魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

文字の大きさ
65 / 84
イチャイチャバイオレンス<蛇足編2>

宴もたけなわ

 地獄の合コンはまだ続くらしい。
 いやもうこれ合コンだろ。ミッションというか、普通に嫌がらせだよ。

 次は執事ゲームだった。
 参加者達が命令を書き、抽選箱に入れる。立候補した執事役が一枚紙を抜き、書かれた命令を読み上げる。
 虚偽の申告や、命令拒否した者は殺される。

 匿名なので過激な内容も書ける。

 漸く相手の狙いが分かりそうだ。

 *

「最初の執事役に立候補する」

 自分とアウクトルの番号を確認した俺は、いの一番に挙手した。
 戸惑う参加者達を無視して、抽選箱の前に立つ。犯人に止められる前に、箱から紙を取り出した。

「……7番が10番の頭を叩く」

 俺が読み上げると小さく動揺が広がる。
 今驚いた者、慌てて自分の番号を確認したものは全員犯人とグルだ。
 彼らが驚いたのは、箱に入っている命令と違う内容を俺が口にしたから。

 何も知らない参加者であれば、今の命令は別に驚くべきことではない。
 番号だって、命令を読まれる前に確認するはずだ。
 ディダートはシロだが、カヴァリエはクロだ。

 *

 俺にペナルティー判定がされていないのは、極少数の無関係な参加者が書いた紙を低確率で引いた可能性があるから。

 ポリグラフの精度は80%だが、生体反応で判断している。
 監視カメラの画像差し替えのように、平常時の自分の生体反応を記憶して再現すれば短時間なら誤魔化せる。
 普通の人間には無理だが、俺なら可能だ。

 青年に叩かれたナイスミドルの頭から鬘が落ちるのを視界の端に捉えながら自分の席へ戻る。

 *

 第二のミッション終了後、俺とアウクトルは短時間だが会話のチャンスを得た。

 待機時間中、アウクトルは魔界全域に千里眼を使用して犯人を特定した。
 第一のミッション時の彼のアドリブに対する反応で、犯人がリアルタイムで会場を視聴しているのが確定したので、捜索は容易だったという。簡単に言うが、全世界しらみ潰しにしたって事だ。やばいなアイツ。

 俺が手の中で握りつぶした紙には「30番が25番に対して愛していると言う」と書かれている。

 即ち俺(30番)が、アウクトル(25番)に愛していると言う。

 犯人は分かったが、これだけでは本当の狙いがわからない。

 居場所が特定できた今、直接締め上げるのもありだが、もう少し様子をみよう。

 *

「9番が30番に質問をする。質問は耳打ちで構わないが、回答は全員に聞こえるように行う」

 30番は俺だ。アウクトルが狙いではないのか。
 近付いて来た男性が俺に耳打ちした。


「貴方は何故、我々を――魔王様を見棄てたのですか?」


 見誤っていた。
 今回のターゲットは分体ではなく俺ーー魔王妃だ。
 ネルが俺を騙したとは考え難い。父親はどうかわからないが、彼は利用されただけだろう。

「最初からその契約だった。契約内容を完遂したので、あるべき場所に戻った。……君達には半端な事をした。すまない」

 固唾を飲んで俺を見つめる者達を見回す。
 彼らは魔王城や、グレンツ領で俺と関わった者達だ。髪型や服装が当時とだいぶ違うので気付かなかった。

「15番が右隣の人物に質問する。質問も回答も全員に聞こえるように行う事」

 俺の隣に座っていた女性が立ち上がる。


「貴方にとって魔王様は、どのような存在なのですか?」


 方法は分からないが、彼等は俺が魔王妃だと知ったのだ。
 魔王のフォローが下手だったのか、俺は彼を捨てた扱いになっている。
 有責カウンターが足りなかった!

 第一、第二のミッションは魔王妃の貞淑さを試したのだろう。
 そして今、求められているのは誠実さ。

「今も昔もパートナーだと思っている。信頼関係がなければ、そもそも契約を受け入れたりはしない」

 これが俺のできる精一杯の回答だ。ポリグラフの偽装は行わない。

 *

「貴方にとって魔王様と分体は同じなのですか?」
「今も眠り続けるあの御方の事をどう思っているのですか?」
「あんなに仲睦まじかったというのに、そんなに簡単に切り替えられるものなのですか?」

 興奮のあまり取り繕うのを辞めたのだろう。
 次々に立ち上がり、長年秘めていた疑問を俺にぶつけてくる。

「魔王本人から、本体と分体の精神が常時同一であると聞いている。俺にとっては同じだ」
「体は眠っているが、彼の精神はここにいる。俺にとっては、精神の在処が重要だ」
「切り替えられる」

