魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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元英雄だけど友が欲しい!<蛇足編1>

まるっとお見通しだ

 今日の嫌がらせは海水責めか。

 海で泳いできたのだろう。
 上半身は裸で、下半身は一応履いているもののチャックが全開でビキニパンツがガッツリ見えている。

 フェイスタオルを首にかけてるけど意味がない。
 お前さては温泉で体拭かずに脱衣所に戻るタイプだろ。周りの顰蹙買ってるぞ。

 その状態でカウンターに座られると、ディダートが帰り次第あちこち拭かなければならない。

 海の家仕様なので、それなりに水や汚れに強い素材でできているが、だからと言って何をしても良いわけではない。
 色々な成分の混じった海水だ。放置すれば、変色や腐食の原因になる。

「随分熱い視線だ」
「つい気になって…」

 結構まじまじと見てしまったようだ。

 *

 何でコイツ、ビショビショ状態でスボン履いているんだ?
 何故チャック全開なんだ?

 一度疑問が湧くと次々出てくる。気になってチラチラ見てしまうのは仕方ないと思う。

「ええと…」
「俺が気になって集中できない感じ?」
「そう。それだ」

 何て事だ。今日は海水と謎かけの二段構えの嫌がらせか!
 そもそも泳ぐ前に服の下に水着を着ることはあるが――あ。わかった。コイツ着替え忘れたんだ。

 年甲斐もなくはしゃいで、服の下に水着を来てビーチへ直行。泳いだ後に着替え忘れたことに気づいたに違いない。
 水分を拭っても下に水着を履いていれば股間部分だけズボンが濡れる。全身濡らしたままなのは、それを誤魔化すため!
 チャック全開なのは「俺は泳いできた。だから濡れているのはおかしく無い」アピールなんだな!

「…君が微笑むところを初めて見たよ」
「そうか?」
「そんなに俺に会えて嬉しい?」
「いや別に」

 謎が解けてスッキリしただけだ。

「――飲みに行かないか?」
「突然だな」
「そうでもないさ。初めて会った時から、いつ誘うか考えていた」
「そうなのか」

 これはアレなのか。パルトとネルが言っていた友達作りのワンシーンなのか?

 こいつが俺にちょっかいをかけていたのは、反動形成だったのか!?
 水着の件といい、子供の様な男だな!

「……場所は何処だ?」
「俺が泊まってるホテルのバー。奢るよ」
「行こう」

 相手から声をかけてくれるなんてありがたい。
 それに出稼ぎしているくらいなのだ。奢りは普通に嬉しい。

 =========

「俺はバーに行った事がないんだ」
「本当に?」
「面倒かもしれないが、色々教えてくれるとありがたい」
「いいや。それは光栄だね」

 ディダートが指定したホテルは、俺が泊まっているホテルの隣だった。
 想像以上に格式高い感じだ。ドレスコードとかないだろうな。
 リゾート地ルールなのか、パーカーにハーフパンツの俺だが嫌な顔される事なく入店できた。

 初めてのバーの感想は「何でこんなに薄暗いんだ?」だった。
 間接照明しか灯っていない。

 ピアノの生演奏は凄いと思うが、店のサイズに対してこの音量。結構顔近づけないと会話するの難しくないか?
 もしかして会話せず、演奏聴きながら飲酒するだけなのか?
 これでは退勤時に、パルトに教えてもらったテクニック「飲み会はジャンジャン話して盛り上がれ! 次の約束は自然とできる!」が実行できない。

「随分緊張してるね」
「ちょっと思ってたのと違って……」
「どんなの想像してたんだい?」
「こう。…もっとカジュアルなものを」
「ここは充分カジュアルだ。ほら、これでも飲んで肩の力を抜いた方が良い」

 緊張を解そうとしたのか、ディダートは俺の肩を撫でた。

 *

 注文していないのに飲み物が来た。
 よくわからないシステムの店だな。

「随分綺麗だな……甘い」

 グラスの口がキラキラしていて、中の液体が二色のグラデーションを描いている。
 気になって鑑定スキルを使用すると、キラキラの正体は塩だった。

「甘いのは嫌かい?」
「いや、好きだな。これも美味しいと思う」
「ジュースみたいだけど結構強いんだぜ。君結構イケる口?」
「酔った事がない。まあ、飲酒の機会があまりなかったんだけど」
「そうかい。じゃあ、今日は酔わせてみたいね」

 それは無理な話だ。肉体に害になるものは、飲んだ端から高速で分解するからな。

 奢ってくれるんだ。もしディダートが潰れたら俺が介抱してやろう。

 当たり障りのない範囲だけど、案外会話が続く。これならいけるかもしれない。

 *

「おいおい、そんなに飲んで大丈夫か?」

 バーというのは、本当に飲むのがメインの店らしく、フードメニューが貧弱だった。
 チーズかナッツだけって……

「すまない。美味しくてつい」
「……本当に強いんだな。足に来てない?」

 確かめるように腿から膝にかけて撫でられた。

「大丈夫だ。ディダートはあまり飲まないんだな」
「フィーがおかしいだけ」
「そうなのか……」
「次で終わりにしておきな。立てなかったら、俺の部屋で休んでいけば良い」

 反省した俺の元に新しいグラスが置かれる。
 カクテルは色々な食材を使っているので面白い。鑑定スキルで材料を確認した俺は固まった。

 何か凄くケミカルな物が入ってる。

 ……ベンゾジアゼピン骨格。

 これ睡眠導入剤じゃないか。

 何でこんな物が混入しているんだ?
 自然に入るわけがないよな?

 昼間の閃き再びで、俺は気づいてしまった。
 店側が勝手に客に薬を盛る事はない。
 ということは、消去法でこれはディダートの仕業だ。

 *

 何故彼がこんなことをしたかというと、マナー知らずの俺がグビグビ飲んだから強制的にストップかけさせるために違いない。
 入店前に「高そうだ」と思ったのに、すっかり失念していた。
 ディダートは自分から奢ると言った手前、言い出しにくかったんだな。
 きっと彼もこんな事をするのは不本意だったに違いない。

 きっとバーというのは、カフェと同じ。1~2杯を時間をかけてチビチビ飲む店なんだ。
 カフェインが効かない体質だからと、カフェ・ミルヒでアイスコーヒー5杯も6杯もガブ飲みされたら、俺だって眉を顰める。
 バーテンや周囲の客が俺のことをチラチラ気にしていたのは、そういう事だったんだな!

 慣れてないとは言え、二重の失態。
 やってしまった、恥ずかしい。

「大丈夫かい? 随分顔が赤いぜ」
「ちょっと…思う所があって……」

 気遣いが心苦しい。ここはさっさと退店すべきだ。
 俺は最後の1杯を素早く飲み干した。

「ありがとう。楽しかった」

 本当にごめん。
 マイナスよりもプラスの言葉で締めた方が良いだろう。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 しっかりした足取りで退店モードになった俺を制止する様に、ディダートが立ち上がる。
 ガンッ、と大きな音がして彼は蹲った。

「もしかして足ぶつけたのか? 酔ったなら部屋まで送るぞ」

 俺は酔った事がないが、先程足にくると聞いたばかりだ。

「…あ…ああ、そうみたいだ。お願いしても良いかな」

 ディダートは遠慮したのか肩を抱き寄せるだけだったので、俺はちゃんと組み直してやった。

 ちゃんと支えてやるから、全力で寄りかかって良いんだぞ。
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