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元英雄だけど友が欲しい!<蛇足編1>
100年の恋も冷める瞬間
アウクトルの爆弾発言で、シューラの恋心は吹っ飛んだ。彼女は今、保健室で寝ている。
告白相手が曽祖父だったなんて、彼女が恋愛にトラウマを抱えないか心配だ。
「…アール。ちょっと色々ついて行けない。僕たちが理解できるように説明してくれ」
四天王が魔王から生まれた事は有名だが、そこにフォンスが出てきたのがわからない。
彼とは昨日の昼に会ったきりだが、アウクトルとどうこうなる様子は一切無かった。
*
話が進むにつれて、どんどん女性陣の顔色が悪くなる。男のトーレよりも、想像の重みが違うからかもしれない。
特にアミが酷い。立っていられず、今は椅子に座り込んでいる。
元々感受性が高い上に、彼女はアウクトルに特別な感情を抱いていた。彼女も恋愛にトラウマを抱えかねない。
シューラと違い生々しい話をアウクトル本人から聞かされたのだ。本気でプロによる心のケアが必要かもしれない。
「……それってつまり、監禁して出産強要したってことだよな」
改めて口に出すと、悍ましい以外の何物でもない。
両想いだろうと、片想いだろうと普通にアウトだ。
シューラに続き、トーレも気絶したくなった。
トーレが余計な事をするまでは、ストーキングの範囲に留まっていたのだ。それが正義感で介入した結果、幼馴染は相手に直接危害を加えてしまった。
「違います! 罪を犯す者が悪いんです! 自分を責めるのは違います!」
恋人の変化に気づいたシェリがトーレを抱きしめた。
「話の流れがわからぬが、背負いこむなよ。お前は色々と気にしすぎる」
誰の所為だよ。お前は気にしろ。
*
「あーくんお帰りなさい。あらっトーレ君と、アミちゃんも来てくれたのね。いらっしゃい~」
「お邪魔します」
「こんにちは…」
ジュメリ姉妹は早退した。
色んな意味で傷心の姉を見かねたシェリが、シューラを連れ帰った。
フォンスの精神状態が心配で、トーレとアミはアーヴォ家へ来たのだ。
「あの…フォンスさんは……?」
「あ、そうそう! あーくんに、フォン君から伝言」
昨日なし崩し的にアーヴォ家に宿泊したフォンス。勿論客室を使用し、アウクトルの部屋に直結する扉の形成は断固拒否した。
何度も誤解を訂正しようとしたのだが、どんどん良くない方向に流れていった。誰にとって良くないかというとフォンスにのみ。
アーヴォ夫婦をゼロベースに戻すことは不可能と悟った彼は、別の方向に舵を切った。
「明日から夏休みだから、お店閉めて出稼ぎに行くそうよ」
休み時間にシェリにアウクトルを見張ってもらい、トーレはカフェ・ミルヒへ行ったが閉まっていたのはそういう事か。
「一緒にいたらあーくんは、フォン君の事を気にするだろうから距離を置くんですって」
「距離を置く」という言葉にアウクトルから軽く魔力が漏れた。
「『一生に一度の学生生活なんだから、自分の事は気にせず友達と過ごして欲しい』って言ってたわ。理解のある旦那さんねーーあれ、お婿さん? もう、どう言ったらいいのか困っちゃうわ」
困ったという割に、メールは嬉しそうだ。
彼女は彼らの関係を好意的に受け入れているらしい。
「「……」」
トーレとアミは、何となくフォンスの意図に気づいてしまった。
「それと『普通の生徒として、青春満喫して欲しいから内縁の事は公表しないで欲しい』ですって」
あ。やっぱり。
逃げたな。
かろうじて声に出さなかったが、二人は速やかに事態を理解した。
*
長年の付き合いの賜物で、トーレの動きは早かった。
「そうだよアール! 夏休みは色々と計画があるんだ!」
計画なんて何もない。トーレの予定はバイトとデートで占められていたが、どうにかするしかない。誰もトーレの事を責めたりはしないが、自分が耐えられない。
「…会えない時間が想いを育てることもある。…一旦距離を置くのも戦略の一つ」
すかさずアミも加勢。
「一理あるが、しかし……」
「アール。……もし僕とシェリに年齢差があったら、同じ事をしたと思う」
「そうなのか?」
