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ようこそ実力主義のグランピングへ<蛇足編3>
そうだ新婚旅行へ行こう
「ふむ……」
複数のモニターを前にし、椅子に腰掛けたアウクトルは両手の指を合わせ思案顔だ。
彼の脇には、証人達が直立不動で並んでいる。
先日の騒動における第二のミッション中、アウクトルは犯人の捜索に魔眼を使用していたのでフォンスの状態は把握していなかった。
別グループだったので、彼が代表者に選ばれたことを知り得なかった事、彼であれば自分の身を守ることは容易との確信があった事で、特にフォンスに注意を向けていなかったのだ。
後日、第二のミッション中のフォンスの挙動を確認したが、結果は非常に満足のいくものだった。
チョーカーのデータは彼ならば偽装可能なので信用に値しないが、アミの解説は信頼性が高い。フォンスは彼女がモニタリングしていることを把握していなかったので、感情の隠匿に関しては無防備だった筈。
ミッションの相手役としてフォンスと引き合わされたのは、老若男女様々に条件を変えているが共通しているのが容姿に優れている者。誘惑や命令など、指令を実行するように各々働きかけたが、フォンスは揺らぐ事なく拒否した。
アミの見立てでは時間の経過と共にフォンスは徐々に焦り、不安を抱えた。しかし、アウクトルが入室した直後にその感情は歓喜、安堵へと劇的に変化した。
彼が迷う事なくアウクトルにキスして退出した事は、アウクトル自身も覚えている。
フォンスが一途であることは無事証明された。
信じるということは盲目になることではない、確認すべきことはきちんと把握すべきだ。
以前のような監視はしないが、今後も気になる事があれば徹底追求するつもりだ。
*
過去で過ごした日々の影響か、アウクトルとフォンスの対人距離は近い。
長年連れ添った夫婦のような空気には満足している。
しかし、そうなると物足りない要素が出てくるーーそれは、性的な触れ合いだ。
当初はフォンスが自ら条件解除するのをひたすら待つつもりだったが、アウクトルは元々待つ事が苦手だ。
先日躊躇なくフォンスにキスされた事で、アウクトルの中にある可能性が浮かび上がった。
もしかしたらフォンスは、自分から緩和すると言い出せないのではないか。
彼は交際経験が無い。聞き出した話によると、友好関係も限られている。基本真面目で有言実行な彼の事だ。自分から言い出したことを、撤回する行為に慣れていない可能性が高い。
私的な人付き合いに不得手なフォンスのために、ここはアウクトルから助け舟を出すべきではないか。
タイムリミットがあったため婚姻後は子作りを優先し、帰還後も遠出したことはない。
随分時間が経ってしまったが、新婚旅行は良い機会になる。
いつもと違う環境で二人きりで過ごすというのは名案だ。
うまくいけば条件解消どころか、何の義務感もなく純粋に求め合う形で最後までできるかもしれない。
幸いなことに、お誂え向きの場所を最近見つけたばかりだ。
トーレに相談したら全力で止められただろうが、幸か不幸か今この場に彼はいなかった。
=========
「旅行へ行こう」
「断る」
俺の警戒心を読み取ったのか、アウクトルが補足した。
「純粋に娯楽目的だ。他意はない」
「でも断る」
「……以前の償いをしたい。俺に機会をくれ」
前に旅行と偽って「4人産むまで(未来に)帰れません」を強行した事を反省しているらしい。
確かにあれには腹が立ったが、俺もいい歳だ。過ぎたことをいつまでも引き摺るのもどうかと思うので、ここはアウクトルに汚名返上のチャンスをやるべきか。
「……タイムスリップじゃないだろうな。帰還方法がお前頼りなのは避けたい」
「安心しろ、座標を提示するからお前自身の能力で転移可能だ」
「魔界じゃないのか?」
「並行世界のひとつだ。行き先は、複数の種族が共存する世界の有名な娯楽施設だ」
