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1000年前から愛してる
国民的なアイドル様
男の時は、同性からプライベートのお誘いがなかった俺だが女だと違うらしい。
何とお茶会に招待されたのだ。
女子会の雰囲気は幼馴染で予習済みとは言え、今回は同性としての参加になる。
誘われて嬉しい反面、中身がアラサー男なので騙すようで罪悪感がある。
正体を打ち明けるなら早い方が良い。
アウクトルにも相談したが「お前の好きなようにすれば良い」としか言わなかった。
俺は太腿を撫でようとする彼の手を叩き落とした。
懲りずにキスしようとしてきたので指で阻止した。やることやってるけど、俺たち仮面夫婦だからな。
唇を指でむにむにして誤魔化すと、楽しそうに甘噛みしてきた。
どうもこの男は注意力散漫で、手や口が寂しくなるとちょっかい出してくるのだ。
舐められた所為で、後で手を洗わなければいけなくなった。この時代にガムや気泡緩衝材があれば、与えて大人しくさせることができたのに。
あとスキンシップが好き過ぎて、場所を選ばず人を膝の上に乗せるのもいただけない。トイレ行き難い。
分体はそうでもなかったーーいや、女になってからは、ソファに座る時必ずクッション膝に乗せてたな。同化した時にあの癖が移ってしまったのか。
魔術で性別変えている事をいつ言うか、どう言えば良いのかと悶々としていたらあっという間に当日が来てしまった。
=========
会場は、城からほど近い場所にある侯爵邸。
数人の集まりかと思ったら、結構大規模だ。20人くらいいる。
バラバラに会場入りするため、全員に説明するとなると開会の時に声を張り上げるしかない。無理だ。
せめて主催者には言ったほうが良いかと思ったが、ホストは参加者達に声をかけて回っている。完全にタイミングを逃した。
ここまできたら女に徹し、秘密は墓まで持っていくしかない。
「――妃殿下は魔王様のことをどう思っていらっしゃるの?」
同じテーブルの公爵令嬢に声を掛けられた。
随分ざっくりとした質問だ。
俺の持つ印象を言えば良いのか。
ここにいるのは全員魔王教信者。
さながらここはアイドルのコンサート会場。代表曲しか知らない一般人な俺が、偶々チケットを手に入れて紛れ込んだようなもの。
批判なんてもっての外、できるだけポジティブな表現をした方が良いな。
「不器用で、世話焼きで、お人好しな……愛されキャラ?」
令嬢の手から扇が滑り落ちた。
カシャン……、と会場に音が響く。何故こんなに静かなんだと見回すと、他のテーブルの令嬢たちも動きを止めてこちらを見ていた。
狂人を見る目だ。失礼な。
「彼は面倒見が良い。相手から望まれなくても、困っている人がいれば進んであれこれ手を差し伸べようとするだろう? 誤解を招き易い言動をするから、理解されないだけで」
頼んだわけじゃないのに、俺に飯と宿だけじゃなく店、戸籍まで用意してくれたからな。
「迎撃はするけど、殺さない。大抵のことは受け流す」
喧嘩売られたら買うけど、強者の余裕なのか止め刺さないんだよな。俺には理解できない。
「彼のことを愛している者は多い、それは彼自身が周りを愛しているからだと思う。敵視する者も多いけど、それも注目の裏返しだ」
なんせ魔界のトップアイドル魔王様だからな。
他種族の絡んでくる奴らも、結局は気になるからちょっかいかけてくるんだよ。アンチってやつだ。
=========
断言する魔王妃の目に曇りはない。本気の目だ。心から信じきっている者の目だ。
異世界人の感性、独特すぎる。
魔王をどこぞの天然ヒロインだと思っているとは。
魔族の女性にとって魔王は、敬愛する君主であると同時に最高の男性でもある。
側に侍るも恐れ多い高嶺の花。愛を囁かれることを夢想すれど、そんな浅ましい願望は口にすることすら烏滸がましい。
誰もが憧れながら、誰もその隣に立つことができぬ至高の存在。
