魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

文字の大きさ
44 / 84
1000年前から愛してる

おめでたです(後半アウクトルサイド)

 タイムスリップ生活2日目。
 朝、水汲みから帰ってきた俺を迎えたのはアウクトルの衝撃の一言だった。

「できたぞ」

 俺は汲んできた水を全部床にぶちまけた。

 腹に手を当て、笑みを浮かべる少女。
 男の時同様ニヤリと笑ったつもりなのだろうが、可憐な少女の姿なので歪さを感じてゾクリとした。

「お前の協力のおかげだ」
「朝食作ってくれたのか?」と惚けたかったが、逃げられなかった。
「どどどどどうやったんだ?」

 声が震える。本気で心当たりがない。

「昨晩、寝物語で色々案を出してくれただろう。それを活用した」

 最初に俺の脳裏に浮かんだのは、俺の精巣から彼女の子宮へ転移魔術を使用したという恐ろしい考え。
 だがそれは不可能だ。
 俺の肉体へ影響を与えるようなものは、事前に受容しない限り弾く。魔王の本気を出せば押し切られる可能性があるが、それなら絶対に気づく。

 次に浮かんだのが、俺の体から切り離された遺伝子情報を転用し人工授精を行なった可能性。だが、毛根が付着していない抜け毛からはDNAの採取は不可能。俺は一晩中気を張っていたから、髪の毛を引っ張って抜かれたら気付く。
 髪の毛以外に採取しやすいものといえば――

「……もしかして、指輪の血液を使用したのか?」

 褒めろと言わんばかりに、アウクトルの笑みが深くなる。
 背筋がゾクゾクする。俺の頭の奥で警報が鳴り響いた。

 昨日二人で考えようと話したばかりなのに、彼女は俺の意見を聞かず暴走した。いや、この口ぶりだと、俺の提案を彼女は受け入れたつもりなのだろう。まさに二人で考えた結果。

 男だったら頭叩いているところだが、女性にそれをするのは憚られる。性別変えるなんて卑怯だ。

「……次回以降は、俺の同意を得てから実行してくれ」

 俺は童貞のまま父親になったようだ。

 =========

 茫然自失の俺だが、時間は待ってはくれない。
 妊娠したとなれば、次は出産の準備だ。
 俺の<収納空間>にはそれなりに色々入っているが、それでも妊婦の生活を支えるとなると心もとない。
 しかも俺たちは出産も二人で乗り越えなければいけない。
 アウクトルは拠点から出ることができないし、この場所に産婆を連れてくることは現実的ではない。
 二人とも助産の経験はない。寧ろあったら驚きだ。

 俺は童貞で父親になったが、アウクトルは処女で母親になった。
 出産は酷い痛みを伴うものと小耳に挟んでいた俺は気が気じゃない。

「お願いだから、陣痛が始まったら子供に転移を発動して産んでくれ」
「何故だ。折角お前の子を産むのだから、余す事なく経験してみたい」

 痛みであろうと受け止めて見せよう、とドヤ顔の少女は事の重大さをわかっていない。

「破瓜もなく直接出産とか正気じゃない」
「ならば、安定期に入ったらお前が慣らせば良い。激しくしなければ問題ないらしいぞ。お前が満足するまで広げろ」

 笑えない下ネタはやめてくれ。
 嘗て男同士の猥談に憧れていた俺だけど、思ってたのとだいぶ違う。
 そもそもアウクトルは今、女なので男同士のところに引っ掛かる。そうなると、これ猥談じゃなくて逆セクハラ?

 俺の葛藤などどこ吹く風で、アウクトルは機嫌良さげにもたれかかってきた。
 駄目だ、普通に説得したんじゃ聞く耳を持たない。
 こうなったら伝家の宝刀を使うしかない。

「俺の母親は出産時に亡くなった。いつものお前なら対処可能であっても、そのいつもの状態じゃなくなるのが出産だ。陣痛どころか、異常があれば即転移魔術が発動するように事前に設定して欲しいくらいだ」
「――軽率だった。俺としたことが浮き足立っていたようだ。言う通りにしよう」

 俺の心の傷どうこう言っているが、別にそんなものはない。
 彼女に何かあれば、残りの四天王は生まれない。未来へ戻る方法も俺は知らない。
 全部アウクトル頼み。普通に保身だ。

 重くなった空気を変えるため、俺は話題を変えることにした。

「4人出産するとなると、時間がかかるな。向こうに戻ったら、老けた姿に驚かれそうだ」
「お前は老化しない」
「何だと?」
「俺とお前の魂は繋がっている。俺が生き続ける限り、お前は今の状態を維持することになる。誓約魔術を結んだではないか」
「…………」

 俺が魔界で誓約魔術を結んだのは一度だけ。カフェ開設時のアレだ。
 最後に書かれていた条項、時の流れ云々言っていたやつ。あれに違いない。
 知らぬ間に俺たちは一蓮托生になっていたようだ。アウクトルが生き続ける限りってことは、逆に死んだらどうこうなるって事だろ。
 益々アウクトルの安全を守らなくてはならない。
 マジでお前ひとりの体じゃないんだからな!


