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最高の日
最高の日
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ホームルームが終了し、わっと群がる生徒たちの間をすり抜け、千彰は昇降口へと急いでいた。今日は予定時間より5分遅れだ。下手すると間に合わないかもしれない。駅まで走って3分、電車に乗って3分、そこから西高まで5分はかかる。
「なあ、お前、またあの子のとこ行くの?」
いつの間にか隣を徹が並んで走っていた。大抵の生徒は放課後部活があるため、廊下を走っているのは自分たちくらいだ。
「そーだよ」
「あんましつこいと嫌われるぞー」
その言葉は、聞かないふりをする。
「つーか約束も何もしてないんだろ?」
「してない、けど、友達だろ」
「無理矢理友達になったんだろ」
「うるせえ」
無理矢理でも何でも、彼女は頷いたんだからそれがすべてだ。
下駄箱に辿り着いて急いで靴を履き替える。校舎を飛び出そうとしたところで腕を掴まれ、バランスを崩した千彰は危うく転けそうになった。
「ね、俺も一緒に行っていい?」
「は? お前は部活があるだろ」
「俺も本物の都子ちゃんに会いたーい」
「だめ! つーか手ぇ離せ、ほんと、時間ギリギリなんだよっ」
腕をぶんぶんと振っても手を離そうとしない徹にやがて千彰はしびれを切らした。
「……殴るぞ」
その低い声に、徹はぱっと両手を離す。
「今度会わせろよー!」
徹のうるさい声に背を向けて、千彰は全速力で駅までの道を走り出した。
* * *
……間に合った。
目の前にある都子の姿に、千彰はぜいぜいと息を荒くしながらほっと表情を緩めた。
「今日、は、柚木さんいないんだ」
呼吸の合間に何とか言葉を紡ぎ出す。いつも彼女の隣にいる友人の姿は、今日はどこを探しても見あたらなかった。
「利恵は今日から美術の補習が入って……」
それより大丈夫?
小さく眉をひそめた都子は、いまだに呼吸を荒くしている千彰に問いかけてきた。こくりとひとつだけ頷く。ここ2週間で、都子の千彰へ対する対応はずいぶん柔らかいものになっていた。
「一緒に帰ろうよ」
「う……うん、まあ、いいけど」
並んで歩き出した彼女は、少し困ったように千彰へ顔を向けた。
「あの……思ったんだけど、北高ってひとつ駅向こうだよね? もしかして、こんなことのためにわざわざ一回電車降りてる?」
「うん」
あっさりと頷いた千彰に、都子は呆れた表情を作った。
「なんでよ……」
「だって、こうでもしなきゃ都子ちゃんに会えないじゃん」
にこにこ微笑みながら言うと、都子はますますその呆れ具合を深くした。
「朝も会ってるでしょ……」
「あれは別。時間だって少ないし、寄り道もできないし。会った気にならない」
「…………」
そこで、都子は黙りこくってしまう。
ちらりと見るその横顔は何か考えているように見えた。難しそうな表情。まだ、彼女は一度も千彰に笑顔を見せてくれたことはない。
それでも最初の頃よりは大分進歩したと千彰は思っていた。少なくとも、もう嫌われてはいない気がする。彼女の千彰への接し方は本当に友達としてのものだけれど、今はそれで十分だ。
「これ……」
そんなことを思っていると、都子は何やら鞄の中をごそごそとやりだした。そこから現れたのは淡いブルーのケースをまとった彼女のスマートフォンだった。
「連絡先教えるから……来るときは、ちゃんと連絡して。わざわざこっちに来ても待ちぼうけするかもしれないし、それに、学校の校門前とかに来られるといろいろ困るから……」
「えっ」
マジで? と間抜けた声を出してしまった千彰は、ふてくされたように自分を見る都子とそのスマートフォンを交互に何度も見た。
「だって、来ないでって言ってもどうせやめてくれないんでしょ?」
「うん、まあ……」
素直すぎるくらいにあっさりと頷く。自分の諦めの悪さも、こんなときに役に立つのかと馬鹿みたいに感心してしまった。
「でも、余計なことで連絡してこないでよ」
「え、おはようとかおやすみラインも送っちゃだめ? 毎日一回くらいは電話してもいいでしょ?」
「良くない! 本当に用事があるときだけ。じゃなきゃ教えない」
「分かった分かった。用事あるときにしかしない。誓います」
ここで逃したら次はない。
焦った千彰は何度もこくこくと頷いた。電話をするのもラインをするのも、都子の言うとおり我慢できるか自信はないが、とにかく知りたい。めちゃくちゃ知りたい。
進む歩を止めて、小さく息をはき出した都子がスマートフォンを操作し始めた。
「じゃあ、これね」
「やった! ……やばい、嬉しすぎる。ちょっと試しに送っていい?」
「……1回だけだよ」
都子の了承を得て、千彰は早速彼女宛にラインを打つ。すぐに都子のスマートフォンが震え、その画面には新着メッセージをあらわすポップが映し出された。
