魔王君と俺 〜婚活から逃げて異世界へ行ったら、初日からヤバいのに誤解されてゴールインした件〜

一一(カズイチ)

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注文の多いオーベルジュ<蛇足編4>

ガンガン行こうぜ

「ご確認ください」

 少女達が一斉に頭を下げる。
 腰を深く折げてキッチリ90度。一糸乱れぬ一連の動きは、彼女達の連帯感の強さを示している。
 代表者が恭しく差し出した企画書を手にすると、アウクトルは書類に目を通した。
 紙を捲る音だけが響く。

「――良いだろう」

 =========

「「「「「「よろしくお願いしまああああす!」」」」」」

 お腹から声を出し、軍隊のような統率の取れたお辞儀をする少女達。
 一瞬運動部と錯覚しそうになるが、彼女達は文芸部――正確には文芸サークルである。

 ここは学園のある都市から少し離れた場所にあるオーベルジュ。山間部の風光明媚な場所で、都会の喧騒から離れつつもアクセスはそれなりに良好な場所。
 行楽シーズンのオーベルジュは稼ぎ時なのだが、副部長インファの親は彼女に甘く、毎年合宿場として邸の一部を提供しているらしい。
 インファの両親は夕食の準備があるため、この場には居ない。娘の招待とはいえ、高級宿に1泊2日お世話になるのだ、後で挨拶に行こう。

 今回、俺とアウクトルはポーズモデルを依頼されてこの地へやってきた。

 *

「私たちは毎年春、夏、冬に本を出しているんです。文化祭では春に発行したものを販売します」
「夏は間に合わないのか?」
「夏と冬は元より文化祭で売ったり、学校に提出したりしていないんです。OBの伝手で販売して、活動費にあてています」
「人数もいるし、年3回も発刊しているなら正式な部に昇格できそうなものだが難しいのか?」
「春は学校へ提出することを意識したお堅い内容なんですが、夏と冬は部員達が好きな物を思い思いに書いているんです。その為、学校に提出することを嫌がる子が多くて……確かに部活として認可されたら部費が増えますが、創作活動の妨げになるなら本末転倒です。私たちは、自由に表現できることが最優先なんです」
「一理あるな」

 お堅い内容であれば学校の課題のような認識で教師に出すのも恥ずかしくないが、趣味全開で書いたものは仲間以外に見せるのが恥ずかしいのだろう。年頃の少女らしい考えだ。

「これが春の冊子です。全然面白そうじゃないでしょう?」

 インファが差し出した薄い本をパラパラと捲る。当たり障りのない内容の詩や、書評が並ぶだけ。娯楽要素はなく、同好会として学校に認めさせるために作っているのだろうと感じる熱の無さだ。

「夏と冬は全然違うんです。春は表紙も文字だけですが、今作っているのは挿絵や表紙も自分達で描いた絵を印刷します」

 インファの説明をポステが引き継ぐ。

「私たちは美術部ではないので、絵は見たものをそのまま描くことしかできないんです。去年までは運動部に差し入れして、その謝礼にポーズモデルをお願いしていました」
「今年はウチの都合で、例年と時期がズレてしまって……。運動部はもう大会期間なので、モデルお願いするのが難しくて」
「思い切って、アウクトル様にお願いしたんです」
「フォンスさんも、急な話にも関わらず引き受けていただきありがとうございます」
「構わん。お前達は俺の臣下だ」
「もしかして彼女達は、お前の事知っているのか?」
「インファとポステだけだがな。自力で俺の正体に辿り着いた、優秀な者たちだ」
「凄いな。もしかして2人が書いているのは推理物なのか?」
「2人とも専門は恋愛やヒューマンドラマです。その影響か、普段から人間観察する癖がついちゃって……」
「アウクトル様は目立ちますから、入学当初からつい観察を……」

 少女たちが顔を見合わせて微笑む。日頃から仲が良いのだろう。

 文学少女たちに抱いた俺の微笑ましい気持ちは、十分後には跡形もなく消え去っていた。

 *

「ですから! そのままアウクトル様が、フォンスさんの顎を右手でクイッと! そう! ちょっと持ち上げる感じで、顔を逸らせないように固定するんです!」
「フォンスさん! 顔を見られたくないけど、逃れられない感じを出してください! アウクトル様あと10センチ顔近づけてください! 覗き込む感じ! フォンスさんの表情を堪能するんです!」

 俺とアウクトルは何故か胡座で向かい合っている。
 部員たちは各々、自分が描きたい角度に移動し真剣な顔で手を動かしている。
 声も内容も激しい指示が飛び交う。

 これ何のシーン?
 君等は見たものしか描けないんだよな?
 ラブシーンっぽいけど、2人とも男なんだが大丈夫か?

「俺の役、女子と交代した方が良くないか?」
「「「「「「良くないです!!」」」」」」

 6人同時に叫ばれた。息がピッタリだ。

 *

「次のポーズは壁ドンです! さあ早く!」
「フォンスさんが壁際、アウクトル様が手をついて下さいね!」
「フォンスさん目が死んでます! 恥ずかしいけど、隠しきれない期待を滲ませた表情をして下さい! もっと目を潤ませて!」

 無茶言うな。

「アウクトル様あと一歩前へ! そう、フォンスさんの足の間に、膝を割り入れる感じで!」
「息がかかるくらい顔を近づけて下さい!」
「さあ恥ずかしがらず! いえ、恥ずかしがってさあどうぞ!」
「……」

 君等が学校に発行物提出しないのは、見せられない内容の物を書いてるからじゃないよな?
 OBに売ってもらっているのは、自分達の年齢では販売できないからじゃないよな?

 アウクトルが黙々と従っているので、俺も付き合っているが何とも言えない気持ちになる。
 きっと彼も今回の依頼を請けたことを後悔しているだろう。追い討ちをかけるのも可哀想なので、俺からは何も言わないでおこう。
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