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絶海の孤島編
忖度厳禁
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「第1陣の皆様は本日全員到着予定です。到着時間に個人差が御座いますので、本日は旅の疲れを落としていただきたく存じます。夕食は部屋へお持ちしますが、ご希望の時間はございますか?」
今回は招待客を2つのグループに分けている。
若手中心の第1陣、権威ある教授中心の第2陣。
第1陣と入れ替わりに第2陣が到着予定とのこと。
重鎮に遠慮して若手が自由に意見を述べられない事の無いよう配慮した結果だ。
「個別に部屋に運ぶとなると大変でしょう。この後は部屋で休みますので、僕は何時でも構いません」
「お気遣いありがとうございます。当館には大浴場がございますので、夕食後は是非ご利用ください」
「大浴場!?」
「ええ。我が国では珍しいのですが、先代が発掘作業で海外遠征した際に現地の浴場に感銘を受けたとかで制作しました。この辺りの国には風呂を他人と共有する文化がない為、他のゲストの反応は今ひとつで……無理にとは申しませんので、気が向かれましたらどうぞ」
「とんでもない! 僕は大きな浴場が好きなんです。喜んで利用させていただきます」
日本人だった頃の名残で、ラインハルトは温泉や大きな風呂が好きだ。前世ではそれなりに好き程度だったが、転生後の世界では存在自体が稀な事もあり求めて止まないと言える程執心するようになった。
行こうと思えばいくらでも行けるのと、そうで無いのとでは有り難みが全然違う。
母国には公衆浴場こそないものの、南部に温泉地帯がある。
ラインハルトは幼い頃から家族に強請っては親に連れて行ってもらっていた。バカンスシーズンに海では無く温泉に行きたがる息子。渋すぎる趣味である。
父のレオンハルトは家族と一緒であれば何処でも楽しめる人間。マリアンヌは紫外線や潮風で肌や髪がダメージを受ける海よりも、肌に良い温泉の方が嬉しい。ジークハルトは家族旅行に興味がなく、ハルバートは多数決に従う性格。
結果としてラインハルトの要望が通り、フリート家は毎年温泉旅行に行っていた。
「そうですか、奇遇ですね。先代に続いて当代も大浴場の愛好家なので、先生のお言葉を聞けば喜ぶでしょう。タオルなどをお持ちしますので、浴場へ行かれる前にベルでお呼びください」
(まあ、旅館スタイルとはいかないわな)
前世の温泉旅館であれば、部屋に備え付けのタオルや着替えを自分で風呂まで持ち運ぶのだが今世は違う。
南部の保養地はチップが収入の一部を占めているし、この館はゲストへの歓待が主人の評価に繋がる。
客室には使用人の待機室へ繋がるベルが設置されている。ナースステーションに似たシステムだ。
面倒だが事前に連絡するしかあるまい。
*
夕食を終えたラインハルトは、浴場へ向かおうと思いベルを鳴らした。
正直ロドスト国の食事は、前世で舌が肥えたラインハルトにとって美味しいとは言い難い印象だったが、到着時の軽食も、先程の夕食も大変美味しかった。
この館に到着するまで道中に食べたのは、この国特有の味付けが塩か酢の料理ばかりだった。素材の味といえばその通りなのだが、塩分高めで何を食べても似たような味。覚悟していたとは言え苦痛だった。
しかし今日食べたのは母国の味に近い。出汁をとり、繊細で深みのある味付けに仕上がっていた。
今回ラインハルトはゲストとして招かれているので、食べ物を持参する行為は失礼にあたる為色々諦めていた。
コレクションを見る為、仕事の為と食に関しては耐え切るつもりだったが、これなら滞在期間中も快適に過ごせそうだ。
風呂といい、食事といいフランシス家の人々とは好みが近い。
(ビエルサ・フランシスとは趣味が合いそうだな)
ラインハルトも割と合理主義なので、まだ見ぬビエルサだがその印象はかなり良い。
*
ガチャッ
「あれ? 開いてる?」
ノックもなしにラインハルトの部屋の扉が開かれたと思うと、ランプを持った派手なコート姿の男が立っていた。
「あ! ごめんなさい。ここ貴方の部屋でしたか?」
「え、ええ……」
「私はギリアム・レンと申します。先ほど到着したんですが、庭の彫刻が気になって見に行っていたんです。どうやら部屋を間違えてしまったようだ……」
ギリアムの家名とコートで、彼の出身国は直ぐにわかった。
ファミリーネームが2音程度で終わるのは、この周辺ではリトリ国だけだ。更にファッションに力を入れている国なので前衛的なデザインや、仕事用であっても大胆な色使いの装いが特徴的だ。
「気にしないでください。僕も内鍵をかけていませんでしたし。直ぐに使用人が来ますので、このまま僕の部屋で待っては如何でしょうか? ついでにギリアムさんの部屋に案内してもらいましょう」
「重ね重ね申し訳ない。でも正直ここで追い出されたら、どうしたら良いのか分からないので有り難いです」
「庭からこの部屋へ来る迄、誰とも会わなかったんですか?」
「招待客らしい人はいましたが、使用人は見かけませんでしたね。到着時に聞いた話だと、少人数の住み込みで回しているらしいですよ」
(なんかクローズド・サークルの見本みたいな屋敷だな)
橋を行き来するので通いが少ないのは納得できる。しかし平常時と違い、多くの客を招くのであれば一時的に使用人の数を増やすべきだ。
(もしかしてフランシス・コレクション盗難予防か)