「家帰ったあとでも見てよ」
ご機嫌のまま千彰は歩き出す。
今日は最高にいい日だ。
にやにやとだらしなく緩む口元は、しばらくの間なおりそうになかった。
「なあ、お前、またあの子のとこ行くの?」
いつの間にか隣を徹が並んで走っていた。大抵の生徒は放課後部活があるため、廊下を走っているのは自分たちくらいだ。
「そーだよ」
「あんましつこいと嫌われるぞー」
その言葉は、聞かないふりをする。
「つーか約束も何もしてないんだろ?」
「してない、けど、友達だろ」
「無理矢理友達になったんだろ」
「うるせえ」
無理矢理でも何でも、彼女は頷いたんだからそれがすべてだ。
下駄箱に辿り着いて急いで靴を履き替える。校舎を飛び出そうとしたところで腕を掴まれ、バランスを崩した千彰は危うく転けそうになった。
「ね、俺も一緒に行っていい?」
「は? お前は部活があるだろ」
「俺も本物の都子ちゃんに会いたーい」
「だめ! つーか手ぇ離せ、ほんと、時間ギリギリなんだよっ」
腕をぶんぶんと振っても手を離そうとしない徹にやがて千彰はしびれを切らした。
「……殴るぞ」
その低い声に、徹はぱっと両手を離す。
「今度会わせろよー!」
徹のうるさい声に背を向けて、千彰は全速力で駅までの道を走り出した。
* * *
……間に合った。
目の前にある都子の姿に、千彰はぜいぜいと息を荒くしながらほっと表情を緩めた。
「今日、は、柚木さんいないんだ」
呼吸の合間に何とか言葉を紡ぎ出す。いつも彼女の隣にいる友人の姿は、今日はどこを探しても見あたらなかった。
「利恵は今日から美術の補習が入って……」
それより大丈夫?
小さく眉をひそめた都子は、いまだに呼吸を荒くしている千彰に問いかけてきた。こくりとひとつだけ頷く。ここ2週間で、都子の千彰へ対する対応はずいぶん柔らかいものになっていた。
「一緒に帰ろうよ」
「う……うん、まあ、いいけど」
並んで歩き出した彼女は、少し困ったように千彰へ顔を向けた。
「あの……思ったんだけど、北高ってひとつ駅向こうだよね? もしかして、こんなことのためにわざわざ一回電車降りてる?」
「うん」
あっさりと頷いた千彰に、都子は呆れた表情を作った。
「なんでよ……」
「だって、こうでもしなきゃ都子ちゃんに会えないじゃん」
にこにこ微笑みながら言うと、都子はますますその呆れ具合を深くした。
「朝も会ってるでしょ……」
「あれは別。時間だって少ないし、寄り道もできないし。会った気にならない」
「…………」
そこで、都子は黙りこくってしまう。
ちらりと見るその横顔は何か考えているように見えた。難しそうな表情。まだ、彼女は一度も千彰に笑顔を見せてくれたことはない。
それでも最初の頃よりは大分進歩したと千彰は思っていた。少なくとも、もう嫌われてはいない気がする。彼女の千彰への接し方は本当に友達としてのものだけれど、今はそれで十分だ。
「これ……」
そんなことを思っていると、都子は何やら鞄の中をごそごそとやりだした。そこから現れたのは淡いブルーのケースをまとった彼女のスマートフォンだった。
「連絡先教えるから……来るときは、ちゃんと連絡して。わざわざこっちに来ても待ちぼうけするかもしれないし、それに、学校の校門前とかに来られるといろいろ困るから……」
「えっ」
マジで? と間抜けた声を出してしまった千彰は、ふてくされたように自分を見る都子とそのスマートフォンを交互に何度も見た。
「だって、来ないでって言ってもどうせやめてくれないんでしょ?」
「うん、まあ……」
素直すぎるくらいにあっさりと頷く。自分の諦めの悪さも、こんなときに役に立つのかと馬鹿みたいに感心してしまった。
「でも、余計なことで連絡してこないでよ」
「え、おはようとかおやすみラインも送っちゃだめ? 毎日一回くらいは電話してもいいでしょ?」
「良くない! 本当に用事があるときだけ。じゃなきゃ教えない」
「分かった分かった。用事あるときにしかしない。誓います」
ここで逃したら次はない。
焦った千彰は何度もこくこくと頷いた。電話をするのもラインをするのも、都子の言うとおり我慢できるか自信はないが、とにかく知りたい。めちゃくちゃ知りたい。
進む歩を止めて、小さく息をはき出した都子がスマートフォンを操作し始めた。
「じゃあ、これね」
「やった! ……やばい、嬉しすぎる。ちょっと試しに送っていい?」
「……1回だけだよ」
都子の了承を得て、千彰は早速彼女宛にラインを打つ。すぐに都子のスマートフォンが震え、その画面には新着メッセージをあらわすポップが映し出された。
「家帰ったあとでも見てよ」
ご機嫌のまま千彰は歩き出す。
今日は最高にいい日だ。
にやにやとだらしなく緩む口元は、しばらくの間なおりそうになかった。
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