「今しかできないことを彼女に経験して欲しい。その為に自分が足枷になるなら、身を引くよ。フォンスさんの心遣いを無駄にしちゃいけない。今お前がすべきは、彼の提案を素直に受け入れることだ」
フォンスがこの幼馴染から逃げ切ることができるとは思えないが、束の間の時間稼ぎだろうとトーレは力になるつもりだ。
=========
燦々と輝く太陽。
気温は高いが、カラッとしているので過ごし易い。
俺は今、海辺のカフェ・アベルでバイトしている。
「フォンさんマジパネェ。初日からドリンクもフードもチョッパヤパーペキだわ」
「マジ助かりまくりンゴ」
手を止める事なく会話する彼等は、俺の雇い主だ。
パルトとネルはこのカフェの共同経営者であり、キッチン担当だ。
*
アウクトルとは別の意味でアーヴォ夫妻は手強かった。
彼等の脳内には、俺とアウクトルが両想いという強烈なフィルターがかかっている。
しかも四天王が俺たちの子供というのは本当の話だからタチが悪い。
順序立てて説明しようとしても、二人とも天然なので直ぐに話が逸れる。逸れるだけならまだしも、孫フィーバー状態に入ってしまった彼等は妙な方向へ話が膨らむ。
今朝メールは、開館時間になるなり図書館へ行った。四天王の家系図を閲覧して、孫の総数を把握する為だ。
本気でお年玉貯金するつもりらしい。
*
昨夜アウクトル本人とも話したのだが、何だか話が噛み合わなかった。
よくよく考えると、俺が最後に話したアウクトルは1000年前の魔王。
今の彼はあれから1000年経った存在。
いくら魔王本体と分体が同一精神とはいえ、速やかに意思疎通するのは難しいのかもしれない。
あのまま家にいたら、二世帯住宅計画が進みそうだったので俺は逃げることにした。
*
アウクトルの登校と同時に行動開始。
時間との勝負だ。
メールをうまく言い包め、カフェで速攻荷造り。
異世界転移時のようにあれこれ持っていく余裕はないので、当面必要なものだけを<収納空間>へ放り込んだ。
暫く顔を出せないので、オニキスのところへ行って挨拶がてら過去で採取した素材を置いてきた。是非とも何か面白い物を作って欲しい。
逃亡先としてバカンスシーズンのリゾート地を選んだ。あのような場所であれば、住み込みの求人が満載な筈。
俺は迷うことなく、魔界一のビーチ・ザントへ全力ダッシュした。
告白相手が曽祖父だったなんて、彼女が恋愛にトラウマを抱えないか心配だ。
「…アール。ちょっと色々ついて行けない。僕たちが理解できるように説明してくれ」
四天王が魔王から生まれた事は有名だが、そこにフォンスが出てきたのがわからない。
彼とは昨日の昼に会ったきりだが、アウクトルとどうこうなる様子は一切無かった。
*
話が進むにつれて、どんどん女性陣の顔色が悪くなる。男のトーレよりも、想像の重みが違うからかもしれない。
特にアミが酷い。立っていられず、今は椅子に座り込んでいる。
元々感受性が高い上に、彼女はアウクトルに特別な感情を抱いていた。彼女も恋愛にトラウマを抱えかねない。
シューラと違い生々しい話をアウクトル本人から聞かされたのだ。本気でプロによる心のケアが必要かもしれない。
「……それってつまり、監禁して出産強要したってことだよな」
改めて口に出すと、悍ましい以外の何物でもない。
両想いだろうと、片想いだろうと普通にアウトだ。
シューラに続き、トーレも気絶したくなった。
トーレが余計な事をするまでは、ストーキングの範囲に留まっていたのだ。それが正義感で介入した結果、幼馴染は相手に直接危害を加えてしまった。
「違います! 罪を犯す者が悪いんです! 自分を責めるのは違います!」
恋人の変化に気づいたシェリがトーレを抱きしめた。
「話の流れがわからぬが、背負いこむなよ。お前は色々と気にしすぎる」
誰の所為だよ。お前は気にしろ。
*
「あーくんお帰りなさい。あらっトーレ君と、アミちゃんも来てくれたのね。いらっしゃい~」
「お邪魔します」
「こんにちは…」
ジュメリ姉妹は早退した。
色んな意味で傷心の姉を見かねたシェリが、シューラを連れ帰った。
フォンスの精神状態が心配で、トーレとアミはアーヴォ家へ来たのだ。
「あの…フォンスさんは……?」
「あ、そうそう! あーくんに、フォン君から伝言」
