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注文の多いオーベルジュ<蛇足編4>
その着せ替え人形は目が死んでる
「フォンスさん。これをどうぞ」
恭しく差し出されたのは伊達メガネ。
生まれてこの方目を悪くしたことはないので、メガネをかけるという行為自体が初めてだ。
初めてのメガネに感動していると、部員のひとりが「次にアウクトル様とシャツを交換してください」と言った。
「何故だ?」
「書きたい絵と、お二人の服装が逆なんです。私、服の皺とか想像で描くの無理です。美術部ではないので!」
「あ、ああ。そうか」
「さあどうぞ!」
アウクトルの着用していたストライプのシャツを羽織る。
俺は半袖だったが、彼は長袖を捲り上げていた。同じように俺も袖を上げようとしたらストップが掛かった。
「袖は伸ばしたままで! 袖口の匂いを嗅いでください!」
「は?」
「フリですフリ! もちろん実際に嗅いでもらって構いません! まあ普通に呼吸すれば、自然と匂い嗅ぐ事になりますよねっ」
よく分からない指示だが、要は手首を鼻先に近づければ良いんだな。
何故かアウクトルが俺から離れ、彼女達と同じ立ち位置にいる。
「アウクトルはポーズ取らないのか?」
「これは表紙なので!」
「フォンスさんのピンで良いんです。それよりも、相手の存在をシャツから感じて照れる感じを出してください!」
男が服の匂い嗅いでる図が表紙なんて、一体どんな話なんだ。
*
「次はこれお願いします」
またも小物を使うらしい。
伊達メガネを回収すると、ポステがモコモコしたものが入った紙袋を差し出した。
「……」
ウサギの付け耳と尻尾。
妙にリアルだ。
「市販のものは安っぽいパーティーグッズしかなかったんで、頑張って手作りしました!」
「……」
頑張るところおかしいだろ。
君は文芸サークルであって、手芸部では無いはずだ。
もしかして時期がズレたの、これ作ってたからじゃないよな?
俺の胡乱な眼差しを無視して説明が続く。
「これは獣人と魔族の種族を超えた友情モノです。尻尾は安全ピンですから気を付けてくださいね」
「アウクトルは?」
「魔族設定なのでこのままです」
俺だけ辱めを受けるって狡くないか?
「さあ装着したらアウクトル様に跨ってください!」
「何だって!?」
「マウントポジションです! 2人が初めて会ったシーンですよ! 警戒心の強いウサギが、魔族を襲うんです」
気は進まないが、耳と尻尾を付けて寝転がったアウクトルの上に跨る。
「腰を宙に浮かせないで、ちゃんと乗っかってください!」
「もう少し後退を!」
「もうちょっと!」
「もうちょっと!」
バックオーライのノリで部員たちが囃す。最終的に俺はアウクトルの下腹部に座ることになった。
「これ大丈夫なのか?」
彼女達はヒストリカルだとか友情ものだとか言っているけど、ぶっちゃけ性的な何かを彷彿とさせるような構図だと思う。
「問題ありません! 全年齢です!」
「私達未成年ですから! 法律は守ります!」
やっぱり君達も際どいと思ってるんだな!?
*
「次はこれを!」
6人の中では、一番身長の高い少女がズリズリと大きなビニール袋を持ってきた。最大サイズの家庭用ゴミ袋だ。
「小道具の枠超えてないか?」
中には純白の羽が入っていた。
「力作です!」
やっぱり手作りなのかよ。
「私この表紙に命かけてるんです!」
君が命を賭けるべきなのは、偽物の翼作りではなく文章製作だ。
「……ちなみに設定は?」
「地上に舞い降りた天使を魔族が堕落させるんですっ」
「君達は魔族なんだが、良いのかそれで」
「良いんです! 固定概念に囚われず、想像の翼を広げるのが文学です。言わばこれは自由の翼が具現化した物!」
たすき掛けの要領で、自由の翼()を背負う。思ったより重量があり、すごくモサモサする。
「アウクトルは?」
「魔族設定なのでこのままです」
狡い!!
