魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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ようこそ実力主義のグランピングへ<蛇足編3>

仲間というより先輩(後半アウクトルサイド)

 何の脈絡もなく女体化したアウクトル。

 見下ろした彼女の姿は、タイムスリップ時とはまた違った容姿だ。
 以前は二十歳未満の可愛い系、今回は二十代半ばくらいの綺麗系。どちらかと言えば、今回の方が本来のアウクトルの系統に近い。

 期待するように、じっと見つめられるが何を期待しているのか本当に分からない。

「アウクトル。何がしたいんだ?」
「!?」

 俺の言葉に動揺したかと思うと、余程言い出し難いのか視線を彷徨わせ始めた。アウクトルにしては珍しい反応だ。

「教えてくれ。言ってくれないと分からない」
「……手を…出さないのか?」
「出さない。お前の目的は俺が手を出すことか? それはお前に何のメリットがあるんだ?」

 四天王の時はあんなに堂々と宣言していたのに、今のアウクトルはあの時とは真逆だ。ランタンの不安定な灯りに照らされた瞳は、不安そうに揺れている。

「……アウクトル。お前は性同一性障害なのか?」
「違う」
「なら女になる必要はない。お前の精神が女なら今の姿でも構わないが、そうでないなら辞めてくれ」
「でも…お前は…此方の方が手を出しやすいだろ…?」
「お前の性別がどちらでも関係ない。俺に気を遣ったなら逆効果だ」

 男だろうが女だろうが等しく興味ないからな。

 *

「友人の距離感だと約束しただろう? これはどういう事だ?」

 俺の言葉に声を詰まらせたが、やがてアウクトルは小さな声で答えた。

「……お前と最後までしたい」

 この状況で何をと惚けても良いことは何もない。ちゃんと向き合わないと、取り返しのつかないことになる。

「お前は男に抱かれたい願望があるのか?」
「違う……」

 違うのかよ。

「お前の考えていることが知りたい。怒らないから話して欲しい」
「……先に俺を抱かせれば、その後でお前を抱けると思った」

 どんな思考回路だよ。奇想天外過ぎるだろ。

「お前はされたことを返そうとするから……」
「じゃあお前の、本当の目的は俺を抱くことか」
「……」

 この無言は肯定の証だな。

 *

 あのまま女体化を維持されても俺にその気はないので、アウクトルには男に戻ってもらった。
 二人で並んでベッドに腰掛ける。
 ベッドの持ち込みを希望したのは、これが目的だったのか。
 俺は内心で溜息をついた。

 アウクトルは今回は娯楽目的だと断言している。名誉挽回のチャンスで嘘をつく程、彼は愚かではないはずだ。
 そうなると旅行に誘ってから、ベッドの持ち込み希望する迄の間に何かがあった事になる。
 ここ数日間の彼の言動を思い返した時、ひとつ思い当たることがあった。

 *

 トーレとシェリが日帰り旅行へ行ったのだ。
 アウクトルがトーレにもらった土産を持参したので、一緒に食べた記憶がある。

 ……もしかしてその時、二人は一線を越えたのか?
 夏の何とやらで盛り上がって、初体験迎えちゃったのか?
 男同士の話になり、幼馴染が先に大人になったことを知ったアウクトルが焦ったのか!?

 いやいや、アウクトルは既に――違う。過去に飛んだ分体のアウクトルを俺は抱いていない。俺と性交したのは本体であり、分体は新旧共に清い体だ。
 本体と分体の精神が同一でも、分体の肉体は童貞。
 記憶はあるが、体は童貞なのだ。
 童貞童貞連呼してアレだけど、それ以外に言いようが無い。

 *

 先日のテロ擬きで、アウクトルが俺としか経験が無いのは知っている。「俺はお前だけだ」とか、後日訳がわからない申告をしたくらいだ。彼が書いた経験人数の「1」は俺だったんだろう。
 しかしトーレの初体験の話を聞いているうちに、自分は未経験だと気付いてしまったのか!

 焦ったアウクトルは童貞を捨てようと知恵を絞ったのだろう。
 その結果が俺に童貞を捨てさせて、お返しに自分の童貞を捨てる手伝いをさせるという奇天烈な発想になったわけか。
 とんでもないヤツだな!!

「……何となくだが、お前の心境は察しがついた」
「なら――!」
「大事なのは性交そのものではなく、そこに至るまでに育まれる二人の仲だ。何かと比べたり、焦ってすることではない。初めてなら尚更、特別な経験になる。俺はお前に自分を大事にして欲しい。抱くために、我慢して抱かれようなんて金輪際しないでくれ」

 童貞による性教育ほど刺さらない物はないが、取り敢えず一般論を述べておく。
 ちなみに俺は、初めてが女の体だったけど特別な経験だとは思っていない。特異ではあったけどな。
 何度性交しようと、気持ちが伴わなければ何も生まれない。俺とアウクトルが良い例だ。
 マイペース過ぎると俺のようになるので、そこそこの所で良い相手を見つけてくれ。俺以外でな!

「――わかった」

 アウクトルは俺に抱きつくと、そのまま横になった。
 彼にとって俺は童貞仲間だ。慰めるように背中をトントンする。
 俺は一晩彼に寄り添う決心をした――ここで探検に行くから離してくれとは流石に言えない。
 俺は空気が読める男だ。

 =========

 性行為に慣れていないフォンスは、基本的に相手にされたことを返そうとする。
 そこを逆手に取るつもりだった。
 先に自分を抱かせてしまえば、次に彼を抱く流れに出来ると思った。
 タイムスリップ時に彼の童貞を手に入れ損ねた分も回収できるし、男同士の状態で先に自分が彼を抱く事で今後もその関係を押し通すつもりだった。

 女に姿を変えたのは、そちらの方が手を出しやすいだろうと考えたのと同時に、最愛であろうと男の状態で彼に抱かれる自分が想像できなかったからというのが大きい。
 前回の容姿は万人受けするものであったが、彼の反応はイマイチだったので、系統を変えてみた。

 アウクトルの浅知恵は、フォンスには通じなかった。
 そもそも据え膳に手を出さない男だ。
 今回もアウクトルの心の有り様を真っ先に確認して、性別は関係ないと言い切った。
 フォンスにとって大事なのは、アウクトルがアウクトルらしくある事であり、気を遣って己を曲げることは良しとしないのだ。

 フォンスに諭されて気付いた。彼の童貞が欲しいとか、気が付いたら本来の目的とは離れた邪念が混じっていた。
 確かに今回の計画を完遂できれば一時の達成感は得られただろう。

 しかし、それでは以前のどこか満たされない気持ちを抱えていた頃と何も変わらない。
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