昨日なし崩し的にアーヴォ家に宿泊したフォンス。勿論客室を使用し、アウクトルの部屋に直結する扉の形成は断固拒否した。
何度も誤解を訂正しようとしたのだが、どんどん良くない方向に流れていった。誰にとって良くないかというとフォンスにのみ。
アーヴォ夫婦をゼロベースに戻すことは不可能と悟った彼は、別の方向に舵を切った。
「明日から夏休みだから、お店閉めて出稼ぎに行くそうよ」
休み時間にシェリにアウクトルを見張ってもらい、トーレはカフェ・ミルヒへ行ったが閉まっていたのはそういう事か。
「一緒にいたらあーくんは、フォン君の事を気にするだろうから距離を置くんですって」
「距離を置く」という言葉にアウクトルから軽く魔力が漏れた。
「『一生に一度の学生生活なんだから、自分の事は気にせず友達と過ごして欲しい』って言ってたわ。理解のある旦那さんねーーあれ、お婿さん? もう、どう言ったらいいのか困っちゃうわ」
困ったという割に、メールは嬉しそうだ。
彼女は彼らの関係を好意的に受け入れているらしい。
「「……」」
トーレとアミは、何となくフォンスの意図に気づいてしまった。
「それと『普通の生徒として、青春満喫して欲しいから内縁の事は公表しないで欲しい』ですって」
あ。やっぱり。
逃げたな。
かろうじて声に出さなかったが、二人は速やかに事態を理解した。
*
長年の付き合いの賜物で、トーレの動きは早かった。
「そうだよアール! 夏休みは色々と計画があるんだ!」
計画なんて何もない。トーレの予定はバイトとデートで占められていたが、どうにかするしかない。誰もトーレの事を責めたりはしないが、自分が耐えられない。
「…会えない時間が想いを育てることもある。…一旦距離を置くのも戦略の一つ」
すかさずアミも加勢。
「一理あるが、しかし……」
「アール。……もし僕とシェリに年齢差があったら、同じ事をしたと思う」
「そうなのか?」
「今しかできないことを彼女に経験して欲しい。その為に自分が足枷になるなら、身を引くよ。フォンスさんの心遣いを無駄にしちゃいけない。今お前がすべきは、彼の提案を素直に受け入れることだ」
フォンスがこの幼馴染から逃げ切ることができるとは思えないが、束の間の時間稼ぎだろうとトーレは力になるつもりだ。
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燦々と輝く太陽。
気温は高いが、カラッとしているので過ごし易い。
俺は今、海辺のカフェ・アベルでバイトしている。
「フォンさんマジパネェ。初日からドリンクもフードもチョッパヤパーペキだわ」
「マジ助かりまくりンゴ」
手を止める事なく会話する彼等は、俺の雇い主だ。
パルトとネルはこのカフェの共同経営者であり、キッチン担当だ。
*
アウクトルとは別の意味でアーヴォ夫妻は手強かった。
彼等の脳内には、俺とアウクトルが両想いという強烈なフィルターがかかっている。
しかも四天王が俺たちの子供というのは本当の話だからタチが悪い。
順序立てて説明しようとしても、二人とも天然なので直ぐに話が逸れる。逸れるだけならまだしも、孫フィーバー状態に入ってしまった彼等は妙な方向へ話が膨らむ。
今朝メールは、開館時間になるなり図書館へ行った。四天王の家系図を閲覧して、孫の総数を把握する為だ。
本気でお年玉貯金するつもりらしい。
*
昨夜アウクトル本人とも話したのだが、何だか話が噛み合わなかった。
よくよく考えると、俺が最後に話したアウクトルは1000年前の魔王。
今の彼はあれから1000年経った存在。
いくら魔王本体と分体が同一精神とはいえ、速やかに意思疎通するのは難しいのかもしれない。
あのまま家にいたら、二世帯住宅計画が進みそうだったので俺は逃げることにした。
*
アウクトルの登校と同時に行動開始。
時間との勝負だ。
メールをうまく言い包め、カフェで速攻荷造り。
異世界転移時のようにあれこれ持っていく余裕はないので、当面必要なものだけを<収納空間>へ放り込んだ。
暫く顔を出せないので、オニキスのところへ行って挨拶がてら過去で採取した素材を置いてきた。是非とも何か面白い物を作って欲しい。
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