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元英雄だけど友が欲しい!<蛇足編1>
君の名は
「フィン君!?」
旅行先で知り合いに会う確率というのは如何程のものなのか。
エレベーター待ちしていた俺たちの元へ、男が一人駆けてきた。
「こんなところで会うとは思わなかった。いつもの仕事か?」
カフェの常連客だ。
名前聞き流してしまったので、俺は未だに彼のことを何と呼んで良いのかわからない。仕事中ならネームタグ付けてないかな、と思ったけどそんなものはなかった。
屋内で仕事だったのか、ネクタイとジャケットこそないもののスーツ姿だ。
気温が高いからか、走ってきたからか白金の髪が額に張り付いている。
恐らくバーと同じフロアにあるレストランを利用していたのだろう。
「ええ。もう終わりましたが……フィン君は何故ここに?」
「学園が夏休みに入ったから、この街で働いてる」
「そうでしたか。彼は?」
「酔ったので部屋へ連れて行くところだ」
「……僕も手伝います」
言うな否や俺の反対側に周り、ディダートの腕を取る。
「いやいや。遠慮しとくよ。フィーが支えてくれるから問題ない」
初対面の相手に介抱させることに気が引けるのか、ディダートが断る。
歩けないくらいだから相当酔ってるのかと思ったが、随分滑舌がはっきりしているし顔色も良い。
「いえいえ。二人で支えた方が安定しますからね。僕もここの宿泊者なので遠慮は不要です」
「ちょっとアンタ――」
ディダートが何か言いかけた時、エレベーターが到着した。
廊下で立ち往生しても邪魔になるので、さっさと乗り込む。
ディダートは最後まで抵抗していたが、両脇を支えている男二人が強行したので捕獲された宇宙人状態になった。
数センチの差だが、身長が常連>ディダート>俺なので、右下がりにスクラム組んでいる様な図だ。
おお、何だか仲良しっぽいな。
*
ディダートの部屋はダブルだった。
同室の人間の気配はない。一人でダブルとは羽振りが良くて羨ましい。
常連の彼が水差しを用意している間に、ベッドで寝ているディダートに引き寄せられた。
「今回は邪魔が入ったが、また誘っても良いかい?」
「もち「フィン君!!」」
俺の了承に被せるように、常連が声を上げた。
「何かあったのか?」
「えっと…水用意できたのでお暇しましょう! 僕たちが部屋にいては彼も休めません」
「そうだな。じゃあまた」
「……ありがとう。親切なお兄さん」
常連に礼を言う時のディダートから剣呑な雰囲気を感じたが、きっと気のせいだな。
俺たちは彼の部屋を後にした。
*
「……僕は邪魔でしたか?」
「そんな事はない。ありがとう、助かった」
「今の彼とはその…」
「海の店の常連客だ。飲みに誘われたんだ」
「……フィン君は、お客さんと出掛けたりするんですか?」
「今の店はその辺融通が効くんだ。誘われたのは今回が初めてだ」
「…じゃあ。僕が誘っても来てくれますか?」
「ああ。どこか行きたい場所があるのか?」
騎士時代の俺と同じように、彼も彼方此方へ飛び回っている。もしかした俺たちは、ぼっち仲間かもしれない。
俺の返答が意外だったのか、常連が狼狽えだした。特に行きたい場所があったわけではないようだ。
「最近だとサウナが流行らしいぞ」
飲み会は今終わったからな。
「フィン君お酒飲んだんじゃ?」
「ノンアルコールだ。酔っている様に見えるか?」
アルコール分解済と主張しても面倒なことになるので、手間を省いた。これは優しい嘘というヤツだ。
「僕も下戸なんです。同じですね」
ここで同意したら、優しくも何ともない只の嘘つきだ。
嬉しそうな彼には申し訳ないが、飲酒可能な事は正直に伝えた。
*
このホテルの最上階には、サウナ併設の大浴場がある。
宿泊客には1泊毎にチケットが渡されるらしいのだが、常連客は昨日入りそびれた為1枚余っているらしい。
「部屋で仕事片付けていたら、入浴可能時間終わっちゃったんです」
「根を詰めすぎじゃないか?」
「集中すると、時間が経つのがあっという間で……」
身長は高いが、彼は色白インテリ系なので体力が無さそうだ。
「……調子悪くなったら直ぐに言ってくれ」
自分で誘っておいて何だが、サウナ大丈夫なのか?
