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認識の食い違い
認識の食い違い
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「ね、ね、ね、ね」
由美がぐっと身を乗り出してきた。テーブルが揺れて水がこぼれそうになったのを利恵が寸前で受け止めて、短いため息をつく。都子は何も聞かないふりをしたかった。せめてもの抵抗に、絶対由美と視線を合わさないようにする。
「千彰くんに告白されたってどういうこと?! なんで断ったの!」
あのあと、由美に引きずられるようにしてやってきたファミリーレストラン。まだ何か言いたそうだった千彰から解放してくれたのはありがたいが、こうやって質問攻めにされるのはありがたくない。
「千彰くんのどこが気に入らないの? あんなに悲しそうな顔させて、ちょっとは何か思わないの? 都子っ、聞いてるの?!」
うんざりしたように顔をしかめる都子に対して、由美は懲りた様子も見せず矢継ぎ早に詰め寄る。
自然とため息が出るとぱしっと軽く頭をはたかれた。
「何ため息ついてんのよっ」
「ゆ、由美ちゃん、落ち着いて!」
あほらしい。実にあほらしいと都子は再度ため息をついた。
今日のことでひとつ分かったことといえば、利恵が昨日言っていたように津田千彰が相当の有名人であるということだ。他校であれだけ女の子に囲まれるくらいだから、通ってる高校ではすごいことに――そこまで考えて北高は男子校だということを思い出した。もしかして、男子校にいるのは自分の身を守るためだろうか。
「由美、あの人のこと好きなの?」
何となく問いかけてみた。千彰のことでこれだけ興奮するくらいだ、きっとそうなのだろう。
けれど予想に反して、勢いよく頷くと思った彼女の反応は首をかしげるというものだった。
「好きっていうか……うーん、ものすごく好きだけど、手の届かない芸能人を好きって感じかな。付き合ってほしいとかは思わないし」
ファンってやつよ。と、由美は自分で納得しながら言った。
「それに千彰くんってそっけないんだよねえ……わたしたちなんかまったく眼中にないって感じ。あれじゃいくらアタックしても無理な気がするってもんよ」
「……そっけない?」
あれのどこがそっけない?
理解不能だ。都子にとって、千彰は猛突進してくるイノシシのようなものだ。自分の感情を真っ正面から相手にぶつけ、かっこいいってよく言われるだとか好きだとか超好きだとか、優しい天使みたいな子だとか、とにかくすごい台詞をおくびもなく口からはき出す。にわかには信じられない。
「だからね! わたしは都子を許せないのよ。千彰くんがあんなに一生懸命なのに都子ったらあっさりしちゃってさ」
「いや、だって……」
「だって?」
「わたし、ファンでも何でもないし、あの人のことよく知らないし……」
「これから知ってけばいいでしょ!」
「う、うん……だから、友達、ね」
あんな人とちゃんとした友達になれるかも謎だが、告白されるよりはだいぶましだ。由美の勢いに乗せられてこくこくと頷いた都子は心の中だけでため息をついておいた。
「……どうしよう」
「え?」
そのとき突然、都子と由美の会話をただ傍観していた利恵が言葉をもらした。意味がよく分からなくて疑問を顔に表すと、利恵はちらりとこちらに目を向ける。
「明日から、都子、津田くんファンたちからいじめられたりしちゃうのかな? わたし、都子のこと守りきれる自信ないよ……」
「はあ?」
利恵の言葉に由美は理解不能だと言わんばかりに口元を大きく歪めた。
「そんなことするわけないでしょ」
「うん、由美ちゃんはそうかもしれないよ? でも他は分からないでしょ……さっきだってすごい睨まれてたし……」
「あー、大丈夫だと思うけど」
考えるように宙を見据えた由美は、言葉を探すように視線をさまよわせた。
「千彰くんって、強いんだよね」
「は?」
いったい何がどうなってそういう話になるのか分からず、都子は利恵と一緒になって惚けた表情を作った。
「喧嘩、強いの。ほら、千彰くんってきれいな顔してるでしょ。どっちかっていうと中性的な顔立ち。今は成長して、うーん、なんていうのかな、男らしくなったっていうかものすっごくかっこよくなったじゃない。でも中学生の頃とかは女の子に間違われるくらいかわいくて、本人も気にしてたみたいで……。それについてからかわれたりするといっつも喧嘩になって相手を病院送りにしてたって」
「えー!」
大声を上げたのは都子の方だった。利恵は口をぱくぱくさせるだけで声さえももらさない。
「ぜ、全然そんなふうには見えない……」
「でしょー? どっちかっていうと貴公子系だもんね。実際家も結構なお金持ちだし」
うん、と自分の言葉に頷いた由美は、改めるように口を開いた。
「だから、わたしの言いたいことはね。千彰くんってやるときはやるのよ。女の子たちだって妙なことはできないし……都子に何かしたら千彰くんから天罰がくだるのは確実だね」
「でも、相手は女の子でしょ?」
それはないだろうと聞き返すと、由美は小さく首を振った。
「千彰くんってやるときは本当にやるのよ。有言実行、容赦なし、クールなとこがまた素敵!」
「クール~?」
どこがクールだ。
どうやら、都子と由美の間には津田千彰という人間に対する認識に大きな食い違いがあるらしい。