外部の人間を安易に雇うのはリスクが高いのだろう。しかし地元民も既に自分の職を持っている上に、このような田舎だと充分な接客スキルを持つ者は少ない。
現に港で地元民と話したが海の町らしい威勢の良い人達だった。
今回は招待客を2つのグループに分けている。
若手中心の第1陣、権威ある教授中心の第2陣。
第1陣と入れ替わりに第2陣が到着予定とのこと。
重鎮に遠慮して若手が自由に意見を述べられない事の無いよう配慮した結果だ。
「個別に部屋に運ぶとなると大変でしょう。この後は部屋で休みますので、僕は何時でも構いません」
「お気遣いありがとうございます。当館には大浴場がございますので、夕食後は是非ご利用ください」
「大浴場!?」
「ええ。我が国では珍しいのですが、先代が発掘作業で海外遠征した際に現地の浴場に感銘を受けたとかで制作しました。この辺りの国には風呂を他人と共有する文化がない為、他のゲストの反応は今ひとつで……無理にとは申しませんので、気が向かれましたらどうぞ」
「とんでもない! 僕は大きな浴場が好きなんです。喜んで利用させていただきます」
日本人だった頃の名残で、ラインハルトは温泉や大きな風呂が好きだ。前世ではそれなりに好き程度だったが、転生後の世界では存在自体が稀な事もあり求めて止まないと言える程執心するようになった。
行こうと思えばいくらでも行けるのと、そうで無いのとでは有り難みが全然違う。
母国には公衆浴場こそないものの、南部に温泉地帯がある。
ラインハルトは幼い頃から家族に強請っては親に連れて行ってもらっていた。バカンスシーズンに海では無く温泉に行きたがる息子。渋すぎる趣味である。
父のレオンハルトは家族と一緒であれば何処でも楽しめる人間。マリアンヌは紫外線や潮風で肌や髪がダメージを受ける海よりも、肌に良い温泉の方が嬉しい。ジークハルトは家族旅行に興味がなく、ハルバートは多数決に従う性格。
結果としてラインハルトの要望が通り、フリート家は毎年温泉旅行に行っていた。
「そうですか、奇遇ですね。先代に続いて当代も大浴場の愛好家なので、先生のお言葉を聞けば喜ぶでしょう。タオルなどをお持ちしますので、浴場へ行かれる前にベルでお呼びください」
(まあ、旅館スタイルとはいかないわな)
前世の温泉旅館であれば、部屋に備え付けのタオルや着替えを自分で風呂まで持ち運ぶのだが今世は違う。
南部の保養地はチップが収入の一部を占めているし、この館はゲストへの歓待が主人の評価に繋がる。
客室には使用人の待機室へ繋がるベルが設置されている。ナースステーションに似たシステムだ。
面倒だが事前に連絡するしかあるまい。
*
夕食を終えたラインハルトは、浴場へ向かおうと思いベルを鳴らした。
正直ロドスト国の食事は、前世で舌が肥えたラインハルトにとって美味しいとは言い難い印象だったが、到着時の軽食も、先程の夕食も大変美味しかった。
この館に到着するまで道中に食べたのは、この国特有の味付けが塩か酢の料理ばかりだった。素材の味といえばその通りなのだが、塩分高めで何を食べても似たような味。覚悟していたとは言え苦痛だった。
しかし今日食べたのは母国の味に近い。出汁をとり、繊細で深みのある味付けに仕上がっていた。
今回ラインハルトはゲストとして招かれているので、食べ物を持参する行為は失礼にあたる為色々諦めていた。
コレクションを見る為、仕事の為と食に関しては耐え切るつもりだったが、これなら滞在期間中も快適に過ごせそうだ。
風呂といい、食事といいフランシス家の人々とは好みが近い。
(ビエルサ・フランシスとは趣味が合いそうだな)
ラインハルトも割と合理主義なので、まだ見ぬビエルサだがその印象はかなり良い。
*
ガチャッ
「あれ? 開いてる?」
ノックもなしにラインハルトの部屋の扉が開かれたと思うと、ランプを持った派手なコート姿の男が立っていた。
「あ! ごめんなさい。ここ貴方の部屋でしたか?」
「え、ええ……」
「私はギリアム・レンと申します。先ほど到着したんですが、庭の彫刻が気になって見に行っていたんです。どうやら部屋を間違えてしまったようだ……」
ギリアムの家名とコートで、彼の出身国は直ぐにわかった。
ファミリーネームが2音程度で終わるのは、この周辺ではリトリ国だけだ。更にファッションに力を入れている国なので前衛的なデザインや、仕事用であっても大胆な色使いの装いが特徴的だ。
「気にしないでください。僕も内鍵をかけていませんでしたし。直ぐに使用人が来ますので、このまま僕の部屋で待っては如何でしょうか? ついでにギリアムさんの部屋に案内してもらいましょう」
「重ね重ね申し訳ない。でも正直ここで追い出されたら、どうしたら良いのか分からないので有り難いです」
「庭からこの部屋へ来る迄、誰とも会わなかったんですか?」
「招待客らしい人はいましたが、使用人は見かけませんでしたね。到着時に聞いた話だと、少人数の住み込みで回しているらしいですよ」
(なんかクローズド・サークルの見本みたいな屋敷だな)
橋を行き来するので通いが少ないのは納得できる。しかし平常時と違い、多くの客を招くのであれば一時的に使用人の数を増やすべきだ。
(もしかしてフランシス・コレクション盗難予防か)
外部の人間を安易に雇うのはリスクが高いのだろう。しかし地元民も既に自分の職を持っている上に、このような田舎だと充分な接客スキルを持つ者は少ない。
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