【完結】予言の聖王女は覇王を導く

瀬里@SMARTOON8/31公開予定

文字の大きさ
1 / 15

プロローグ

しおりを挟む
 戦の硝煙の匂いは、既に城の最奥《さいおう》のここにまで届いていた。
 部屋に飛び込んできた傷だらけの伝令は、ひざまずき、声を震わせる。

「陛下が……陛下が討ち死にされました」
「なんてことっ」
「ああっ」

 最後まで私のそばに残った忠実な侍女たちは、その場に泣き崩れた。

「王妃様、敵軍がここまで。ここも落ちます。どうかお逃げ下さい!」

 必死にすがる侍女に私は首を振った。

「私も、この城と運命を共にすべきでしょう。生き残った裏切者の私を、あの冷酷な覇王が許してくれると思う?」

 唇をかみしめる年若い侍女の頭をなでてそう言うと、彼女の瞳にはみるみる涙が盛り上がった。

 かわいい子。
 そんなに私を信じて。

「でも、今ならまだ逃げられます。王妃様、生きてください! 陛下と聖王国の血をつながなければ! 隠し通路で城外へ出ましょう!」

 必死な彼女に申し訳なく思いながら、私は、再び首を振る。

 あの男が、裏切った私を殺しに来る?
 いいえ、知っているわ。
 あの男は、私を来るのよ。
 全てを打ち破って、この私を手に入れるために。

 喜びに満ちあふれそうになる気持ちを私は必死に飲み下した。

「ぐっ」

 次の瞬間だった。
 不意に侍女が血を吐いて床に転がった。
 周りの者たちも次々に倒れていく。

「おう……ひさま……逃げ……」

 忠実な侍女は、最後まで私を助けようとして、そのままこと切れた。

「何事だ⁉ て、敵の策謀か⁉」

 一人残った伝令は、辺りを見回して剣を構える。

「先ほど皆に飲ませた毒が効いてきたのでしょう。お前は、後からここにきたから、飲んでいなかったのね……影、始末して」

 どこからともなく現れた男が、一人残った伝令の首を、背後からかき切った。
 男はすぐに姿を消し、私の周りに生きている者は誰もいなくなった。

 私は、足元に転がる一番かわいがっていた侍女の頬をなでた。

「かわいい子。お前たちを殺した罪は、私が全て負うわ」

 せめて、最後まで私のそばに残った者たちは、私の手で送ってやりたかった。
 私は、血に塗れた手で扉を開けて部屋を後にする。
 私の行く先を遮る者は、もう誰もいなかった。

 重い体を引きずるように城の屋上への階段を上がり切ると、西の砂交じりの風が、私の髪をはためかせた。

 広がるは砂塵の中、城へと押し寄せる騎馬の波。
 夢にまで見た、その光景。

 先頭に立つ、ひときわ目立つ人馬の姿が、徐々に形をなしてくる。

「ああ」

 見下ろす先には、騎馬の王の姿があった。
 頬に感じる涙の理由は、恐怖ではなく、歓喜だった。

 この男は、私がどれほど裏切りを重ねようと、どれほど手ひどく扱おうと、けして私を求めることをやめなかった。

 あなたは知らないでしょう。
 私がその時、どれほどの薄汚れた歓喜に胸を沸かせていたのか。
 私がその時、どれほどの淀んだ後悔に身を苛まれていたのか。

 まっすぐで心地よい、明るい、春の息吹を身にまとったような、そんな男だった。
 人の期待につぶれることも、染まることもなく、自分を貫き通す、強さを持った男だった。

 だからこそ、私は、そんなあなたを愛した。

 ──だからこそ、私は、そんなあなたに私を奪わせるわけにはいかない。

 私は、大きく膨らんだお腹をなでた。

「ごめんね。お母様を許して」

 聖王家の血筋はここで終わりにする。
 この私、最後の聖王女フェイラエールに与えられた予言の成就をもって。


 そして、最後の聖王女は、塔から身を投げた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

処理中です...