何だこれ。もしかしてアウクトルに頼み難い内容、全部俺に押し付けてないか?
「用意ができたら、アウクトル様を膝枕してください」
「堕落はどこへ行ったんだ!?」
「最後に魔族を看取るシーンです。改心した魔族を、慈愛をもって赦す感動の場面です。さあどうぞ!」
感動というか、シュールな場面だと思う。
釈然としないままアウクトルを膝枕した。アウクトルは面倒になってきたのか、途中で寝やがった。
気持ち良さそうな顔しやがってムカつく。
起こす時に、ペチンと額を叩いたら少女達から悲鳴が上がった。
もしや今時はこれしきの事でも暴力行為になるのか?
*
「次で最後です」
またもや紙袋が渡される。
ようやく解放されるのかと思うと、少し気力が復活した。
「ハーフパンツとエプロン?」
「服を脱いで、これだけ装着してください」
「何だって!!??」
おいおいおい。エプロンの丈が長いから、正面から見たらエプロンだけ着てるように見えてしまうぞ!
「本当は裸エプロンが理想なんですが、それは難しいので代替案です」
言っちゃったよ。俺が頑張って気付かないふりしたのに、裸エプロン断言しちゃったよ。
「……何の話なんだ?」
「ミステリーです。フォンスさんの役は殺人鬼・ブッチャーです! ブッチャーは食肉工場で働いていて、殺した人間を職場で解体するんです!」
「お、おう」
「自分の痕跡を極力残さないため、衣類への返り血を防ぐために裸エプロンで作業するんです!」
「そ、そうなのか」
確かに理にかなっているかもしれない。
「ちなみにアウクトルは?」
「アウクトル様は囮捜査官役なのでそのままです」
やっぱり狡い!!
「最後の乱闘のシーンです。フォンスさん、アウクトル様を押し倒してください!」
「えぇ……」
何か嫌だが、これで最後だ。渋々俺はアウクトルを押し倒した。
王道の最後に正義が勝つストーリーなため、その後立場逆転してアウクトルに押し倒された。
恭しく差し出されたのは伊達メガネ。
生まれてこの方目を悪くしたことはないので、メガネをかけるという行為自体が初めてだ。
初めてのメガネに感動していると、部員のひとりが「次にアウクトル様とシャツを交換してください」と言った。
「何故だ?」
「書きたい絵と、お二人の服装が逆なんです。私、服の皺とか想像で描くの無理です。美術部ではないので!」
「あ、ああ。そうか」
「さあどうぞ!」
アウクトルの着用していたストライプのシャツを羽織る。
俺は半袖だったが、彼は長袖を捲り上げていた。同じように俺も袖を上げようとしたらストップが掛かった。
「袖は伸ばしたままで! 袖口の匂いを嗅いでください!」
「は?」
「フリですフリ! もちろん実際に嗅いでもらって構いません! まあ普通に呼吸すれば、自然と匂い嗅ぐ事になりますよねっ」
よく分からない指示だが、要は手首を鼻先に近づければ良いんだな。
何故かアウクトルが俺から離れ、彼女達と同じ立ち位置にいる。
「アウクトルはポーズ取らないのか?」
「これは表紙なので!」
「フォンスさんのピンで良いんです。それよりも、相手の存在をシャツから感じて照れる感じを出してください!」
男が服の匂い嗅いでる図が表紙なんて、一体どんな話なんだ。
*
「次はこれお願いします」
またも小物を使うらしい。
伊達メガネを回収すると、ポステがモコモコしたものが入った紙袋を差し出した。
「……」
ウサギの付け耳と尻尾。
妙にリアルだ。
「市販のものは安っぽいパーティーグッズしかなかったんで、頑張って手作りしました!」
「……」
頑張るところおかしいだろ。
君は文芸サークルであって、手芸部では無いはずだ。
もしかして時期がズレたの、これ作ってたからじゃないよな?