 聞き取れた範囲の問いには答えた。

 *

「……お前達の気は済んだか?」

 椅子に座ったままアウクトルが会場を睥睨する。
 否定派とは言わないが、この会場にいる者達は分体に対し肯定的ではない。
 そんな彼等に対して、俺ははっきりと「魔王本体と分体の精神はひとつ」と伝えた。
 今までの信条と、与えられたばかりの情報で彼等のアウクトルに対する態度が揺らぐ。

「カヴァリエ。お前はどうだ?」

 名指しされたカヴァリエは顔を強ばらせたまま動かない。
 魔王の命令は絶対というが、それでも彼は必死に抵抗している。
 隠れている犯人と、カヴァリエの関係を考えると場所を移したほうが良さそうだ。

 転移の直前、俺は彼等に一言告げた。

「聞きたいことがあるなら、直接来い。可能な限り答える」

 =========

 カヴァリエの生は、魔王城の謁見室から始まった。
 同時に誕生した四天王と横並びになり、玉座の魔王と対峙したのが最も古い記憶。
 目の前の偉大な存在への畏敬の念と共に、彼の退廃した雰囲気に胸が締め付けられた。

 魔王は四天王それぞれに命令を下すと、その場で大規模魔術を発動した。
 一刻も早く眠りにつきたいと言わんばかりに。

 *

 魔王に代わり、自分達が治めることになった魔王城の雰囲気はどこか陰鬱だった。
 何かがあったのは間違いないのだが、誰もそのことに触れない。
 問いかけても誰も語ろうとしない。
 徹底した黙秘に、魔王が命令したのであろうと直ぐに察しがついた。

 生まれたばかりで大役を押し付けられ、魔族だけの世界という急激な環境変化で四天王も他の者達も目先の問題に急き立てられる日々だった。
 忙しさに我を忘れそうになりながらも、カヴァリエの胸には疑問が巣食い続けていた。
 自分達が生まれる前に何かがあり、魔王があのような状態になってしまった。
 何があったかは、魔王自身が覆い隠してしまった。

 *

 初めて分体と相対した時。
 魔王の魂がその身に宿っていることを感じ取り歓喜する本能とは裏腹に、カヴァリエの理性がアウクトル・アーヴォが魔王であることを否定した。

 強い意志を感じさせる瞳、鮮烈な魔力、威風堂々とした態度。眠りにつく直前の魔王本人とはあまりに違いすぎる。
 別物だと思うと同時に、何も知らずに生きる分体が憎らしかった。
 立場上、中立派にならざるを得なかったが、カヴァリエは分体の近況を耳にする度腹立たしく思っていた。

 *

 カヴァリエにとって魔王とは、憂いを帯びた瞳の彼の方のみ。
 吹聴した覚えはないが、どこかで漏らしてしまったのだろう。

 ある日、彼にグレンツの一族が接近してきた。
 口止めされているが、それとなく情報を伝える手段はいくつもある。
 時間をかけてカヴァリエは1000年前何があったのか知った。

 グレンツの民は、突然消えた魔王妃の事を知りたがっていた。その足がかりとしてカヴァリエを選んだ。
 当時彼等は魔王妃の消失を認めなかった。次に彼女は魔族を見棄てたと憤った。時間をかけて悲嘆は祈りに変わり、やがて魔王妃の居ない魔界を受け入れざるを得なくなった。
 今は少しでもその足跡を知り、幸せな記憶を抱きしめて守りたいと思っている。

 *

 先日、分体の記憶の封印が解かれ魔王妃の正体が明らかになった。
 他の四天王達は単純に喜んでいたし、無事自分達が誕生できたことはありがたく思っている。

 だがカヴァリエの憂鬱は一層増した。

 自ら記憶を封じる程、魔王を追い詰めておきながら無自覚なフォンス。
 本体があんなに苦しんでいるというのに、自分だけ幸せそうな毎日を送る分体。

 到底許せなかった。

 その本性を、心境を確かめたい。
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

引きこもり魔法使いが魔法に失敗したら、ヤンデレ補佐官が釣れた。

零壱
BL
──魔法に失敗したら、脳内お花畑になりました。 問題や事件は何も起こらない。 だが、それがいい。 可愛いは正義、可愛いは癒し。 幼児化する主人公、振り回されるヤンデレ。 お師匠やお師匠の補佐官も巻き込み、時には罪のない?第三者も巻き込み、主人公の世界だけ薔薇色・平和が保たれる。 ラブコメです。 なんも考えず勢いで読んでください。 表題作、2話、3話、5話、6話再掲です。 4話(噂の王子視点)と、師匠×トーリの馴れ初め番外編は同人誌に掲載(シリアスなので) 他サイトにも再掲しています。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

【完結】逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。