ぽっと出の何処の馬の骨とも知れぬ人間が、ぬけぬけと妃面をしていることが気に食わない者は多い。
特に年頃の令嬢となれば、存在そのものに憎しみを抱いていると言っても過言ではない。
魔王が連れてきたから、渋々受け入れているだけで、その座に相応しいなどとは誰も思っていない。
確かに普通の人族ではない。
魔王と徒手空拳で渡り合うことなど、魔族はおろか神族ですら難しい。武力に関しては認めざるを得ない。
だが魔王の寵を毎晩のように強請り、寝所に入り浸るなど到底許せるものではない。執務中も膝に乗っていちゃついているというではないか。話を聞いたときは、怒りのあまり憤死するかと思った。
この会場に集まったのは、有力家門の令嬢たちだ。
今回の茶会は、主君を誑かす女狐を始末するために開催された。
肉体は強靭でも、心もそうとは限らない。
貴族令嬢であれば誰もが言葉を武器に変えることができる。
精神的に痛めつけ、身の程をわからせてやるつもりだった。
=========
「……あ…ああ、貴方、魔王様をヒッヒロインだとでも思ってらっしゃるの?」
完全に硬直した公爵令嬢の隣に座る、ゆるふわウェーブの令嬢が声を掛けてきた。眼輪筋がピクピクしている。確かこちらも公爵家だ。
どちらも顔色が悪くて、汗がすごい。コルセット締め過ぎたのかもしれない。
「ヒロインというタイプではないと思うが……」
何言ってるんだ? 俺様魔王様だぞ、ヒロインは違うだろ。
魔王好きすぎて変なフィルターかかってるのかな、可哀想に。
「あえていうなら、アイドルかな…?」
誰かが小さく悲鳴をあげた。
水を打ったように静まり返るお茶会会場。
しまった。脳内でアイドルに例えていたので、つい口から出てしまった。
11世紀ヨーロッパにアイドルなんて職業はない。誰も理解できないから、反応が悪いんだな。
俺は丁寧にアイドルについて説明した。
説明の途中で気分が悪くなる令嬢が続出したため、お茶会は中止になった。
中には過呼吸を起こしている者もいた。
やはりコルセットは害悪だ。締め上げた状態で座って飲食とか拷問でしかない。
何とお茶会に招待されたのだ。
女子会の雰囲気は幼馴染で予習済みとは言え、今回は同性としての参加になる。
誘われて嬉しい反面、中身がアラサー男なので騙すようで罪悪感がある。
正体を打ち明けるなら早い方が良い。
アウクトルにも相談したが「お前の好きなようにすれば良い」としか言わなかった。
俺は太腿を撫でようとする彼の手を叩き落とした。
懲りずにキスしようとしてきたので指で阻止した。やることやってるけど、俺たち仮面夫婦だからな。
唇を指でむにむにして誤魔化すと、楽しそうに甘噛みしてきた。
どうもこの男は注意力散漫で、手や口が寂しくなるとちょっかい出してくるのだ。
舐められた所為で、後で手を洗わなければいけなくなった。この時代にガムや気泡緩衝材があれば、与えて大人しくさせることができたのに。
あとスキンシップが好き過ぎて、場所を選ばず人を膝の上に乗せるのもいただけない。トイレ行き難い。
分体はそうでもなかったーーいや、女になってからは、ソファに座る時必ずクッション膝に乗せてたな。同化した時にあの癖が移ってしまったのか。
魔術で性別変えている事をいつ言うか、どう言えば良いのかと悶々としていたらあっという間に当日が来てしまった。
=========
会場は、城からほど近い場所にある侯爵邸。
数人の集まりかと思ったら、結構大規模だ。20人くらいいる。
バラバラに会場入りするため、全員に説明するとなると開会の時に声を張り上げるしかない。無理だ。
せめて主催者には言ったほうが良いかと思ったが、ホストは参加者達に声をかけて回っている。完全にタイミングを逃した。
ここまできたら女に徹し、秘密は墓まで持っていくしかない。
「――妃殿下は魔王様のことをどう思っていらっしゃるの?」
