無事指輪が納品された。
 石持ち込みだが高額注文だったので、ネックレス用のチェーンをサービスしてくれた。嬉しくない。
 使用した石は、俺の血液から作成した。
 アウクトルが魔術で作成したのだが、かなり搾り取られた。普通の人間なら致死量だ。

 薄々気づいていたが、嫌な事実も知ってしまった。
 俺のイヤーカフに使用されているのは彼の血だ。知らないままでいたかった。

 =========

 アウクトルはちゃんと約束を守ってくれた。
 指輪を受け取ると学園に転移し、その場でカフェを再構築してくれた。
 夜の学校に忍び込んだ形になるのだが、巡回中の警備員は俺たちの姿を見つけるとお辞儀をしてUターンした。彼は何を警備しているんだろうな。

 アーヴォ家での生活は、想像以上に平和だった。
 帰宅、食事、風呂の時間を、他人に合わせるのはストレスだったが、騎士団という集団生活のお手本のような場所で生きてきたので、耐えられない程ではなかった。
 長期間アウクトルと同じ部屋で生活するのかと戦々恐々していた俺だが、良い意味で裏切られた。
 なんとあの家、客間があったのだ!
 メールに2階を案内された時、叫びそうになった。

 まあ初回は、いきなりお邪魔したので用意できなかった可能性がある。しかし2回目は、誰か言ってくれても良かったんじゃないか。
 極力聖域きゃくまに引き篭もりたかったが、お世話になっている身なので積極的に家事を手伝った。
 俺から家どころか、全財産奪ったのはアウクトルだが、アーヴォ夫婦が関与したわけではない。子供の教育に関しても、アウクトルの性格は自前なので彼らの責任ではない。
 部屋を分けて生活した為か、性的なほにゃにゃらはなかった。

 こうして俺のホームステイは恙無く終了した。

 =========

 営業再開初日。
 開店前のカフェの扉を叩く音がした。
 アウクトルは勝手に入ってくるので、彼ではない。

「フィン君、私です」

 この呼び名を使うのは一人だけ。
 磨りガラス越しでも、相手が誰かわかってしまった。

「おはようございます」

 白金の髪を朝日に輝かせ、爽やかに挨拶する優男。
 早朝だというのに、しっかり身形を整えたカフェの常連客だ。出会った頃に一度名乗られたが、聞き流したので名前は覚えていない。当時はこんなにウチに通うとは思わなかったんだ。

「あんたか。どうしたんだこんな時間に」

 年齢が同じなので、タメ口にしてくれと言われたので言われた通りにしている。接客業としてはどうかと思うのだが、何度も請われて俺が折れた。俺はタメ口なのに、相手が敬語なので正直話し難い。

「夜行で此方に帰ってきた所なんです。どうしてもフィン君のコーヒーが飲みたくて……すみません」

 彼は学園の関係者だが、出張が多い仕事をしている。暫く顔を見なかったが、遠方へ出向いていたのか。

「はあ…。 仕方がない、上がっていけ」
「ありがとうござます」

 綺麗な顔を綻ばせ、彼は店に足を踏み入れた。

「言っておくが、普通はこんな対応しないからな」
「はい」
「今回が例外だ。覚えておいてくれ」
「はいっ。特別ですね!」

 一度許したことでズルズル時間外営業を要求されては敵わない。
 俺はカウンターに座る男に釘を刺した。
 ニコニコと嬉しそうに返事をするが、本当にわかっているのか。今日だって割増料金にするからな。

「…君、前からこんなアクセサリー着けてましたっけ?」

 コーヒーを淹れていると、立ち上がった男が俺の耳元に手を伸ばした。

「カウンターを越えないでくれ」
「すみません。見覚えがないので気になって」
「もらったのは最近だからな。あんたが知らなくてもおかしくない」
「…誰にもらったんですか?」
「知り合い」
「私が同じようにプレゼントしたら、着けてくれますか?」
「俺は元々アクセサリーをつけない主義だ。これは装備品なので例外だ」
「そうですか…。じゃあ、フィン君が着けたくなるようなアクセサリーをプレゼントしますね」
「要らん」

 欲しくもないものを受け取って、後々何か要求されては敵わない。
 あと、今の俺にアクセサリーの話題はタブーだ。気分が悪い。

 =========

「おはようアール。今日は珍しく時間ギリギリじゃないね。カフェに行かなかったのか?」

 自分よりも早く登校していたアウクトルに、トーレは声をかけた。

「ああ… 少し思うことがあってな」
「今日から営業再開だろ?」

 毎朝欠かさずに通っていたので、当然今日は遅く来るものだと予想していた。
 何かあったのか?
 トーレは内心首を傾げた。

「…シェリに聞きたいことがある」
「何でしょうか?」

 トーレと一緒に登校したシェリ。彼女の指には先日購入したばかりの華奢な指輪が嵌められている。

「お前はその指輪を『知り合いにもらった装備品』と紹介するのか?」
「しませんよ! する訳ないじゃないですか!」

 妙な疑いをかけられてはたまらないと、シェリは食い気味に否定した。
 驚いた表情の恋人にも、首を振って必死にアピールした。

「ならば、仮にそう表現するとしたらそれはどんな時だ?」
「絶対しませんって!!」
「仮に、だ。お前の考え得る可能性を述べろ」

 アウクトルは言葉に魔力を込めた。
 魔王の命令だ。交友関係にあるが、彼に忠誠を誓っているシェリは命令には逆らえない。

「恋人の存在を、か、隠したいとか…?」
「つまり浮気心か」

 アウクトルの周囲の空気が揺らめく。
 錯覚ではなく、二人の肌が高温で炙られる。

「別の可能性もありますっ! 恋人に迷惑がかかるとかっ! 知られちゃいけない状況で、相手を守るためとかっ!」

 慌てたシェリが、思い浮かんだ事を片っ端から叫ぶ。

「ふむ。『知り合い』の部分はそれで納得した。次は『装備品』だ」

 アウクトルの威圧が霧散した。
 まだ続くのか、と思いながらシェリは頭を捻った。

「ええっと、もう少し情報が欲しいです」
「そうだな。それなりに親しいと考えられる知り合い……但し仕事上の付き合いしかない相手への説明だ」
「状況がわからないと、漠然としすぎていて…」
「訪ねてきたその男が、装飾品の存在に気づいて問いかけたのだ。誰にもらったか聞かれ『知り合い』と答え、自分も装飾品を贈れば身につけるのかと問われて『これは装備品だ』と返答した」
「……あのぅ。そこまで詳細を把握されているということは、その場にいらっしゃったんですよね? 直接お聞きになればよろしかったのでは?」

 嫌な予感しかしない。シェリとトーレの気持ちがひとつになった。

「見ていたが、その場には居なかった」
「……」

 聞きたくないが、聞かなければならない。
 シェリの葛藤を汲み取り、トーレがアウクトルに問いかけた。

「アール。どうやってその状況を見たんだ?」

「装飾品から送信された映像を確認した」

「盗撮じゃないか!!!」

 朝の教室にトーレの叫びが木霊した。
 自分の指輪と一緒にされたくない、とシェリは思った。
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