津田千彰。
都子の中で、その存在はますます訳の分からないものになっていた。
由美がぐっと身を乗り出してきた。テーブルが揺れて水がこぼれそうになったのを利恵が寸前で受け止めて、短いため息をつく。都子は何も聞かないふりをしたかった。せめてもの抵抗に、絶対由美と視線を合わさないようにする。
「千彰くんに告白されたってどういうこと?! なんで断ったの!」
あのあと、由美に引きずられるようにしてやってきたファミリーレストラン。まだ何か言いたそうだった千彰から解放してくれたのはありがたいが、こうやって質問攻めにされるのはありがたくない。
「千彰くんのどこが気に入らないの? あんなに悲しそうな顔させて、ちょっとは何か思わないの? 都子っ、聞いてるの?!」
うんざりしたように顔をしかめる都子に対して、由美は懲りた様子も見せず矢継ぎ早に詰め寄る。
自然とため息が出るとぱしっと軽く頭をはたかれた。
「何ため息ついてんのよっ」
「ゆ、由美ちゃん、落ち着いて!」
あほらしい。実にあほらしいと都子は再度ため息をついた。
今日のことでひとつ分かったことといえば、利恵が昨日言っていたように津田千彰が相当の有名人であるということだ。他校であれだけ女の子に囲まれるくらいだから、通ってる高校ではすごいことに――そこまで考えて北高は男子校だということを思い出した。もしかして、男子校にいるのは自分の身を守るためだろうか。
「由美、あの人のこと好きなの?」
何となく問いかけてみた。千彰のことでこれだけ興奮するくらいだ、きっとそうなのだろう。
けれど予想に反して、勢いよく頷くと思った彼女の反応は首をかしげるというものだった。
「好きっていうか……うーん、ものすごく好きだけど、手の届かない芸能人を好きって感じかな。付き合ってほしいとかは思わないし」
ファンってやつよ。と、由美は自分で納得しながら言った。
「それに千彰くんってそっけないんだよねえ……わたしたちなんかまったく眼中にないって感じ。あれじゃいくらアタックしても無理な気がするってもんよ」
「……そっけない?」
あれのどこがそっけない?
理解不能だ。都子にとって、千彰は猛突進してくるイノシシのようなものだ。自分の感情を真っ正面から相手にぶつけ、かっこいいってよく言われるだとか好きだとか超好きだとか、優しい天使みたいな子だとか、とにかくすごい台詞をおくびもなく口からはき出す。にわかには信じられない。
「だからね! わたしは都子を許せないのよ。千彰くんがあんなに一生懸命なのに都子ったらあっさりしちゃってさ」
「いや、だって……」
「だって?」
「わたし、ファンでも何でもないし、あの人のことよく知らないし……」
「これから知ってけばいいでしょ!」
「う、うん……だから、友達、ね」
あんな人とちゃんとした友達になれるかも謎だが、告白されるよりはだいぶましだ。由美の勢いに乗せられてこくこくと頷いた都子は心の中だけでため息をついておいた。
「……どうしよう」
「え?」
そのとき突然、都子と由美の会話をただ傍観していた利恵が言葉をもらした。意味がよく分からなくて疑問を顔に表すと、利恵はちらりとこちらに目を向ける。
「明日から、都子、津田くんファンたちからいじめられたりしちゃうのかな? わたし、都子のこと守りきれる自信ないよ……」
「はあ?」
利恵の言葉に由美は理解不能だと言わんばかりに口元を大きく歪めた。
「そんなことするわけないでしょ」
「うん、由美ちゃんはそうかもしれないよ? でも他は分からないでしょ……さっきだってすごい睨まれてたし……」
「あー、大丈夫だと思うけど」
考えるように宙を見据えた由美は、言葉を探すように視線をさまよわせた。
「千彰くんって、強いんだよね」
「は?」
いったい何がどうなってそういう話になるのか分からず、都子は利恵と一緒になって惚けた表情を作った。
「喧嘩、強いの。ほら、千彰くんってきれいな顔してるでしょ。どっちかっていうと中性的な顔立ち。今は成長して、うーん、なんていうのかな、男らしくなったっていうかものすっごくかっこよくなったじゃない。でも中学生の頃とかは女の子に間違われるくらいかわいくて、本人も気にしてたみたいで……。それについてからかわれたりするといっつも喧嘩になって相手を病院送りにしてたって」
「えー!」
大声を上げたのは都子の方だった。利恵は口をぱくぱくさせるだけで声さえももらさない。
「ぜ、全然そんなふうには見えない……」
「でしょー? どっちかっていうと貴公子系だもんね。実際家も結構なお金持ちだし」
うん、と自分の言葉に頷いた由美は、改めるように口を開いた。
「だから、わたしの言いたいことはね。千彰くんってやるときはやるのよ。女の子たちだって妙なことはできないし……都子に何かしたら千彰くんから天罰がくだるのは確実だね」
「でも、相手は女の子でしょ?」
それはないだろうと聞き返すと、由美は小さく首を振った。
「千彰くんってやるときは本当にやるのよ。有言実行、容赦なし、クールなとこがまた素敵!」
「クール~?」
どこがクールだ。
どうやら、都子と由美の間には津田千彰という人間に対する認識に大きな食い違いがあるらしい。
津田千彰。
都子の中で、その存在はますます訳の分からないものになっていた。
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