同じテーブルの公爵令嬢に声を掛けられた。
随分ざっくりとした質問だ。
俺の持つ印象を言えば良いのか。
ここにいるのは全員魔王教信者。
さながらここはアイドルのコンサート会場。代表曲しか知らない一般人な俺が、偶々チケットを手に入れて紛れ込んだようなもの。
批判なんてもっての外、できるだけポジティブな表現をした方が良いな。
「不器用で、世話焼きで、お人好しな……愛されキャラ?」
令嬢の手から扇が滑り落ちた。
カシャン……、と会場に音が響く。何故こんなに静かなんだと見回すと、他のテーブルの令嬢たちも動きを止めてこちらを見ていた。
狂人を見る目だ。失礼な。
「彼は面倒見が良い。相手から望まれなくても、困っている人がいれば進んであれこれ手を差し伸べようとするだろう? 誤解を招き易い言動をするから、理解されないだけで」
頼んだわけじゃないのに、俺に飯と宿だけじゃなく店、戸籍まで用意してくれたからな。
「迎撃はするけど、殺さない。大抵のことは受け流す」
喧嘩売られたら買うけど、強者の余裕なのか止め刺さないんだよな。俺には理解できない。
「彼のことを愛している者は多い、それは彼自身が周りを愛しているからだと思う。敵視する者も多いけど、それも注目の裏返しだ」
なんせ魔界のトップアイドル魔王様だからな。
他種族の絡んでくる奴らも、結局は気になるからちょっかいかけてくるんだよ。アンチってやつだ。
=========
断言する魔王妃の目に曇りはない。本気の目だ。心から信じきっている者の目だ。
異世界人の感性、独特すぎる。
魔王をどこぞの天然ヒロインだと思っているとは。
魔族の女性にとって魔王は、敬愛する君主であると同時に最高の男性でもある。
側に侍るも恐れ多い高嶺の花。愛を囁かれることを夢想すれど、そんな浅ましい願望は口にすることすら烏滸がましい。
誰もが憧れながら、誰もその隣に立つことができぬ至高の存在。
ぽっと出の何処の馬の骨とも知れぬ人間が、ぬけぬけと妃面をしていることが気に食わない者は多い。
特に年頃の令嬢となれば、存在そのものに憎しみを抱いていると言っても過言ではない。
魔王が連れてきたから、渋々受け入れているだけで、その座に相応しいなどとは誰も思っていない。
確かに普通の人族ではない。
魔王と徒手空拳で渡り合うことなど、魔族はおろか神族ですら難しい。武力に関しては認めざるを得ない。
だが魔王の寵を毎晩のように強請り、寝所に入り浸るなど到底許せるものではない。執務中も膝に乗っていちゃついているというではないか。話を聞いたときは、怒りのあまり憤死するかと思った。
この会場に集まったのは、有力家門の令嬢たちだ。
今回の茶会は、主君を誑かす女狐を始末するために開催された。
肉体は強靭でも、心もそうとは限らない。
貴族令嬢であれば誰もが言葉を武器に変えることができる。
精神的に痛めつけ、身の程をわからせてやるつもりだった。
=========
「……あ…ああ、貴方、魔王様をヒッヒロインだとでも思ってらっしゃるの?」
完全に硬直した公爵令嬢の隣に座る、ゆるふわウェーブの令嬢が声を掛けてきた。眼輪筋がピクピクしている。確かこちらも公爵家だ。
どちらも顔色が悪くて、汗がすごい。コルセット締め過ぎたのかもしれない。
「ヒロインというタイプではないと思うが……」
何言ってるんだ? 俺様魔王様だぞ、ヒロインは違うだろ。
魔王好きすぎて変なフィルターかかってるのかな、可哀想に。
「あえていうなら、アイドルかな…?」
誰かが小さく悲鳴をあげた。
水を打ったように静まり返るお茶会会場。
しまった。脳内でアイドルに例えていたので、つい口から出てしまった。
11世紀ヨーロッパにアイドルなんて職業はない。誰も理解できないから、反応が悪いんだな。
俺は丁寧にアイドルについて説明した。
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