俺の胡乱な眼差しを無視して説明が続く。
「これは獣人と魔族の種族を超えた友情モノです。尻尾は安全ピンですから気を付けてくださいね」
「アウクトルは?」
「魔族設定なのでこのままです」
俺だけ辱めを受けるって狡くないか?
「さあ装着したらアウクトル様に跨ってください!」
「何だって!?」
「マウントポジションです! 2人が初めて会ったシーンですよ! 警戒心の強いウサギが、魔族を襲うんです」
気は進まないが、耳と尻尾を付けて寝転がったアウクトルの上に跨る。
「腰を宙に浮かせないで、ちゃんと乗っかってください!」
「もう少し後退を!」
「もうちょっと!」
「もうちょっと!」
バックオーライのノリで部員たちが囃す。最終的に俺はアウクトルの下腹部に座ることになった。
「これ大丈夫なのか?」
彼女達はヒストリカルだとか友情ものだとか言っているけど、ぶっちゃけ性的な何かを彷彿とさせるような構図だと思う。
「問題ありません! 全年齢です!」
「私達未成年ですから! 法律は守ります!」
やっぱり君達も際どいと思ってるんだな!?
*
「次はこれを!」
6人の中では、一番身長の高い少女がズリズリと大きなビニール袋を持ってきた。最大サイズの家庭用ゴミ袋だ。
「小道具の枠超えてないか?」
中には純白の羽が入っていた。
「力作です!」
やっぱり手作りなのかよ。
「私この表紙に命かけてるんです!」
君が命を賭けるべきなのは、偽物の翼作りではなく文章製作だ。
「……ちなみに設定は?」
「地上に舞い降りた天使を魔族が堕落させるんですっ」
「君達は魔族なんだが、良いのかそれで」
「良いんです! 固定概念に囚われず、想像の翼を広げるのが文学です。言わばこれは自由の翼が具現化した物!」
たすき掛けの要領で、自由の翼()を背負う。思ったより重量があり、すごくモサモサする。
「アウクトルは?」
「魔族設定なのでこのままです」
狡い!!
何だこれ。もしかしてアウクトルに頼み難い内容、全部俺に押し付けてないか?
「用意ができたら、アウクトル様を膝枕してください」
「堕落はどこへ行ったんだ!?」
「最後に魔族を看取るシーンです。改心した魔族を、慈愛をもって赦す感動の場面です。さあどうぞ!」
感動というか、シュールな場面だと思う。
釈然としないままアウクトルを膝枕した。アウクトルは面倒になってきたのか、途中で寝やがった。
気持ち良さそうな顔しやがってムカつく。
起こす時に、ペチンと額を叩いたら少女達から悲鳴が上がった。
もしや今時はこれしきの事でも暴力行為になるのか?
*
「次で最後です」
またもや紙袋が渡される。
ようやく解放されるのかと思うと、少し気力が復活した。
「ハーフパンツとエプロン?」
「服を脱いで、これだけ装着してください」
「何だって!!??」
おいおいおい。エプロンの丈が長いから、正面から見たらエプロンだけ着てるように見えてしまうぞ!
「本当は裸エプロンが理想なんですが、それは難しいので代替案です」
言っちゃったよ。俺が頑張って気付かないふりしたのに、裸エプロン断言しちゃったよ。
「……何の話なんだ?」
「ミステリーです。フォンスさんの役は殺人鬼・ブッチャーです! ブッチャーは食肉工場で働いていて、殺した人間を職場で解体するんです!」
「お、おう」
「自分の痕跡を極力残さないため、衣類への返り血を防ぐために裸エプロンで作業するんです!」
「そ、そうなのか」
確かに理にかなっているかもしれない。
「ちなみにアウクトルは?」
「アウクトル様は囮捜査官役なのでそのままです」
やっぱり狡い!!
「最後の乱闘のシーンです。フォンスさん、アウクトル様を押し倒してください!」
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何か嫌だが、これで最後だ。渋々俺はアウクトルを押し倒した。
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