魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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1000年前から愛してる

世界が表情を変えた(後半魔王本体サイド)

 仲間がおらず報酬総取りのためか、俺の懐はみるみる温まった。
 金銭的余裕ができたので、一部の素材は未来に持ち帰るつもりだ。オニキスに渡せば、きっと上手く活用してくれるだろう。

 最初の頃は、冒険者生活も新鮮で面白かったのだが、段々飽きてきた。
 数ヶ月カフェで働いていたので、魔獣狩りはストレス解消を兼ねた運動として丁度良かったのだが、要は騎士団にいた頃と同じようなものだ。あの時以上に周回要素が多い分、飽きるのも早い。
 しかし家に帰ればアウクトルが居る。正直あの家で二人で過ごすのは気まずい。
 妊婦を長時間放置するのは憚られるので毎日帰宅しているが、家で過ごす時間は短いに越したことはない。


 そんな時に彼は現れた――
 魔王アウクトル・ゲネリス。
 この時代の魔王様ご本人だ。

 彼は迷うことなく俺に一撃かましてきた。
 此方の出方を伺うような、軽い挨拶のようなものだったので受け流す。
 彼は軽く眉をあげた後、面白そうに口元を歪めた。
 一切言葉を発することなく、次の攻撃を繰り出す。
 徐々に出力を上げたと思えば、緩急をつける。魔術、体術、様々な攻撃方法で俺がどこまで対処できるか試しているようだ。
 爛々とした瞳に敵意はない。
 恐らく手段と目的が入れ替わっている。分体がまさにそんな性格だから、俺の見立ては正しいに違いない。
 防戦一方だと疲れるので、俺も適度に攻撃する。完全にスパーリング状態だ。
 攻撃が止まないので、俺も止め時がわからない。
 せめて何か言ってくれれば、此方も対処可能なのだが。

「しまった、日が沈む。夕飯の準備があるから俺は帰る!」

 共同生活中、食事は俺の担当だ。
 アウクトルも簡単なものなら作れるのだが、どうせなら美味いものが食べたい。
 彼女には体調に差し支えのない範囲で、洗濯や掃除をお願いしている。

「お前も昼飯抜きだっただろう。腹が減っているはずだ、これをやるから今日は帰れ」

 <収納空間>に入れていた昼飯のクロックムッシュを取り出し、魔王へ押し付けた。
 俺たちは半日以上、休憩なしで手合わせしていたのだ。

「次はいつだ」
「え? ああ、7日後かな」

 一週間単位で行動する癖がついているので、咄嗟に答えた。
 分体のアウクトルが魔王本体と会わないようにしないといけないので、極力関わりたくないのだが次回の約束をしてしまった。
「やはり無しで」と訂正しようとするも、彼は既に転移していた。
 ブッチしたら全力で捜索されそうなので、また来週ここへ来るしかない。
 次回はもう少し会話というか、相手から情報収集できるように準備しよう。

 =========

「休憩だ。コーヒーを淹れるから待て」

 攻撃の手を止めた男が宣言する。
 毎回振る舞われるコーヒーとやらは、苦味のある飲料だ。最初は嫌がらせかと思ったが、元々そういう物らしい。

 アウクトル・ゲネリスは大人しく、フォンスが準備する姿を眺めた。
 奇妙な気配の元を辿った先にいたフォンス。外見は人間だが、それはあくまで見た目だけ。中身は他のどの種族にも合致しない。
 取り敢えずそこそこの威力で攻撃した。
 大抵の敵はこれで消し飛ぶ。格種族の戦隊長くらいであれば、程度の差はあれ怪我を負いつつも生き残る。
 だが、この男は無傷でいとも容易く魔王の攻撃をいなした。
 興味が湧き、徐々に出力を上げたがどこまでもついてくる。フェイクを混ぜたり、緩急をつけても難なく対応する。
 魔王と対等に渡り合う実力の持ち主に、気が付けば心躍らせている自分がいた。

 この男相手なら遠慮はいらない。
 周囲を破壊しないよう抑え込んでいる魔力を解放しても、まるで慣れていると言わんばかりに中和する。
 途切れることのない手合わせは、まるでダンスのようだ。彼となら飽きることなく踊り続けられる。

 2度目の逢瀬で配下になるよう勧誘したが拒否された。
「自営業を知った後に、サラリーマンするのはごめんだ」と言っていたが、意味は分からなかった。兎に角誰かに雇われるのが我慢ならないようだ。
 7日毎では足りない。彼のことが知りたくて遠見や追跡魔術を使用したが弾かれた。
 魔術がダメならと、実際に跡をつけたことがあったが気付かれて釘を刺された。
 強行して嫌われては元も子もないので、アウクトルは引き下がった。
 会うのは7日毎という不思議なルールだが、それで次回が確約されるなら仕方がない。

「ーーそうだ。会うのは今回が最後になる」
「何だと?」
「同居人が臨月なんだ。いつ産気づくか分からないし、出産後は慌ただしくなる。だから次回の約束はできない」

 フォンスの言葉に理解が追いつかない。
 心臓を刺し貫かれても、これほどの衝撃にはならないだろう。
 アウクトルの手から滑り落ちたコップを受け止めたフォンス。残っていたコーヒーが彼の袖を汚した。
 袖を拭う手首に垣間見えた腕輪。

「……子供の父親はお前か?」
「ああ」

 世界が暗転した。




 立ち去るフォンスの背を眺める。その姿が視界から消えてから、アウクトルは魔術を発動した。
 強引に事を進めなかったのは彼に嫌われて、今の関係を失いたくなかったから。
 何もしなくても失うのであれば、遠慮などしない。
 フォンスと逢瀬を重ねたことで、違和感の正体については薄々察しがついていた。
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