俺の肉体は瞬時に環境に適応する。
ととのいを体験することができない反面、何セット繰り返そうが体調不良にもならない。
俺の認識しているサウナは、交感神経や血管に負担を加える危険な遊びだ。
寝不足な彼のためにもサウナ内、水風呂から見える位置、外気浴スポットの3ヶ所全てに時計が欲しいところだ。
*
ホテルのサウナは真っ白で幻想的な空間だった。
氷の洞窟を彷彿とさせるが、ドライサウナなので熱気がすごい。
中に入った俺は真っ先に時計を探した。砂時計でも何でも良いから、時間を測れる物が欲しい。しかしこのお洒落サウナには、時間を示すものが一切なかった。
おいおい。デザインにこだわる前に、安全に使用できるよう配慮すべきじゃないのか。
俺は何時間入っても平気だ。故に体の感覚に頼ってサウナの退出時間を決めることができない。
さり気なく連れの様子を伺い、利用時間を決めるしかない。
「フィン君?」
「ええと…その……」
サウナで会話はご法度だが、今は俺たちしか利用者がいない。
不自然にならないように心掛けていたのだが、視線に気づかれてしまったようだ。彼は結構敏感なのかもしれない。
「その…あんたは俺のこと愛称で呼ぶだろ? 俺はどう呼べば良い?」
咄嗟の言い訳だが、案外良いこと言ったかもしれない。
今更名前を教えてくれじゃなくて、愛称を教えてくれなら気分を害することもないだろう。
「…もしかしてずっと気にしてました?」
「ああ。俺自身、愛称で呼ばれる機会が少なかったし…俺が愛称で呼んだことがあるのは故郷の幼馴染だけだったから。……勝手が分からなかった」
「ずっと名前呼んでくれないから、僕はてっきり…」
「すまない。慣れてなくて……どうやって距離を詰めたら良いのか分からないんだ」
「……リヴィ」
か細い声が返ってきた。
彼を見上げると、顔が赤く潤んだ目をーーおい、これヤバくないか!?
「大丈夫か!? 真っ赤だぞ!!」
「え?」
ディダートと違い彼は裸足だ。肩を貸して自力で歩かせたら、何処かに足をぶつけて流血する恐れがある。
「フィン君!?」
「大丈夫だから。捕まってろ!」
俺は迷わず担ぎ上げた。
この方法が一番手っ取り早い。
*
急いで外気浴スペースへ連れて行き、ベンチへ寝かした。
「リヴィ。気分はどうだ?」
今後は彼に会う度、名前を気にしてモヤモヤしなくて済む。
しかも一緒に遊びに行き、愛称呼びをしたんだ。もうこれ友達じゃないか?
思わず顔が綻ぶ。
「ズルい…」
しまった。軽々担いだ事で、彼の貧弱さを突き付けてしまったか!?
「そ、そういうつもりじゃないんだ。嫌わないで欲しいリヴィ!」
折角できた友達をここで逃したくない!
「――っ! そういう所ですよもう!」
手で顔を隠して、思いっきり背を向けられた。
ダメらしい。
旅行先で知り合いに会う確率というのは如何程のものなのか。
エレベーター待ちしていた俺たちの元へ、男が一人駆けてきた。
「こんなところで会うとは思わなかった。いつもの仕事か?」
カフェの常連客だ。
名前聞き流してしまったので、俺は未だに彼のことを何と呼んで良いのかわからない。仕事中ならネームタグ付けてないかな、と思ったけどそんなものはなかった。
屋内で仕事だったのか、ネクタイとジャケットこそないもののスーツ姿だ。
気温が高いからか、走ってきたからか白金の髪が額に張り付いている。
恐らくバーと同じフロアにあるレストランを利用していたのだろう。
「ええ。もう終わりましたが……フィン君は何故ここに?」
「学園が夏休みに入ったから、この街で働いてる」
「そうでしたか。彼は?」
「酔ったので部屋へ連れて行くところだ」
「……僕も手伝います」
言うな否や俺の反対側に周り、ディダートの腕を取る。
「いやいや。遠慮しとくよ。フィーが支えてくれるから問題ない」
初対面の相手に介抱させることに気が引けるのか、ディダートが断る。
歩けないくらいだから相当酔ってるのかと思ったが、随分滑舌がはっきりしているし顔色も良い。
「いえいえ。二人で支えた方が安定しますからね。僕もここの宿泊者なので遠慮は不要です」
「ちょっとアンタ――」
ディダートが何か言いかけた時、エレベーターが到着した。
廊下で立ち往生しても邪魔になるので、さっさと乗り込む。
ディダートは最後まで抵抗していたが、両脇を支えている男二人が強行したので捕獲された宇宙人状態になった。
数センチの差だが、身長が常連>ディダート>俺なので、右下がりにスクラム組んでいる様な図だ。
おお、何だか仲良しっぽいな。
*
ディダートの部屋はダブルだった。
同室の人間の気配はない。一人でダブルとは羽振りが良くて羨ましい。
常連の彼が水差しを用意している間に、ベッドで寝ているディダートに引き寄せられた。
「今回は邪魔が入ったが、また誘っても良いかい?」
「もち「フィン君!!」」
俺の了承に被せるように、常連が声を上げた。
