魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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1000年前から愛してる

カオスが極まる

 スタンピードの発生地を聞いた瞬間、俺は閃いた。

 火山を利用しよう。

 人為的に雪崩を起こして敵を一掃する要領で、火山噴火させて溶岩諸々で魔獣を一掃する。
 多勢には多勢。大いなる自然の力をお借りするのだ。
 雪と溶岩じゃ被害が全然違うって?
 作戦後に土地は滅茶苦茶になるけど、作戦実行しなくてもどうせ滅茶苦茶だ。

 そして噴火の混乱に乗じて、俺の耳元で輝く監視ツールイヤーカフを始末する。

 監視されることに慣れている俺だが、だからと言って何も感じない訳ではない。
 未来では渋々装着していたが、いい加減信用してくれてもいいと思う。

 あと監視機能だけじゃなく、石がアウクトルの血だというのもいただけない。
 魔王城に来てから、石の正体に気づいた魔族の皆さんの視線が痛い。居心地が悪くて外そうとすると、今度はアウクトルに咎められる。
 いい加減我慢の限界だ。奴が不在の今がチャンス!


 最初は走って行くつもりだったが、セルヴァが飛竜の操縦ができるというので乗せてもらった。
 新幹線よりも飛行機の方が速い。
 魔力ソナーで砦が持ち堪えていることを確認したので、火山へ向かった。

 火口に細工していると、待機指示を出したセルヴァが来てしまった。軍隊なら考えられないが、彼女は民間人なので仕方がない。

 タイミング良く噴火したので、飛竜に飛び乗った。
 熱風に煽られた俺たちは、火山からかなり離れた場所まで押し流された。
 さり気なく振り落としたイヤーカフが溶岩の海に飲み込まれるのを見届けて、俺は内心ガッツポーズをした。
 さようなら呪いの元指輪。
 後日新しいものを渡されるかもしれないが、適当な事を言って拒否しよう。

 降り注ぐ諸々を避けつつ、俺たちは風に乗って砦へ向かった。
 追い風万歳!
 俺は自由だ!

 =========

 グレンツ砦――

 明かりの灯らない部屋で、領主の娘・フロティエーラは何をすることもなく椅子に座っていた。
 もう一歩も動けない、もう何もしたくない。身も心も擦り減って、全てが億劫だ。

 今日は何とか夜まで持ち堪えたが、援軍なしでは明日はどうかわからない。
 領民達の間でも不安が広がっている。
 長時間緊張状態を強いられて、誰もが限界だった。

 重い空気に支配された砦を突如轟音と振動が襲った。
 すわ城壁が魔獣に破られたかと思ったが、この揺れは生物が起こせるレベルのものではない。もっと深く、大きな力を感じる。

 床に伏せて振動に耐えていると、警鐘が響き渡った。
 警鐘には予め決められたパターンがある。実際に聞くのは初めてだが、領内の者であれば必ず教えられる響き。


 火山が噴火した。


 これ以上の絶望などないと思っていたのに、運命とはこうも無慈悲なのか。
 火山灰が窓に叩きつけられる。逃げることもできず、間も無く自分達は溶岩に飲み込まれるだろう。

 自死の二文字が彼女の頭を掠めた時、新しい警鐘が鳴り響いた。

 大広間へ集合の合図だ。

 =========

 フロティエーラが到着した時、既に多くの者が集まっていた。

「魔王妃様!?」

 喧騒の中心地へ向かうと、そこにいる筈のない人物がいた。

「…フロティエーラ様が断言されたという事は、本当に本物なのか…?」
「…しかし身重の筈では……」
「…臨月だと聞いたぞ……」
「…どう見てもそうは……」

 さざめく人垣に魔王妃が声を張り上げた。

「出産は無事終了した。此処へ来たのは砦を守る為だ。今から特殊な術を展開する。発動中は俺以外のあらゆるものが弱体化する。魔獣は城壁を越えられないレベルに弱体化し、溶岩も失活する。お前達も影響を受けるから覚悟しろ」

 魔王妃が強靭な肉体の持ち主であることは周知の事実だが、彼女の話を信じるなら産後間もない体で国境まで駆けつけたことになる。
 しかも聞いたこともない魔術だ。説明されてなお魔族達の戸惑いは消えず、むしろ強まった。


 困惑する彼等に構うことなく、彼女は術を発動した。

 不思議な術だ。疲労とは別の脱力感が体にのし掛かる。だが、母の胎内で守られているかのような安心感がある。
 砦の責任者として、フロティエーラの父ーーグレンツ領主が口を開く。

「魔王妃様。素晴らしい術だと思うのですが、これほど広範囲ですとその……」

 長時間の展開は難しいのではないか、そう疑問に思ったのは彼だけではない。

「問題ない。援軍が到着するのに何日かかろうと維持可能だ。大半の魔物は溶岩が始末してくれる筈だから、合流後に残党を掃討すれば良い」

「なんとっ――!?」
 何処からか驚きの声が上がった。
 力強い魔王妃の言葉に、他の面々は漸く緊張を緩め安堵の息を吐く。

 ぎこちなく笑顔を浮かべる彼らの中で、フロティエーラの顔は強張ったままだ。
 気づいてしまったのだ。その耳に常に輝いていた寵愛の証が無いことを。

「……魔王妃様。あの…耳飾りは…?」

 彼女の言葉に、セルヴァの顔が真っ青になった。

「妃殿下!! もしや私を庇われた時に!?」
「違う、事故だ。あの熱風では仕方がなかった。くれぐれも自分の所為だと思わないでくれ」
「そんな――! かくなる上はこの命を持ってお詫びを「止めてくれ。責任があるとすれば、取れやすいアクセサリーを身に付けていた俺だ」」

 魔王の血という最上級の誉を失いながら、魔王妃の顔には一切の後悔がない。
 彼女は常にあの耳飾りを身につけていた。
 会話時に嫌でも目に入るそれが心底羨ましく、見せつけるような行為が腹立たしかった。

 何にも替え難い宝を失ったにも関わらず、彼女の表情は晴れやかだ。
 自分ならば考えられない。何よりも――場合によっては命よりも大事にし、もし失うことがあれば絶望のあまり狂ってしまうかもしれない。

「全部俺が勝手にやったことだ。魔王に聞かれたら、君たちもそう証言してくれ」

 出産直後に国境まで駆けつけ、至宝を失ってなお魔族を守ろうとする。

 ああ、この方こそ本物の魔王妃だ。
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