少し興味が湧いた。
「どんな場所なんだ?」
「街全体が、その巨大娯楽施設に合わせて作られている。施設の内容は、様々なエリアからなるキャンプ場だ」
「へえ、人工のキャンプ場なのか?」
「人工と天然が半々だ。利用料は一律で何泊でも滞在可能。入り口近くは人が多く、逆に奥まった場所は人が少ない――ほぼ貸切状態だ」
一律料金なのは魅力だな。
「人が多いエリアは、常設の店や宿もある。物資の運搬が限られているので、値段は割高だがな。逆に奥まった場所は、己で持ち込んだ荷物で野外活動を行なう必要がある」
その辺は登山のイメージか。山小屋の値段が高いのと同じだな。
「人が多いエリアは便利な代わりにトラブルも多いが、奥まった場所は玄人向けなので揉め事は少ない」
「成る程」
ライト勢はマナー違反者も多いが、ベテランキャンパーはちゃんとしているので民度が高いんだな。
「お前はどちらへ行きたいんだ?」
「無論奥まった方だ。お前の能力を使えば、荷物の重量を気にする必要はない為快適に過ごせるだろう」
「グランピングか。確かに悪くない」
「施設内は破壊しても直ぐに再生するので、周囲を気にする事なく手合わせができる。採取した物も一定時間で再生するので、持ち帰り自由だ」
戦闘行為が好きな訳ではないが、勘が鈍るのは避けたいので遠慮なく体を動かすことができる環境は有難い。
アウクトルという絶好のスパーリング相手がいるなら尚更だ。
人気がないエリアなら周囲の迷惑を考えなくて済むし、環境破壊しても直ぐに再生するなら遠慮は無用だ。
面白い物があれば、オニキスへの土産にできる。
「期間は2泊3日だ。それなら、仕事の休みに行けるだろう」
期間を明言したのは、アウクトルなりの誠意なのだろう。
「そうだな。それならまあ……」
「下調べは済んでいる。お前の休みに合わせるので、どうか承諾してくれ」
「わかった。行こう」
ここまで気を遣わせて断るのは気が引ける。
任務の野営ではない、娯楽としてのキャンプは初めてだし、普通に面白そうだ。
複数のモニターを前にし、椅子に腰掛けたアウクトルは両手の指を合わせ思案顔だ。
彼の脇には、証人達が直立不動で並んでいる。
先日の騒動における第二のミッション中、アウクトルは犯人の捜索に魔眼を使用していたのでフォンスの状態は把握していなかった。
別グループだったので、彼が代表者に選ばれたことを知り得なかった事、彼であれば自分の身を守ることは容易との確信があった事で、特にフォンスに注意を向けていなかったのだ。
後日、第二のミッション中のフォンスの挙動を確認したが、結果は非常に満足のいくものだった。
チョーカーのデータは彼ならば偽装可能なので信用に値しないが、アミの解説は信頼性が高い。フォンスは彼女がモニタリングしていることを把握していなかったので、感情の隠匿に関しては無防備だった筈。
ミッションの相手役としてフォンスと引き合わされたのは、老若男女様々に条件を変えているが共通しているのが容姿に優れている者。誘惑や命令など、指令を実行するように各々働きかけたが、フォンスは揺らぐ事なく拒否した。
アミの見立てでは時間の経過と共にフォンスは徐々に焦り、不安を抱えた。しかし、アウクトルが入室した直後にその感情は歓喜、安堵へと劇的に変化した。
彼が迷う事なくアウクトルにキスして退出した事は、アウクトル自身も覚えている。
フォンスが一途であることは無事証明された。
信じるということは盲目になることではない、確認すべきことはきちんと把握すべきだ。
以前のような監視はしないが、今後も気になる事があれば徹底追求するつもりだ。
*
過去で過ごした日々の影響か、アウクトルとフォンスの対人距離は近い。
長年連れ添った夫婦のような空気には満足している。
しかし、そうなると物足りない要素が出てくるーーそれは、性的な触れ合いだ。
当初はフォンスが自ら条件解除するのをひたすら待つつもりだったが、アウクトルは元々待つ事が苦手だ。