「何かあったのか?」
「えっと…水用意できたのでお暇しましょう! 僕たちが部屋にいては彼も休めません」
「そうだな。じゃあまた」
「……ありがとう。親切なお兄さん」
常連に礼を言う時のディダートから剣呑な雰囲気を感じたが、きっと気のせいだな。
俺たちは彼の部屋を後にした。
*
「……僕は邪魔でしたか?」
「そんな事はない。ありがとう、助かった」
「今の彼とはその…」
「海の店の常連客だ。飲みに誘われたんだ」
「……フィン君は、お客さんと出掛けたりするんですか?」
「今の店はその辺融通が効くんだ。誘われたのは今回が初めてだ」
「…じゃあ。僕が誘っても来てくれますか?」
「ああ。どこか行きたい場所があるのか?」
騎士時代の俺と同じように、彼も彼方此方へ飛び回っている。もしかした俺たちは、ぼっち仲間かもしれない。
俺の返答が意外だったのか、常連が狼狽えだした。特に行きたい場所があったわけではないようだ。
「最近だとサウナが流行らしいぞ」
飲み会は今終わったからな。
「フィン君お酒飲んだんじゃ?」
「ノンアルコールだ。酔っている様に見えるか?」
アルコール分解済と主張しても面倒なことになるので、手間を省いた。これは優しい嘘というヤツだ。
「僕も下戸なんです。同じですね」
ここで同意したら、優しくも何ともない只の嘘つきだ。
嬉しそうな彼には申し訳ないが、飲酒可能な事は正直に伝えた。
*
このホテルの最上階には、サウナ併設の大浴場がある。
宿泊客には1泊毎にチケットが渡されるらしいのだが、常連客は昨日入りそびれた為1枚余っているらしい。
「部屋で仕事片付けていたら、入浴可能時間終わっちゃったんです」
「根を詰めすぎじゃないか?」
「集中すると、時間が経つのがあっという間で……」
身長は高いが、彼は色白インテリ系なので体力が無さそうだ。
「……調子悪くなったら直ぐに言ってくれ」
自分で誘っておいて何だが、サウナ大丈夫なのか?
俺の肉体は瞬時に環境に適応する。
ととのいを体験することができない反面、何セット繰り返そうが体調不良にもならない。
俺の認識しているサウナは、交感神経や血管に負担を加える危険な遊びだ。
寝不足な彼のためにもサウナ内、水風呂から見える位置、外気浴スポットの3ヶ所全てに時計が欲しいところだ。
*
ホテルのサウナは真っ白で幻想的な空間だった。
氷の洞窟を彷彿とさせるが、ドライサウナなので熱気がすごい。
中に入った俺は真っ先に時計を探した。砂時計でも何でも良いから、時間を測れる物が欲しい。しかしこのお洒落サウナには、時間を示すものが一切なかった。
おいおい。デザインにこだわる前に、安全に使用できるよう配慮すべきじゃないのか。
俺は何時間入っても平気だ。故に体の感覚に頼ってサウナの退出時間を決めることができない。
さり気なく連れの様子を伺い、利用時間を決めるしかない。
「フィン君?」
「ええと…その……」
サウナで会話はご法度だが、今は俺たちしか利用者がいない。
不自然にならないように心掛けていたのだが、視線に気づかれてしまったようだ。彼は結構敏感なのかもしれない。
「その…あんたは俺のこと愛称で呼ぶだろ? 俺はどう呼べば良い?」
咄嗟の言い訳だが、案外良いこと言ったかもしれない。
今更名前を教えてくれじゃなくて、愛称を教えてくれなら気分を害することもないだろう。
「…もしかしてずっと気にしてました?」
「ああ。俺自身、愛称で呼ばれる機会が少なかったし…俺が愛称で呼んだことがあるのは故郷の幼馴染だけだったから。……勝手が分からなかった」
「ずっと名前呼んでくれないから、僕はてっきり…」
「すまない。慣れてなくて……どうやって距離を詰めたら良いのか分からないんだ」
「……リヴィ」
か細い声が返ってきた。
彼を見上げると、顔が赤く潤んだ目をーーおい、これヤバくないか!?
「大丈夫か!? 真っ赤だぞ!!」
「え?」
ディダートと違い彼は裸足だ。肩を貸して自力で歩かせたら、何処かに足をぶつけて流血する恐れがある。
「フィン君!?」
「大丈夫だから。捕まってろ!」
俺は迷わず担ぎ上げた。
この方法が一番手っ取り早い。
*
急いで外気浴スペースへ連れて行き、ベンチへ寝かした。
「リヴィ。気分はどうだ?」
今後は彼に会う度、名前を気にしてモヤモヤしなくて済む。
しかも一緒に遊びに行き、愛称呼びをしたんだ。もうこれ友達じゃないか?
思わず顔が綻ぶ。
「ズルい…」
しまった。軽々担いだ事で、彼の貧弱さを突き付けてしまったか!?
「そ、そういうつもりじゃないんだ。嫌わないで欲しいリヴィ!」
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ダメらしい。
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