魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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ようこそ実力主義のグランピングへ<蛇足編3>

アウト? セーフ?(後半アウクトルサイド)

 冒険者の街と呼ばれるだけあって、ダンジョンを囲むように街づくりされている。
 店は冒険者向けなのか、宿屋、武器屋、夜遅くまでやっている飲食店の割合が多い。
 もちろん普通の青果店や雑貨屋もあるが、比率が全然違う。

 *

 街の観光スポットをいくつか回った後、夕食はラトリーの本拠地でご馳走になった。
 結構大きな屋敷なので、このまま一晩お世話になり、明朝に魔界へ帰る予定だ。

 夕食は元気になったマーセとナリーの手料理だった。
 目を覚ました彼女は血みどろの寝室と、自分の寝巻きが盛大に破れていることに困惑したが、体を蝕んでいた貧血や微熱が消えたことで健康体へ戻った事を悟ったらしい。
 意識が無かったこともあり、アウクトルの大胆な外科手術に文句を言うことなく謝礼を申し出た。

 ダンジョンからの帰還、マーセの治療と活躍したアウクトルだが、彼の機嫌はよろしくなかった。
 当然だ。彼が企画した旅行とあまりにかけ離れている。
 俺も申し訳ないと思いつつ、渡りに船なのであえて彼の不満に気付かないフリをした。

 昨日の今日で二人きりで過ごすのは気まずい。
 それだけでなく、俺はダン達に頼みたいことがあったので、この縁を逃すわけにはいかないのだ。

 *

 夕食の後、男衆だけで飲みに行く事になった。実はこれは俺の発案である。
 メンバーは俺、ダン、アヴァン、ゼルドナ。
 テランは酒に弱いらしく辞退、リオは体力が尽きて既に部屋で休んでいる。

 アウクトルは未成年なので留守番。この街では17歳は飲酒可能らしいが、魔界ではアウト。パドレとメールの許可を取って旅行に来た手前、アウクトルを酒場に連れて行く事はできない。
 この話を告げた時、遂にアウクトルが爆発した。

「ならば、お前も行く必要はなかろう」
「俺は行きたいんだ」
「今回の旅行は俺とお前二人きりの筈だった。何故他人と関わろうとする」
「……魔界へ来て、俺はお前とばかり一緒にいた。それでは駄目だと気付いた」
「どこに問題がある。俺とお前、お互いだけで充分だろう。……昨晩の事が原因か?」
「違う。お前にトーレ君が居るように、俺もお前以外の存在が必要なんだ」
「理解できん。移住してきたお前と、魔界で生まれ育った俺では人間関係に違いが出るのは当然だ。お前は既に成人しているのだし、学生のような人間関係は必要ないはずだ」
「俺もそう考えていた。だがそれで支障があったから、対処すべきだと考えたんだ」
「問題があれば俺に言えば良い。他の人間など不要だ」
「お前に言えない問題もある」
「俺に知られたくないような、疾しい事があるのか」
「そうじゃない。アウクトル……あとで必ず埋め合わせする」
「……わかった。『お前の行動を制限しない』だったな」

 今回は旅行相手のアウクトルを放置して飲みに出かけるので、その条件を口に出されると心苦しい。
 後ろめたく思いながらも譲れないので、俺は酒場へ向かった。

 =========

 フォンスの背中を見送るアウクトルの脳裏に、先日の光景が蘇った。

 騒動の翌日、第二のミッションの記録を確認したアウクトルに対し、シェリはフォンスの浮気疑惑を口にした。
 彼女の言葉に嘘偽りはなかったので、速攻で権力を使いホテルの監視カメラ、従業員の尋問を行った。

 フォンスが深夜に帰宅した日のことはよく覚えている。
 帰宅時間から遡り、当日の彼の足取りを追った。

 サウナは、知り合いの男――以前アウクトルが害虫認定した人物と二人で入ったが、10分もしないうちに出ている。
 入り口でタオルをレンタルし、同伴者が体調不良になりフォンスがスタッフに報告した記録が残っているので時間の記録は正確だ。
 利用客が少なく、営業終了近い時間だったので、二人がサウナ利用中にスタッフが軽く浴場を片付けに入っている。
 いかがわしい事をする時間も、余裕もない状態。
 ――セーフ。

 大浴場に入った時間が明確なので、後は監視カメラの映像を辿れば良い。

 二人は客室から大浴場へ寄り道する事なく移動している。
 ――セーフ。

 客室では酔い潰れた男を介抱したようだが、部屋での滞在時間は3分20秒。
 ――セーフ。

 バーから客室へ向かう際も、三人でカメラから外れる事なく移動している。
 ――セーフ。

 バーの中にはカメラがないので、バーテンを尋問した。フォンスは飲む事に集中しており、その気はないようだったと証言を得た。
 ――セウト。

 始終二人きりで過ごしていたのであればアウトだが、途中で相手が入れ替わっている。
 ――セウト。

 *

 アウクトルはフォンスを問い詰めたかったが、彼の行動を制限しないと約束した手前どう切り出すか迷っていた。
 もし今回の旅行で結ばれる事ができたなら気持ちに余裕ができのだろうが、結局本懐を遂げることができなかった。

 そんな状態で、またもや自分以外の相手と彼は出かけようというのである。
 アウクトルの我慢は限界を越えた。

 *

「おい女」
「アタシにはメルセ、って親が付けてくれた立派な名前があるんだけどねぇ」
「どうでも良い」
「昼間と随分態度が違うね。あぁ、あの色男の前じゃないからか」
「黙れ」

 アウクトルはメルセにネックレスを突きつけた。ネックレス自体は安物で価値はない。

「このネックレスには俺の付与魔術が掛かっている。効果は『装着者の致命傷を1回肩代わりする』だ」

 とんでもない効果だ。国宝級のアーティファクトでもお目にかかれるかどうか。
 冒険者であれば、誰もが喉から手が出るほど欲しがるだろう。無論メルセもだ。
 売れば大金が手に入るし、自分が使えばいざという時の保険としてこれほど心強いものはない。
 普通なら眉唾物だと笑い飛ばすところだが、アウクトルの奇跡のような魔術を今日だけで何度も目にしている。彼が作ったものなら、確実にその効果があるのだろう。

 生唾を飲み込むと、メルセは無理やりネックレスから目を離しアウクトルを挑発的に見つめた。

「アタシに何をさせたいんだい?」

「話が早いな。――お前の『目』を貸せ」
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