先日躊躇なくフォンスにキスされた事で、アウクトルの中にある可能性が浮かび上がった。
もしかしたらフォンスは、自分から緩和すると言い出せないのではないか。
彼は交際経験が無い。聞き出した話によると、友好関係も限られている。基本真面目で有言実行な彼の事だ。自分から言い出したことを、撤回する行為に慣れていない可能性が高い。
私的な人付き合いに不得手なフォンスのために、ここはアウクトルから助け舟を出すべきではないか。
タイムリミットがあったため婚姻後は子作りを優先し、帰還後も遠出したことはない。
随分時間が経ってしまったが、新婚旅行は良い機会になる。
いつもと違う環境で二人きりで過ごすというのは名案だ。
うまくいけば条件解消どころか、何の義務感もなく純粋に求め合う形で最後までできるかもしれない。
幸いなことに、お誂え向きの場所を最近見つけたばかりだ。
トーレに相談したら全力で止められただろうが、幸か不幸か今この場に彼はいなかった。
=========
「旅行へ行こう」
「断る」
俺の警戒心を読み取ったのか、アウクトルが補足した。
「純粋に娯楽目的だ。他意はない」
「でも断る」
「……以前の償いをしたい。俺に機会をくれ」
前に旅行と偽って「4人産むまで(未来に)帰れません」を強行した事を反省しているらしい。
確かにあれには腹が立ったが、俺もいい歳だ。過ぎたことをいつまでも引き摺るのもどうかと思うので、ここはアウクトルに汚名返上のチャンスをやるべきか。
「……タイムスリップじゃないだろうな。帰還方法がお前頼りなのは避けたい」
「安心しろ、座標を提示するからお前自身の能力で転移可能だ」
「魔界じゃないのか?」
「並行世界のひとつだ。行き先は、複数の種族が共存する世界の有名な娯楽施設だ」
少し興味が湧いた。
「どんな場所なんだ?」
「街全体が、その巨大娯楽施設に合わせて作られている。施設の内容は、様々なエリアからなるキャンプ場だ」
「へえ、人工のキャンプ場なのか?」
「人工と天然が半々だ。利用料は一律で何泊でも滞在可能。入り口近くは人が多く、逆に奥まった場所は人が少ない――ほぼ貸切状態だ」
一律料金なのは魅力だな。
「人が多いエリアは、常設の店や宿もある。物資の運搬が限られているので、値段は割高だがな。逆に奥まった場所は、己で持ち込んだ荷物で野外活動を行なう必要がある」
その辺は登山のイメージか。山小屋の値段が高いのと同じだな。
「人が多いエリアは便利な代わりにトラブルも多いが、奥まった場所は玄人向けなので揉め事は少ない」
「成る程」
ライト勢はマナー違反者も多いが、ベテランキャンパーはちゃんとしているので民度が高いんだな。
「お前はどちらへ行きたいんだ?」
「無論奥まった方だ。お前の能力を使えば、荷物の重量を気にする必要はない為快適に過ごせるだろう」
「グランピングか。確かに悪くない」
「施設内は破壊しても直ぐに再生するので、周囲を気にする事なく手合わせができる。採取した物も一定時間で再生するので、持ち帰り自由だ」
戦闘行為が好きな訳ではないが、勘が鈍るのは避けたいので遠慮なく体を動かすことができる環境は有難い。
アウクトルという絶好のスパーリング相手がいるなら尚更だ。
人気がないエリアなら周囲の迷惑を考えなくて済むし、環境破壊しても直ぐに再生するなら遠慮は無用だ。
面白い物があれば、オニキスへの土産にできる。
「期間は2泊3日だ。それなら、仕事の休みに行けるだろう」
期間を明言したのは、アウクトルなりの誠意なのだろう。
「そうだな。それならまあ……」
「下調べは済んでいる。お前の休みに合わせるので、どうか承諾してくれ」
「わかった。行こう」
ここまで気を遣わせて断るのは気が引ける。
任務の野営ではない、娯楽としてのキャンプは初めてだし、普通に面白そうだ。
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