魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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1000年前から愛してる

猫型ロボットの誘い

「旅行へ行く。準備をしろ」

 閉店後の店にやってきたアウクトルは、開口一番宣言した。
 俺の答えは勿論ノーだ。

「無理だ。店がある」
「その事なら心配いらぬ。行き先は1000年前だ。戻る時間軸を現時点にすれば、店の営業に支障はない」

 なん…だと…?
 まさか天然で猫型ロボットの発想をする奴がいるとは驚きだ。

「何故今なんだ?」

 現実的な問題は1つ解消されたが、それにしても唐突すぎる。

「目的を知りたい。説明できないなら同行は諦めてくれ」

 タイムスリップに興味はない。一人で行け。

「未来の為に必要な事だ。現地に着き次第説明する」

 いつもの上から目線ではない。アウクトルの声には懇願の色が滲んでいる。

「わかった。必要なものを述べてくれ」

 彼が挙げたのは食糧、衣類、布類、それから武器・武装。何か討伐するのか?
 確かに武力が必要であれば、同行者として俺は適任だ。
 彼の友人達も魔族である以上それなりに戦力になるが、今の魔界は21世紀ヨーロッパ。実戦経験に乏しい。
 昼間、店に陣取っていた四天王とやらも、魔王が眠りにつく直前に生まれたギリギリ旧世代。誕生直後に世界が分けられているので、戦争経験者ではない。実際に彼らに求められる役割は政のみ、戦力外だ。

 俺が準備を終えるなり、床に魔法陣が浮かび上がる。
 事前に教えてくれなければ、うっかり弾いてしまうところだった。

 =========

 過去に到着するなり、アウクトルは拠点を作成してさっさと中へ入ってしまった。
 俺たちの拠点は木造平家の一軒家。外観は別荘風のロッジといったところ。
 周囲を見渡した俺はテンションが下がった。
 武装が必要なくらいだ、快適なバカンスは期待していなかった。でも、旅行と称するからには、それなりに楽しみがあっても良いと思う。

 周囲は樹海。
 跳躍して見渡すが、360度広がる樹の海。一番近い山ですら、本気で走って1時間かかりそうだ。勿論人里なんてものは見当たらない。
 食糧足りるか?
 魔力ソナーを展開するが、俺たち以外の生き物の気配がしない。周辺で狩りは絶望的。
 水源は徒歩10分くらいの距離にあった。
 キャンプですらない、サバイバルの匂いを感じた。


 早急に目的を達成して帰還したい。
 家に入り、中で作業しているであろうアウクトルを探す。

「……何故お前、女になっているんだ?」

 魔王君は、魔王ちゃんになっていた。

 =========

 突然の女体化を果たしたアウクトルは、俺に魔王の本体と分体の関係を説明した。

 両者の関係は、電話に例えるとわかりやすい。
 魔王の精神=魂=電話番号。
 本体が固定電話。分体はその子機。

 彼と本体の精神は、リアルタイムで完全同一。
 日常では子機の方が利便性が高いため主に使用するが、子機は本体あってのもの。
 分体は本体による魔術で構成されているため、本体にトラブルがあれば存在を維持できない。
 逆に分体が死のうと本体に影響はない。
 機械にトラブルがあっても電話番号自体には損害を与えないように、体と精神は独立している。かといって、体がなければ精神はただそこに存在しているだけになるので、体の存在は必要。

 魔王が存在する過去に飛ぶという事は、同じ電話番号が2つ存在するという事。エラーが発生する。
 これが力なき一般市民だったら、過去の自分と直接絡みでもしない限り問題にはならない。イレギュラーな存在が世界に入りこんでも、歴史修正力が働くからだ。
 少々のバタフライエフェクトであれば、世界が上手いこと何とかしてくれるらしい。

 しかし、魔界で一番魔王様となれば話は別。
 過去に降り立った時点で魔王に感知され、同時存在してはいけない2人が邂逅してしまう。そうなると魔術である分体は本体に比べると存在が弱いので、吸収されてしまうのだとか。

 アウクトルは過去に降り立った瞬間結界をはり、身を隠した。
 一瞬、この世界で姿を晒したことになるが1秒にも満たない時間なので、本体は違和感こそ感じれど速攻で飛んで来るような事はないとか。
 つまり彼はこの世界では引きこもりの戦力外。
 強制的に俺が外に出向くことになる。
 畜生この野郎。いや、今は女か。
 女になったのは彼の秘められた願望ではなく、必要な措置とのこと。

 男の姿に比べ、大分小さくなった背を見下ろす。
 ストレートの黒髪ロング、華奢だが胸はそこそこ大きい。小顔で可愛らしい顔立ち。
 これ絶対お前の趣味だろ。お前の顔立ち女にしても、可愛い系にはならないからな絶対。

 =========

 訝しむ俺の視線に、アウクトルが居心地悪そうに身じろぎする。

「お前に渡しておく物がある」

 彼――否、彼女は懐から2つの腕輪を取り出した。
 シンプルな作りの腕輪は対になっている。

「魔王城の宝物庫から持ってきた。これが俺の気持ちだ」

 アウクトルが持ってくるものだ。単なるアクセサリーではない。
 絶対に碌な物じゃないと踏んだ俺は、無言で鑑定スキルを発動。

「これは――!?」

 腕輪同士の通信機能。自分が行動した範囲がマッピングされる仕様、振動によるアラーム云々。
 これスマートウォッチじゃないか!?
 異世界観察中に見たことがある。一度使用すると手放せなくなるという噂のアレだ。
 過去で俺を働かせる報酬ということか。

「本当に…もらって良いのか?」

 本人の魔力で動くタイプなので、充電不要。通信機能は、事前登録した個体に直接伝達魔術を飛ばすようだ。つまり通信会社の契約不要。

「ああ。受け取って…くれるか?」

「勿論だ」

 俺は謹んで腕輪を受け取った。もう一つはアウクトルが装着。
 引きこもりになる彼女との連絡手段は必須なので、決してハイテクへの好奇心に負けたわけではない。
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