 俺は必要な知識及び、生活物資を手に入れるために冒険者として働くことにした。
 この時代では、よくあるファンタジーの設定通りの冒険者生活を送ることができる。

 冒険者はギルドに登録した後、依頼を達成もしくは採取した素材をギルドに売る事で生計を立てる。
 俺は採取一択。日帰りできる事を前提に、足を伸ばせる範囲で魔獣を狩っている。
 手っ取り早く稼ぎたいので大物狙い。
 魔物の種類に詳しくないので、何が高額なのか分からない。取り敢えず「幻の~」とか「伝説の~」と言ったそれっぽい頭書きが付くものを狩っている。

 他人と組むと、スケジュールに自由が利かないので専ら単独。
 お前元からソロしかできないだろうって? そうだよ、ギルドでも誰も声かけてくれなかったよ。
 登録日から今日に至るまで、皆遠巻きに見ているだけだ。新人に絡んでくるテンプレな三流すらいない。
 ギルドでは受付嬢としか話していない。その受付嬢も毎回人が変わるから、親しくなったりもしない。
 俺は環境を変えてもボッチ属性らしい。

 =========

「そろそろ頃合いだな」

 この時代、些細な違和感でも取りこぼせば致命傷になる。
 アウクトル・ゲネリスなら一瞬感知した気配を絶対に解析する。違和感の元と魔術的繋がりを持つフォンスを見つけ出し、彼と接触するのは丁度今頃。

 アウクトルは、自分の片翼は世界一良い男だと確信している。
 フォンスに抱かれる事など考えられなかったアウクトルだが、先日彼が童貞だと知り考えを改めた。
 初めての夜、男の経験に乏しい告白をしていたが、女との経験は当然あるものだと思っていた。しかしそうではなかった。

 アウクトルは彼の最後の存在になれば充分だと自分に言い聞かせていたが、諦めていた物を手にできる可能性があるなら手段を惜しみはしない。
 最初も最後も全て欲しい。その為なら性別を変えることも厭わない。
 最早抱かれることへの抵抗は無く、如何に彼をその気にさせるか考えた。

 この時代で二人に子供が産まれる事は嘘ではない。だが自分に都合の良いように誘導したのも事実。
 逃げられぬよう状況を整え、万人受けしそうな容姿に姿を変えた。
 普通の男であれば、免罪符になるような理由を与えられ、半裸の若い女に迫られれば容易に陥落する。
 だがあの状況でも、フォンスはアウクトルの負担を憂い、その心の有り様に配慮した。
 若い男が一晩中、女を抱きしめて何もしないなど彼でなければあり得ない。
 一切不埒な真似をする事なく、アウクトルを安心させるように宥め続けた。信じがたい鋼の精神だ。

 妊娠発覚時もそうだ。
 アウクトルにも独断専行した自覚はある。夢のような二人きりの生活、自分は何年だって続けても構わないがそれでは四天王が保たない。時間がないのは本当だ。
 一方的に父親としての責任を押し付けられたにも関わらず、フォンスは拒絶する事なく受け入れた。
 それだけではなく、現在進行形で甲斐甲斐しくアウクトルを支えてくれている。

 満足そうな微笑みから魔性が覗く。
 婚姻の証として贈った腕輪を撫でた。
 今の所、万事順調だ。
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

引きこもり魔法使いが魔法に失敗したら、ヤンデレ補佐官が釣れた。

零壱
BL
──魔法に失敗したら、脳内お花畑になりました。 問題や事件は何も起こらない。 だが、それがいい。 可愛いは正義、可愛いは癒し。 幼児化する主人公、振り回されるヤンデレ。 お師匠やお師匠の補佐官も巻き込み、時には罪のない?第三者も巻き込み、主人公の世界だけ薔薇色・平和が保たれる。 ラブコメです。 なんも考えず勢いで読んでください。 表題作、2話、3話、5話、6話再掲です。 4話(噂の王子視点)と、師匠×トーリの馴れ初め番外編は同人誌に掲載(シリアスなので) 他サイトにも再掲しています。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

呪われた辺境伯は、異世界転生者を手放さない

波崎 亨璃
BL
ーーー呪われた辺境伯に捕まったのは、俺の方だった。 異世界に迷い込んだ駆真は「呪われた辺境伯」と呼ばれるレオニスの領地に落ちてしまう。 強すぎる魔力のせいで、人を近づけることができないレオニス。 彼に触れれば衰弱し、最悪の場合、命を落とす。 しかしカルマだけはなぜかその影響を一切受けなかった。その事実に気づいたレオニスは次第にカルマを手放さなくなっていく。 「俺に触れられるのは、お前だけだ」 呪いよりも重い執着と孤独から始まる、救済BL。 となります。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★