君の空になる

mimi*

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トモダチ

トモダチ

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 校門前がやたらと騒がしい。今日は週に1度の部活がある日で、帰宅時間が他の生徒たちと重なる日だということもあるが、それにしてもこれは異常だと思う。
 鞄を背負い直した利恵が隣でひょこりとその集団を覗き込んだ。不思議そうに首をかしげる様子から、よく状況が分からないらしい。
「どうしたのかな」
「……さあ」
 さして興味はわかず、都子は空を見上げた。朝持ってきた折りたたみ傘は必要ないらしい。雲はまだ空一面を覆っているが、すっかり雨は上がっている。
「それよりあれどうする?」
「あれ? 何それ」
「音楽のテスト」
「ああ」
 思い出したというように利恵が頷いた。
「他の子も誘って合唱か、合奏か……。ピアノは別に試験があるし……。あ、ピアノっていえば、わたし都子と連弾するんでもいいよ」
「えー」
 にこっと笑んだ利恵に都子は驚いた表情を作った。
「そんなに練習する時間ある?」
「1ヶ月以上先でしょ? 放課後とか結構暇だし、一緒に練習しようよ」
「うーん……」
 連弾、ねえ。
 都子は少しだけ考え込む。
 今回の音楽のテストは実技試験だ。ペーパーテストとは違い、歌、演奏、何をやるのも自由で、ひとりでするのもいいし大勢でやるのもいい。
「もうすぐクリスマスだし……くるみ割りとかやりたいなあ。うちの先生連弾用の楽譜持ってるから譜面買わなくていいし。ね、やろうよ」
 目をキラキラさせ、利恵は期待に満ちた眼差しで都子を見つめてきた。
「……わたしは、別にいいけど」
「やったー!」
「でも連弾なんてここ数年ずっとやってないから合わせられる自信ないよ」
「うんうん、いいよ、全然いい」
 利恵はにこにこ嬉しそうに微笑む。それにつられて都子も笑みを浮かべたが、次の瞬間、それは跡形もなく消え去った。

「千彰く~ん」
 女特有の甘ったるいソプラノ声。いや、問題はそちらじゃない。声の主の、呼んだ相手が問題なのだ。
 思わずばっと声の発信源に顔を向けると、そこには先ほど訝しげに思っていたあの集団があった。よく見れば集まっているのは女の子ばかりだ。
「どうしたの? 今日は」
「別に。ちょっと、人待ってるだけ」
「ええ、それって女の子ぉ?」
「そうだけど」
 えええ、千彰くんって彼女いたのぉ?!
 言葉を合わせたように、周りを囲む女の子達が大声を上げた。

「ね、ねえ、都子。あの声、津田くんだよね? 待ってるって、都子のことじゃないの……?」
「……知らない」
 一気に脱力した。
 疲れた。もう、最高に疲れた。
 昨日あれだけ渾身の一発を放ったというのに彼はまだ懲りてないんだろうか。
「どうするの?」
 うかがうように尋ねてきた利恵に小さく首を振った。
「わたし、知らないもん」
「知らないって……」
「――あ、都子ちゃん!」
 身を翻そうとしたときにはもう声を掛けられていた。わっと群がる女生徒たちは散り散りに分散し、その中から都子の天敵が現れる。
「よかった。反対側の門から出ていっちゃったかもしれないって思ってたから」
 千彰は嬉しそうに微笑む。その笑顔はくらくらするくらいの輝きを放っていて、案の定、周りを見回せば彼を見つめる女の子たちのうっとりした表情が目に入った。
「千彰くんの彼女って都子だったの?!」
 覚えのある声に首をひねればクラスメイトの姿があった。
 慌ててぶんぶんと首をふるもののまったく効果はない。集まった女の子たちから痛いほどの視線を受け、都子は身も竦む思いだった。当事者ではない利恵さえも都子の後ろで身体を小さくしているほどだ。
「違うよ。ただ、俺が都子ちゃんを好きなだけ」
 しょんぼりとした様子で千彰がそんなことを口にした。一気に身体の体温が上昇する。こんなに大勢の人前で、それもおそらく彼のファンであろう女の子たちの前で――顔が赤くなるとともにうっと息を詰めた。女の子たちの視線が鋭い槍となってこちらに降ってくるようだった。
「み、都子、なんてもったいないことしてるの! 千彰くんだよ! 断るなんてとんでもない!」
「ゆ、由美……」
 先ほど声を張り上げたクラスメイト――若狭由美がまたもや余計なことを言い放った。気落ちしたようにしょんぼりする千彰には確かにぐっとくるものがある。ちらりと利恵を見れば、案の定昨日と同じく、哀れみの色を包含した瞳で千彰を見つめていた。

 まずい。
 これは非常にまずい。

「昨日のこと、謝りたかったんだ。今日の朝ホームにいなかったから気になって……本当に、ごめん」
「わ、分かった……」
 こくこくと頷いた。もう昨日のことなどどうでもいいから今はこの状況を何とかしてほしい。
「ほんとに?」
「うん、ほんとほんと」
「じゃあ、俺と友達になって」
「えっ」
 まさかそんなことを言われるとは思わず、都子は素っ頓狂な声を上げた。
「俺のこと、よく知らないっていうから……ちゃんと知ってもらってからまた告白する」
 ええええええ、と再度周りから声が上がった。

 ……どーしよ。

 本気で困る都子だったが、千彰ファンが大勢いる手前、彼の言葉を無下にできるはずもなく。
 動物園のペンギンにでもなった気分で、大勢の視線を受けながら――小さく、ひとつだけ頷いたのだった。

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